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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
六章

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58「エルフとダークエルフ」②




 元魔王で現黒猫のノワールは、屋根の上からレダとダークエルフのフィナの会話を聞いていた。


「嵐の夜に、光に包まれて天から降ってきた赤子か……ふむ。天使の類には見えない。そもそも天界は祝福や守護を授けることがあっても、直接的な介入はしないはず」


 髭を撫でながら、レダの出自を考える。

 一緒に暮らすようになってまだ短いが、レダ・ディクソンは特異といえる性質を持っているように思えた。

 恵まれた魔力、簡単に魔術を習得してしまう才能、覚えたての魔術を手足のように使いこなし応用してしまう柔軟性。

 レダほど魔術師に向いている人間はいないだろう。

 ただし、性格は甘く、お人好しなため、戦いには向いていない。

 その証拠に、彼は攻撃魔法を取得しても極力使わないようにしている。それが意識的なのか、無意識なのかまではノワールにはわからない。

 彼を育てたダークエルフのフィナをはじめ、故郷の村で大切に育てられたのだろう。もし、赤子のレダを保護したのが別の誰かで、彼の力に気づき利用していたらと思うとぞっとする。


「……おそらくレダ・ディクソンは――転移者だろうな」


 かつての自分は、一度死を経験し、別の世界へ生まれ変わった身ではあるのでレダとはまた境遇が違う。

 だが、フィナの言葉から、第一に浮かんだのが「転移」だった。

 なんらかの事故かなにかで、別世界から転移してきたのなら――と、考えてしまうのは、自分が異世界転生や異世界転移という言葉を知っているからかもしれない。

 もしかすると、この世界のどこかでレダを育てられず別の場所に泣く泣く転移した可能性もある。

 劣悪な環境下ではあることだ。もっとも赤子を転移させる能力があるのなら、自分も一緒に逃げるだろうが。


「考えてもしかたがないか。調べる必要もないだろう」


 時間をかけて調べれば、なんらかの答えが見つかる可能性があるが、それをする理由が見つからなかった。

 今のレダ・ディクソンには安定した職と大切な家族が存在する。

 魔術を悪用するような人間でもない。

 今更過去をほじくり返す必要などないほど、彼は幸せだった。


「レダはレダでいればいい。かわいいご主人と家族たちに囲まれて、慌ただしく毎日を笑顔で過ごしていればいいのだ」


 ルナとフィナに両腕を抱かれ、ミナに白衣を引っ張られて診療所に戻るレダをノワールは優しく見守った。


「できれば私にも可愛い奥さんが欲しいところだが、この身体では難しそうだな。いや、雌猫と家庭を持つのもありか……」


 そんなことを考えながら、元魔王の子猫は屋根の上に寝転がり昼寝を始めるのだった。






 ――お義母様!





