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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
一章

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32「エルフの戦士ヒルデガルダ」②

明けましておめでとうございます!

総合日間ランキング10位!  総合週間ランキング3位!

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どうもありがとうございます!




 包帯が解け、少女の焼けただれた肌が露出した。

 が、それも束の間。

 あっという間に逆再生されるように傷が癒えていく。

 赤黒く変色して血を流していた肌が、白い元の肌へ変化していった。


「おおっ、ヒルデガルダの傷が!」


 エルフの長が感嘆の声をあげた。

 無理もない。

 ポーションではここまでの回復は見込まれていなかった。

 すでに少女の体には、大火傷をしていた痕さえ残っていないのだ。


「……こんな、馬鹿なことが……私のあの火傷が、こうもあっさり。貴様は何者……」


 傷ひとつ残すことなく回復したヒルデガルダが驚愕の眼差しでレダを見た。


「できる範囲でしっかり説明するから、今は体を休めて。怪我は治したけど、まだ熱もあるんだから」

「……私を、子供扱いするな。三百年、生きている……大人だ。貴様など、私にしてみれば、赤子のようなものだ」

「それでいいから、今は目を瞑って。さあ」


 今までずっと消耗していた体力まで回復したわけではない。

 超常的な回復には、体力も少なからず奪われていたこともあり、少女は意識を保つのも難しくなって目を閉じてしまう。


「あとで……絶対に説明させる……からな」


 ヒルデガルダは、そう言い残して寝息を立て始めた。

 レダを含めた一同は安堵の息を吐き出した。

 とくに長とクラウスは、集落一番の戦士が命の危機を脱したことに胸をなで下ろしていた。


「お客人よ……いいえ、レダ・ディクソン殿。ヒルデガルダを癒していただきまして感謝いたします。あなたとご息女は恩人として扱わせていただきたいのです……しかし、今はあなた方をもてなす余裕がこの集落にはありませぬ」

「気遣わないでください。俺たちはあくまでこの集落の助けになるために来たんですから」

「感謝致しますぞ」

「ついで、なんて言い方をしたら怒られそうですが、俺にはまだ魔力が余っています。もし、ご迷惑じゃなければ他の負傷者の治療もさせてください」

「なんと! よろしいのですかな!?」

「レダ……本当に頼んでいいのか?」

「もちろんだよ。な、ミナ?」

「うん! レダ、がんばってね。わたしもたくさんおてつだいするから!」


 感謝します、とエルフの長とクラウスが頭を下げた。

 そこからのレダたちの行動は早かった。

 収容されている怪我人の中でも重傷者を中心に回復魔法を次々に施していった。

 ポーションが行き渡らない負傷者や、完治しなかったエルフたちも、目につけば片っ端から癒していった。


 集落のエルフの大半が人間であるレダとミナを警戒していた。

 無理もない。どうやら久方ぶりの人間らしい。

 しかも、前回、集落を訪れた人間は人攫いだったという。

 警戒されるのも無理はないとレダは苦笑いを浮かべつつ、ならば信頼は勝ち取ろうと懸命に回復魔法を使い続けた。


 その姿は、自分の力を理解できず、おっかなびっくり行なっていたときとは別物だ。

 レダは何人も癒していくうちに、自分の回復魔法がどのような効果をもたらすのか把握していた。

 同時に、底辺冒険者である自分でも、こうやって誰かの役に立つことができるのだと自信をつけていった。


 気づけば五十人以上の負傷者を回復させたレダは、さすがに魔力を消費しすぎて疲労していた。

 だが、そのおかげでもう怪我人はいない。みんな元気になっている。


 活躍したのはレダだけではない。

 ポーションで十分に治療可能だったエルフたちや、回復魔法を受けたあとまだ体力的に不調なエルフたちのため、血にまみれた体を拭うためにお湯で絞ったタオルを配ったりとみんなが手伝った。


