52「エンジーの成長」①
エンジーは裕福な家の三男として生まれた。
幼くして治癒士としての才能がわかり、一族総出で喜んだのは言うまでもない。
簡単な治癒を七歳で覚え、十歳になると世間一般の治癒士が必要最低限としている治癒術を覚え、使えるようになった。
両親や親族は大喜び。
エンジーも当時は、快活な少年で、家族に言われるまま治癒を行い、「神童」ともてはやされていた。
友人も多く、婚約の話もたくさん舞い込んでくる。
少女たちから、顔を赤くしてアプローチされて嬉しくないはずがない。
そんなエンジーだったが、増長することなく、知識と技術に貪欲だった。
父にお願いして魔導書を買ってもらい、毎晩読み耽った。
翌日、眠くても、親族の誰かが怪我をすれば治癒を行い、親族の知り合いが困っていると聞けば相手のもとへ行って治癒をする。
友人はもちろん、友人の家族が怪我をすれば、喜んで治癒をしていた。
誰かを助ける力を持っていることを誇らしく、神から与えられたギフトだと思い感謝していた。
――良くも悪くも、エンジーは純粋だった。
しかし、そんなエンジーが衝撃を受ける出来事があった。
家族が、金貸しをしていることを知った。
厳格な父と、厳しくも優しい母が、エンジーを利用し、高額な治療代を請求していることを知った。
お金を受け取っているなどと夢にも思っていなかったエンジーには衝撃だった。
だが、エンジーの不幸は続く。
大切な友人たちが、偽りの友人だったと知った。
エンジーの友達だから家族が無償で治療してもらえる。
知り合いをエンジーに無償で治療させ、金稼ぎをしていた。
好意を抱いてくれていた少女たちが、婚約を申し込んでいた家が、すべてエンジーではなく、「治癒士」を求めていただけだった。
エンジーは、今まで信じていたものが壊れていく音を聞いた気がした。
せめて、両親だけでもエンジーをひとりの息子として受け入れてくれていればよかったのだが、「エンジーは金のなる木だ」と両親が笑っているのを聞いてしまったのだ。
兄弟姉妹の結婚話も、エンジーが治癒士になることが決まっているから決まったらしい。
エンジーは、治癒士になることが夢だった。
今は、治癒を使えるだけの人間だが、いずれはたくさんの人を救いたいと夢を抱いていた。
――しかし、エンジーの心は折れてしまった。
人が怖くて目を見ることができない。
人を信用できない。
人間不信になってしまったのだ。
エンジーはそんな自分が情けなくなり、化粧をし、別の人間になろうとした。
奇抜な人間になれば、誰も近寄ってこないと思ったのだ。
目だって合わせなくて済む。
これが正解だと、考えていた。
――しかし、レダ・ディクソンと出会ったことで、その考えを改めることとなった。




