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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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エピローグ2「憧れの人の現在」




 アムルスから少し離れたところに、ユーヴィンという小さな街があった。

 王都と辺境を経由する大事な街のひとつであり、ローデンヴァルト伯爵家の領地内の端にあった。

 多くの人が行き交い、小ながらも栄えた街でもあった。

 そんなユーヴィンだが、いくつかの問題も抱えていた。


 ひとつは、人の行き来が多いからこそ、犯罪者も多数出入りしてしまうということ。

 ひとつは、運送する物資や、行き交う人々を狙って野盗が後を立たないこと。

 ひとつは、未開発な場所が周囲に多いせいでモンスターの数が多いことだ。


 ゆえに、ユーヴィンにはアムルスに負けない冒険者がいる。

 ただし、冒険者と犯罪者を曖昧なあらくれ者も多く、喧騒が絶えない賑やかな街だった。


 ローデンヴァルト伯爵家当主ティーダ・アムルス・ローデンヴァルトは、そんなユーヴィンを信頼する従弟マールド・ローデンヴァルトに任せているのだが、可もなく不可もなくという感じだった。

 小さな町ではよくあることで、街を取り仕切る貴族よりも、冒険者ギルドのほうが力があるというだけ。

 だからと言って、ローデンヴァルト家がないがしろにされているということはない。

 ただ、アムルスのように街の人々と貴族の接点が最小限であり、頼られているのも冒険者ギルドであるという感じだった。


 しかしながら、マールドはティーダのように積極的に民と交流し、街の発展のために汗水流したいタイプではなく、自分の仕事以上のことはしたくないという人物だった。

 悪事を働くのではなく、賄賂を受け取るわけでもなく、傲慢な振る舞いもしたことがないのだが、やや事なかれ主義なところもあった。

 結局、冒険者ギルドを信頼しているので街は任せた、という結論の人物だった。


 実際、マールドが先頭に立って運営するよりユーヴィンは活気付いているのだが、大きな問題以外にも、小さな問題も山積みだった。

 その最大なのが、小規模ながらスラムがあることだ。

 どの街にも大なり小なりあるが、ユーヴィンでは怪我をして仕事がなくなった冒険者や、冒険者の親を失った孤児が多いのだ。


 ティーダも解決すべき問題として認識しているが、アムルスと距離があるため、マールドにいくつかの指示をして任せているのが現状だった。

 マールドもティーダの言葉を無視しているわけではなく、ギルド長と話し合いを設けているのだが、スラムの人々の対処は決して簡単ではなかった。

 次第に、スラムの人間も増えており、頭を抱えるひとつの問題となっているのだが、野盗やモンスターという大きな問題を前に、どうしても後回しになっているのだ。

 被害など、せいぜい食べるものほしさに窃盗があるくらいだ。


「姉御! 姉御!」


 ユーヴィンのスラムの一角に、住人がいなくなって数年が経つ埃臭い建物があった。

 その中に、ひとりの少女がいた。


「姉御! パンを盗んできましたよ! 食べてください!」

「……いら、ない」


 少女の声に弱々と反応したのは、三十ほどの女性だった。

 少女も女性も、ひどく汚れており、匂いもするが、すでに嗅覚が麻痺していてきにならない。

 なによりも二人を悩ませていたのは、空腹だ。

 どちらも、まともに食事をした記憶がほぼないのだ。


「食べてください! アムルスってとこまでもう少しですから! このままじゃ、姉御の体力がなくなっちゃいます!」


 少女の訴えに、小さく女性は笑ったが、結局盗んできた食べ物を口にせず眠ってしまった。

 おそらく体力が落ちているため、起きていられないのだろう。

 だが、なによりも深刻なのは、空腹ではない。


「あと少しなのに! あと少しで、治癒士のくせにいい奴だなんて狂ったみたいな奴がいる街に辿り着けるのに!」


 少女は涙を流す。


「あたいのせいで、あたいのせいで姉御がこんなになっちゃったのに! あたいは、なにもできない!」


 少女は涙を流しながら、ボロ同然の布で眠る女性の身体を覆った。

 ――女性には、右腕と左足がなかった。


「絶対に、姉御をアムルスに連れて行きますから! 絶対に、元気な身体にしてもらいましょう!」


 少女の叫びは、残念ながら誰の耳にも届かなかった。





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