47「冒険者ギルド職員」
往診を終えたレダたちが、診療所に戻ろうとしていると、冒険者ギルドの職員がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
冒険者ギルド職員とは、付き合いこそ短いが何度も顔を合わせている。
治癒士と冒険者ギルドが不仲な場合が多いが、アムルスでは友好関係を築き協力関係である。
「……レダ先生」
アメリアが緊張した声を出した。
エンジーも声を出さずに動揺している。
「わかっているよ」
レダも緊張気味に、職員に向かう。
何度か冒険者ギルド職員に呼び出されたことがあるが、職員の女性の顔は今までとは違う。
明らかに、まずいことが起きている。
事情を聞いていないにも関わらず、そんなことを考えてしまう。
レダは首を横に振った。
決めつけはよくない。
悪いことを考えるな、と。
「ジェイミーさん」
「レダさん! 大変です!」
彼女の慌て具合と、大きな声に、レダは嫌な予感が当たってしまったことを確信した。
「落ち着いてください、ジェイミーさん。治癒師が必要なんですね? 事情は冒険者ギルドに向かいながら」
「は、はい」
レダたちは小走りに冒険者ギルドに向かう。
ここまで走ってきた冒険者ギルド職員――ジェイミーは息を切らしているが、気にかける余裕がなかった。
「どうしましたか?」
「フィナさんだけでは手が足りません!」
「……なにが起きているんですか?」
冒険者ギルドで荒事を経験しているジェイミーがこれほど慌てているのは珍しい。
レダは落ち着いてとはあえて言わず、知りたいことだけ尋ねる。
「――モンスターの群れがアムルスに向かっています」
「……どういう意味ですか?」
午前中に、最近、モンスターが少なくなったと聞いたばかりだ。
「わかりません! ですが、今までいなかったモンスターが急に現れ、アムルスに向かっているんです!」
「……なんてことだ」
モンスターの数が減ると災厄が起きるというジンクスがあるが、まさか本当に災厄が訪れるとは思いもしなかった。
「アメリア!」
「はい!」
「診療所に戻って応援を! 診療所を空にしてもいいから、とにかく冒険者ギルドに!」
「わかりました!」
走っていくアメリアを見送り、レダたちは冒険者ギルドに急ぐ。
診療所を訪れる七割の患者が冒険者だ。
街の中でも怪我はするが、やはり冒険者ほど怪我をする職業はない。
もともと診療所と冒険者ギルドは近い。
ならば、診療所を空にしても大丈夫だと判断した。
もちろん、冒険者ギルドに治癒師がいることは張り紙すべきだ。
「エンジー、君は俺と一緒に」
「わ、わかりました」
「君も戦力になってほしい。人見知りであることはわかっているけど、そんなこと言っていられないかもしれない!」
「……はい!」
エンジーもここで泣き言を吐くことはしない。
覚悟を決めた顔でレダと共に冒険者ギルドへ走った。