「ここがレダの職場なのねぇ」


 診療所を見渡すフィナは、尖った耳をぴこぴこと揺らしながら興味深げにあちらこちらに視線を向けている。

 すでにレダは仕事に戻って一緒にはいない。

 ミナもレダの手伝うために、診察室にいる。

 残されたのはルナだけだ。


「……気まずいんですけど」


 ルナがそう呟くのは無理もない。

 顔見知りが多い、診療所で褐色の肌と尖った耳を持つ美少女がうろちょろしているのだ。目につかないはずがない。

 さらにフィナはレダの名を何度か口にしているため、関係者だと患者たちも察した。

 今日は軽傷者や、軽い症状の病気、腰や肩の痛みなどの患者が多く、また知り合いと雑談している治療済みの人や、もともと元気な人もいる。

 つまり、待ち受けにいる人たちは、フィナに興味を持つ余裕があるのだ。


「あの、お義母様。よかったら、家のほうでお茶でも」

「あら、お邪魔かしら? できれば、レダの職場をちゃんと見たかったんだけど」

「邪魔ってわけじゃ」


 気の強いほうだと自負しているルナも、愛する夫の母だといまいちいつも通りに出られない。

 義母であることもそうだが、見た目はあどけない子供だ。なにかとやりづらかった。

 ルナがフィナを母と呼んだことで、患者たちの興味がざわつきに変わる。

 しまった、と舌打ちしたときには、もう患者たちがはっきりとフィナを認識していた。


「……先生の嫁かと思えば、母親とは」「なるほど、先生の趣味の理由がね、うん。よくわかる」「幼女幼女!」「かわいらしいお母様ね」「……レダ先生のパパになりたい」


 いくつかひっかかる言葉があったが気にしないことにした。

 診療の邪魔にならないが、明日はフィナを一目みようと野次馬が来院しそうな予感がする。

 基本的に、怪我人以外も来てもいいようになっており、お茶なども用意されているが、喫茶店ではないのだ。


「困ったわねぇ」


 頬に手を当て、どうしようかしら、とルナは考える。

 義母に嫌われたくないので普段通りに対応できないのが困る。

 フィナも迷惑をかけているわけではなく、邪魔にならないように気にしながら待合室を見ているだけなので、あまり苦言もしたくない。


「……ヴァレリーに丸投げしようかしら。得意そうだし。いや、だめよ。パパの最初の奥さんとしてお義母様から気に入られないと。実家の味とか教えてもらいたいし」


 ルナが意気込んだ時だった。

 診療所の裏手から、ヒルデが慌てたように現れた。


「ルナ! レダのお母様がいらっしゃったと聞いたがどこにいる? ご挨拶をしたい!」

「あんたね、院内ではお静かに、でしょ」

「……おっと、失礼した。それで、お母様はどこに」

「ここよー」

「ん?」


 どこから聞いたのか、ヒルデはフィナに会いに来たようだ。

 周囲を見渡すヒルデに、ルナが指差し、フィナが手を上げる。


「――――――」


 ヒルデはしばらくフィナを凝視すると、目を丸くして大声を上げた。


「なでこんなところにダークエルフがいるのだ!?」





 ――




「うっさい! ちょっと、外にでましょ」


 ヒルデの大声が診療所の外まで響いてしまったので、このままではよくないと判断したルナが、ダークエルフとエルフの腕を掴んで診療所の裏手に出る。


「あのね、診療所で大声出したらパパにまで聞こえるし、迷惑がかかるでしょ!」

「す、すまん。だが、びっくりもする! エルフ以上に引きこもりなダークエルフがまさか人間の町にきているどころか、レダのお母様だというのだぞ!」

「引きこもり癖はお互い様よね」


 慌ててルナに弁解するヒルデに、フィナが笑った。


「……そういえば、エルフ以上にダークエルフって聞かないわね。物語とかには出てくるけど」

「だいたい、悪者が多いぞ! 実際、ダークエルフは厄介な一族だ」

「そうなの?」

「エルフのように自然に溶け込むことで周囲との縁を断ち切るのではなく、魔法を駆使して他者を排除する過激な一族だ」

「そんなこともあったねー」


 ヒルデの言葉にルナはぎょっとした。

 見た目が幼い少女が、いや、それ以上にあのお人好しで優しいレダを育てたダークエルフが、魔法を使い他者を排除するような種族だとは思っていなかったからだ。

 しかし、フィナは否定しなかった。つまり事実なのだろう。


「私たちエルフも人間と関わったり、隠れたりと忙しかったが、ダークエルフはどちらかというと人間よりも魔族と関わりが深かった種族だったはずだ」

「そうなの?」

「そうね。かつては魔王に仕えて人間と醜い争いをしたこともあったわ。エルフとも戦ったわね。魔法に魅入られ、のめり込み、道を誤りもしたけど、なんていうかもううんざりになっちゃってね。だから、他の種族と関わるのをやめて静かに暮らしていたのよ。ときどき、人間が迷い込んできて交流したりするけど、来ようと思って来れるような集落じゃないの」

「パパってどんな場所で育ったのかしら」

「あははははは。村は穏やかで平和なところよ。私を含めて、平和な日々にすっかり染まっちゃったからね」


 ルナは、内心、ここに元魔王がいることを伝えるべきかどうか迷った。

 一匹のニャンコとしてセカンドライフを送っている魔王に、わざわざダークエルフを会わせる必要はないだろうし、その逆もそうだ。

 いらぬ波紋は立てたくない。


「えっと、別にダークエルフとエルフが仲が悪いとかはないのよね?」

「うむ。驚きはしたが、戦争中でもあるまいし、いがみ合うことはないぞ。それに、レダのお母様なら、私にとってもお母様だ。いらぬ争いは避けたい」

「私も娘になる子と喧嘩はしたくなわねー。もっとも、まだレダの嫁として認めたわけじゃないけどね!」


 ついにきた、とルナは苦い顔をした。

 レダの母であるフィナが自分たちをまだ嫁として認めていないとわかっていた。

 ここからが正念場だ、と真っ直ぐ幼い姑を見つめた。

 しかし彼女は笑みを深めて、いたずらっ子のように笑った。


「なーんちゃって。嘘よ、嘘。私に知らせずに結婚しちゃったのは寂しいけど、可愛い息子のお嫁さんをいじめたりしないわよー」





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― 新着の感想 ―
[良い点] 六章 58「エルフとダークエルフ」② 更新ありがとうございます。 [気になる点] フィナも掴み所がない感じですね。 [一言] 次回の更新も、楽しみにしております。
[一言] あ、前半既視感w でも続きが読めてよかった
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