72「レダの向上心」
「いやぁ、疲れた疲れた」
五人の面接を終えたレダは、浴室を借りてすっきりすると、夜風に当たって今後のことを考えていた。
「ユーヴィンはなんとかなるかな。犠牲者が出てしまったし、行方不明者もいるけど、ティーダ様やアマンダさんにその辺りは任せるしかない。でも、大丈夫。この街は立ち直る」
犠牲者はいた。
治せない者もいた。
奪われた命もあった。
踏みつけられた尊厳もあった。
もっと早く何かできなかったのか、と思う。
だが、レダ以上にそう思うティーダが我慢しているのだ。口にせず、ただすべきことをすると決めている友人を前に、レダは「もしも」や「こうしていれば」という「もしも」を口にすることはできない。
「――人生って不思議だ。俺があの日、アムルスに行くことを決めなければ、ミナたちに出会うことはなかったし、恩人のローゼスを救うことはできなかった」
運命という言葉はあまり信じていないが、そういうこともあるのかもしれないと苦笑する。
「……俺も、これからのことをしっかり考えないとな」
レダは、現状に満足している。
幸せだ、と断言できる。
可愛い娘と素敵な妻。家族と友人にも恵まれている。
これ以上望むことは贅沢だと考えていた。
しかし、弟子を取ることとなった。
ひとりは今後次第だが、きっと面接した四人が弟子となるだろう。
治癒士を目指し、頑張ってきた人たちに対し、レダは恵まれた才能を活かして生きる術としていただけ。
人を救うことに躊躇いはない。
たとえ金がないと言われても、そこに治癒が必要な人間がいれば躊躇うことなく治すだろう。
――だが、それは人としての在り方であり、治癒士の在り方ではない。
「俺ももっと向上心を抱いて歩んでいこう。もっとたくさんの治癒術を覚え、もっともっとたくさんの人を救おう」
きっと弟子となる治癒士たちから学ぶことは多いだろう。
――レダ・ディクソンは、そのことがとても楽しみだった。
ユーヴィン編ももう少しで終わりです。
アムルスに戻れば次のイベントがありますので、お楽しみに!
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