47「とある女性たちの反応」①
「そろそろ私たちの出番だと思うのですが」
「――なにを言っているのだ、お前は?」
聖女ディアンヌが難しい顔をして、そんなことを言うと、一緒に酒を飲んでいたエルザが眉を顰めた。
「急にどうなさいましたの?」
おかわりのお酒をトレイに乗せて現れたのは、アンジェリーナ。
娼館で働く娼婦だが、彼女を相手にできる人間はそうそういない。
普段は、客がいなくとも娼館で女性たちの面倒を見ている彼女だが、非番のため最近交友関係にあるエルザとディアンヌと飲みにきていた。
三人がいる酒場は、働く女性たちのために引退した女性冒険者がはじめた場所だった。
女同士で騒ぎたい日もあるし、男の目を気にせず酒を飲む日があったっていいだろう、という考えで作られた。
ちなみに、男性だけの酒場というのもこの街に存在する。
要は、男も女も異性の視線を気にせずはしゃぎたい日もあるということだ。
「いや、なんだ、ディアンヌが急に自分の番だとよくわからないことを言い出してな。まったく、ワインの一杯でもう酔ったのかと呆れていたところだ」
「まあ、ディアンヌ様はお酒には強かったはずですが?」
ウイスキーが入ったグラスをアンジェリーナから受け取ったエルザは、優雅にグラスに唇をつけた。
辛い過去を持ち、殺伐とした日々を送ってきたエルザは、冒険者としても名を轟かせており、結構な貯蓄を持っていた。
ただ、金を使うことをよしとせず、また使い方もわからず、自身の装備を整えるくらいと食事程度にしか金を使わなかったのだ。
しかし、最近では娘と再会できたことと、今まで恐怖の対象だった人間の死によって心が解放され、日々の暮らしにゆとりができた。
娘と食事に行き、ときには友人と酒を飲む。
今までしたことのなかった普通の日々を楽しんでいるのだ。
「わたくしは酔ってなどいません! ただ――」
「ただ、なんだ?」
「レダ様が素敵な奥様たちを娶られたので、ぜひわたくしたちもお仲間に入れてもらえないかと」
「……酔っているじゃないか」
「ですから、酔っていません!」
アンジェリーナからお代わりのワインを受け取り、ぐびぐび飲む姿はとてもディアンヌが聖女だとは思わないだろう。
そんな彼女に苦笑しつつ、アンジェリーナも席につく。
こうして三人で飲むことは珍しくない。
なにかと気があうこともあり、お酒の席だけではなく、食事もいくし、日常の他愛ないはなしから相談まで気軽にできる友人関係だった。
「しかし、意外だな。ディアンヌがレダに惚れていたとは」
「いえ、そうではなく、ミナの父親ならばわたくしの夫であるべきと思うのです」
「……どうすればそのような結論に達するのだ」
エルザは呆れ、酒を口に含む。
「そもそも、わたくしに愛や恋などわかりません。かつて、ミナを授かったとき、あの男に抱いていた感情が本物だったのかさえわからなかったのに、今更……」
「……ディアンヌ」
「というかですね! 今まで頑張って聖女してきたんですから、そろそろ人並みに幸せになってもいいじゃないですか! 私は素敵な旦那様ができて幸せ! ミナも大好きなパパとママが一緒になって幸せ! ほら、大円満です!」
「レダの感情が一切含まれていないではないか」
やはり酔っているな、とエルザは確信した。
ただ、飲んだくれの聖女の言うこともわからなくはない。
レダの妻になりたいというのではなく、悪い男にひっかかった経験のあるディアンヌが愛をはっきりとわからないというのは同感だ。
エルザもそうだ。
娘を、家族を愛することはわかっても、男性を愛する感情が不明だった。
エルザもまた、男に弄ばれた境遇ゆえだ。
だが、悲観していない。幸いなことに、可愛い娘がいるし、娘の夫は信頼できる。これ以上望めば文句を言われてしまう、とわかっていた。
「とーこーろーでー、アンジェリーナはどうなのですか?」
「え? ここで私にお話を振るのですか?」
困惑と焦りを浮かべたアンジェリーナだったが、友人たちに自分の気持ちを隠すことなく告げた。
「――もちろん、お慕いしていますわ」
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