50「テックスとナオミ」
「テックス! 無事なのか!?」
モンスターを斬り捨てながら、ナオミはテックスの元に辿り着いた。
ナオミの視界の中には、血まみれになりながらも剣を握り、今にもモンスターの餌になりそうなテックスの姿が見えた。
かぁ、っと頭に血が昇るのがわかった。
「――テックスを離すのだっ!」
聖剣を振るうと、モンスターだけが吹き飛んだ。
血を流すテックスがゆっくり地面に倒れる。
「――テックス!」
聖剣を離し、ナオミはテックスの身体を受け止めた。
「大丈夫なのか!?」
「よ、よう、ナオミの嬢ちゃん……助かった、ぜ」
「……遅れてごめんなのだ」
ここにくるまでの間、数人の亡骸を見つけている。
誰も彼もナオミの友人だった。
共に酒を飲み、武器の話をして、勇者の冒険譚を話してくれと言った気さくな友人たちだった。
「ナオミの嬢ちゃんが、気にする、ことじゃねえ。俺を含めて、みんな、仲間のために、戦った。悔いは、ねえんだ」
「だけど!」
ナオミは大粒の涙を浮かべた。
だが、流すものかと、袖で目元を拭う。
勇者は神様ではない。
万能なんかではないのだ。
近くにいる者だって守れない、ただの人間なのだ。
「だけど、ナオミ嬢ちゃんが来てくれて、助かったぜ。俺も、メンツが、ある。モンスターのクソになるのは、レダにも、ティーダ様にも、申し訳ねえ」
テックスは折れかけた剣を地面に刺し、杖代わりにして立ち上がる。
「……モンスターどもは一通り潰したが……」
「まだ遠くから来るのだ」
「……だろうな。なにが起きたのやら……ったく、しばらく平和だったっつーのに」
咳き込み血を吐き出すテックスの背中をナオミがさする。
「だが、時間はある。そうだろ?」
「丸一日くらいは問題ないのだ」
「……よし。まだ立て直せる。せっかく何年もかけて大きくしたアムルスを、潰されて、たまるかってんだ」
テックスのように何年もアムルスにいるわけではないナオミだが、それでも愛着がある。
ずっとみんなと一緒にアムルスで暮らしていたい。骨を埋めたいと考えていた。
そんなアムルスを潰されるのは、ナオミとしてもごめんだ。
「ナオミ嬢ちゃん、肩貸してくれ」
「うん」
「大丈夫だ、ティーダ様に、報告して……一日あるなら、対応できる。そうだろ?」
そこまで言って、テックスの身体から、がくん、と力が抜けた。
「――テックス!?」
ナオミは悲鳴を上げたが、テックスは事切れたのではなく、気を失ったのだと確信し、安堵の息を吐く。
「待っているのだ。アムルスにすぐ連れて行ってあげるのだ」
アムルスに戻れは、レダがいる。
テックスは元気になる。
そう確信し、ナオミは聖剣を拾い、テックスを担いでアムルスに急いだ。