 その中にはもちろんミナの姿もあった。

 人見知りのはずの少女が懸命に働く姿は、保護者として感慨深いものがあった。

 少しおどおどしながらも手が足りない人たちを進んで助けるミナは、自慢の友であり、仲間であり、家族だった。


「レダ殿」


 地面に座り込んで休憩しているレダと、彼に頭を預けてうたた寝をしているミナにそっと声をかけてきたのはエルフの長だった。


「まさかすべての負傷者を癒していただけるとは思いませんでしたぞ。このドルド、心より感謝致します」

「いいえ、そんな」

「もう夜も更けました。恩人をこのまま地べたで寝させておくわけにもいきません。ご息女もベッドで眠ったほうが疲れが取れるでしょう。今、クラウスに部屋を用意させております」

「……いいんですか?」

「もちろんですとも。恩人であるあなた方親子をこんな時間に放り出したりなどすれば、わしがみんなに叱られてしまう」


 そう言って苦笑する長ドルドからは、人間への警戒心をもう感じない。

 いや、人間というよりもレダたちへの警戒心が消えて無くなったのかもしれない。

 それは間違いなく、レダとミナが自分たちの行動で勝ち取ったものであり、掛け替えのないものである。


「クラウスの準備が終わったみたいですぞ。さあ、今宵は十分にお身体をお休めください」

「感謝します。おやすみなさい」


 礼を言ったレダに、ドルドは「とんでもない、礼をいうのはこちらですぞ」と深々と頭を下げた。

 レダはミナを抱きかかえて、迎えにきてくれたクラウスと一緒に彼の家に向かうのだった。


「我が家だと思ってゆっくりしてくださいね。ベッドはひとつしかありませんが、大きいのでお二人で眠っても困らないかと思いますわ」

「ありがとうございます」


 クラウスの妻エディートが出迎えてくれたので礼を言い、頭をさげた。

 すでに息子のケートは眠ってしまったようだ。

 聞けば、友達になったミナを待っていたようだが、まだ幼いこともあり睡魔に負けてしまったらしい。

 彼も彼で、集落の人々のために頑張っていたと聞いている。


 ベッドにミナを下ろし、自らも寝そべったレダに、小さな声がかかった。


「ねえ、レダ」

「……起こしちゃった?」

「ううん、うとうとしてたけど、まだねてないもん」


 眠い眼をこすりながら、ミナがレダに抱きつくように体を寄せてくる。


「今日ね、たくさんの人たちをたすけることができてよかったね」

「ああ、本当によかった」

「わたしね、ともだちができたんだよ。ケートとともだちになったの」

「うん。俺もミナに友達ができて嬉しいよ」


 少女に腕枕をしながら、抱きしめ、レダは目を瞑る。

 本当にミナは出会った頃から変わった。とてもいい方向に、だ。

 明るくなり、人と怖がらずに接するようになった。

 友達もできたし、誰かのために躊躇うことなく一生懸命になれるいい子だ。


 ときどき、自分たちの関係を親子だと誤解する人もいるが、もしミナのような子が娘だったら本当に嬉しく思う。

 今は保護者という立場だが、それでも彼女が可愛いのは変わらない。

 今後、自分たちの関係が変化することがあるのだろうか、と思うことだってある。


「きょうのレダ……かっこよかったよ?」

「……ははは、なんだか照れるな。ありがと」

「うん……レダはかっこよくて、たよりになって……それに……」

「それに?」


 言葉途中ですうすうと寝息を立て始めたミナから、それ以上の言葉はなかった。

 かっこよかったと言ってくれたことに喜びを噛み締めながら、レダは今日の自分の行動を振り返り、満足することができた。

 多くの人を救うことができたレダは、間違いなく治癒士としての自信を持つことができるようになった。


 常に傍にいて、勇気付けてくれたミナに心から感謝しながら、レダは少女の小さい体を抱きしめて眠りにつくのだった。




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