21「ダンジョンの存在」③
「……ルナ。それはちょっと」
「お姉ちゃん」
「ルナちゃん、さすがにそれは」
「ルナ……意外とがめついわね」
レダ、ミナ、ヴァレリー、アストリットがジト目をルナに向けた。
「い、いいじゃない! 飼い猫のものはご主人様のものよ!」
「うむ。ディクソン家は子沢山になる予定なので金はいくらあってもいいな!」
ルナだけではなく、ヒルデも魔王の遺産をもらうことは賛成のようだ。
「あはははははは! 魔王は私がぶっ殺したから、権利は私にあるのだ!」
ナオミも負けずに権利を主張する。
「ちょっと、あんたもディクソン家でしょぉ!」
「そうだったのだ! じゃあ、魔王のものはすべてレダのものなのだ!」
「……敗北した身なのでどうこう言うつもりはないが。勇者のものになるのなら、レダのものになったほうがいいだろう。ぜひご主人のお小遣いをアップしてくれることを願う」
「願いが小さいわねぇ」
驚くだけ驚いたディクソン家一向は、いつもの調子を取り戻していた。
だが、そのノリについていけない者がいた。
マールドだ。彼は、膝をつき、項垂れていた。
「……ははは。なんだそれは、それなら、なんのために冒険者たちは」
ノワールの正体を知ったわけではないが、レダたちが受け入れている姿を見て、話が本当なのだろうと察した。ならば、今まで冒険者たちが身を犠牲にして探していた意味はなんだったのか、とやりきれないのだろう。
ベニーの野望は潰えたが、利用された冒険者たちがあまりにも報われない。
「ていうかぁ、冒険者ってそんなもんじゃない? 言いたくはないけどぉ、負傷した冒険者だって自己責任よぉ。怪我をして冒険者できません、とか言われても欲に目が眩んだのが悪いんじゃない」
「……ルナ。それはそうだけど、言い過ぎだよ」
言いたいことをはっきり言うルナにレダが苦い顔をする。
レダも冒険者であった以上、実力に見合わない依頼を受けたことがあるので耳が痛い。
名誉を考えた事はなかったが、金のために死にかけたこともあった。もっとも、レダの場合は、そのことを教訓として身の丈にあった依頼を受けることに徹底したが、自己評価が低かったせいでお世辞にもいい仕事にはありつけなかった。皮肉なことに、そのおかげで大きな怪我もなくこうして生きている。
ユーヴィンの冒険者たちも、引き際を見誤った者が多いのだろう。
ダンジョン発見者は名前が残り、ダンジョン攻略者となれば英雄扱いだ。冒険者なら、誰もが「自分が!」と思うことはある。
せめてまだ引き返せるうちに、他の仕事ができるうちに、ダンジョン探しをやめていれば取り返しがつかないところまで行かなかっただろう。
(いや、ギルド長がダンジョンを探すために無茶をさせているのなら、引きたくても引けない人もいただろうし、甘言に惑わされた人もいるんだろう)
ルナの言う『自己責任』であることには間違い無いだろう。
ただ、ギルド側が冒険者たちに対するフォローをしたとは、ユーヴィンの惨状を見る限り思えない。
「レダ。私の遺産を君たちに譲ることにはなにも不満はない」
「……ノワール?」
「だが、ダンジョンの所有権とダンジョン内の物は……ローデンヴァルト辺境伯に任せるのはどうだろうか?」
「ノワール殿! それは、それは本当にいいのでしょうか!?」
ノワールの提案に、ティーダが飛びついた。
ダンジョンがいくらローデンヴァルト伯爵領にあったとしても、魔王の管理していたものを我が物顔で手に入れることができるほどティーダは厚かましくない。
というよりも、そんなことをしようとして元とはいえ魔王を敵に回したくなかった。だが、他ではない魔王からダンジョンを任せてくれる可能性を告げられ、食いつかないはずがない。
「弱みに漬け込むようだが、ダンジョン発見、そしてダンジョン周辺の管理などの面倒なことをすべてローデンヴァルト辺境伯で行い、収益も取るといい。ただし、一部をディクソン家に――」
「承知した」
「ティーダ様!?」
即断したティーダにレダが驚きを隠せずにいる。
ノワールは、満足げに頷いた。
「ならば、話は決まった。君も、元魔王、勇者、すぐれた治癒士を相手に反故にする事はないだろう」
「もちろんです。きちんとした書面で残しましょう」
「物分かりの良い当主でよかった。では、さっそくダンジョンへ行こう」
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