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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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14「ユーヴィンの現状」②





 ユーヴィンの街にあるローデンヴァルト邸にたどり着いた一同を待っていたのは、落書きをされ朽ちた屋敷の壁だった。

 暴言や誹りを書かれ、武器で傷つけられたと思われる亀裂もある。

 住民の不満が溜まりに溜まっているのは、察するまでもなく見て取れた。

 屋敷の中に押し入らないのは、最低限の兵がいるからか。それとも、ギルドが実権を握っている街で、名ばかりの貴族を相手にしても無駄だとわかっているからか。


 警戒を見せる兵に、ティーダの名と身分を明かし、門を開けさせる。

 屋敷の玄関は、兵が開けるのを待ちきれずにティーダ自身が蹴破るように開けた。

 そして、ティーダが来ることを伝えられていたマールドと思われる、二十代後半の青年が顔を出すと、


「貴様はなにをしていたのだっ!」


 今まで堪えていた怒りが爆発したティーダが、有無を言わさず殴り飛ばした。

 よほど激昂しているのか「ふー、ふーっ」と獣のように荒い息を吐くティーダを、左右からレダとテックスが、落ち着くように肩に手を置いた。


「……すまない。冷静を失ってしまった。大丈夫だ、これ以上馬鹿な真似はしない」


 呼吸を整えたティーダからそっと手を離す。


「あたし的にはぁ、半殺しくらいに痛めつけてもいいと思うけどぉ」

「お嬢さん。彼にはしたくてもできないのだから、言ってあげないのが優しさだよ」

「はーい」


 ルナが一発だけで気を沈めたティーダに不満そうな顔をしていたが、ボンボおじさんに窘められてそっぽを向く。

 レダでさえ、ティーダが殴らなかったら、殴っていたかもしれないほど、この街は酷かった。


 屋敷に来る途中、物乞いすらいなかったのだ。

 どうせしても意味がない、無駄だとわかっているから、誰も言わないのだ。

 道に寝転ぶ人々の目には絶望しかなかった。


 対して、そんな住民を汚物でも見るような目を向ける住人もいた。

 屋根の下で暮らし、まともな生活をしている人間も多くいたが、他人を助けようとは思わないようだ。

 中には、あからさまに裕福だとわかる身なりのよい人間もいたが、やはり困っている人に手を差し伸べようとは思っている様子がない。


 だが、これはユーヴィンが特別なわけではない。

 レダがかつて、うだつの上がらない冒険者だった頃滞在していた王都でも浮浪者は見かけたし、孤児もたくさんいた。

 彼らに手を差し伸べる人間はわずかであり、その手だって不信がって避ける者も多かったのだ。

 親類縁者でもない人と人が助け合い生きているアムルスのほうが、世間一般からすればおかしいのだ。


「マールド。この街の現状を放置したこと、私に報告を怠ったこと、すべて許しがたい。できることならこの場で切り殺したいが、我慢しよう」

「……ティーダ」


 実際、ティーダは、マールドを切り殺してしまわないように剣をテックスに預けていた。

 殴り飛ばしはしたが、それだけで済んでよかった。


「貴様は悪い人間ではないことを知っているつもりだった。従弟だが、それ以上に友人でもあった。だが、なんだ、これは! なんだ、このユーヴィンの現状は!」


 倒れるマールドの胸ぐらを掴み、ティーダが怒りに震える。


「少なくとも、一年前はここまでではなかった! 問題は多くある街で合ったが、これほどではなかったはずだ! たった一年で、なにが起きた!」


 ティーダの剣幕に気圧されながら、観念したのか、それとも話すことを覚悟していたのか、マールドは抵抗せず口を開いた。






本日14日、コミカライズ5巻が発売となります!

何卒よろしくお願い致します!

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