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30「エルフの集落」

総合日間ランキング5位! 日間ハイファンタジーランキング3位!

どうもありがとうございます!




 エルフの集落までは荷馬車で半日以上の時間がかかった。

 あっという間に、自分がどこにいるのかわからなくなるほどの深い森の中にいた。

 聞けば、いくつか古の転移魔法を経由したそうだ。

 初対面の人間をあっさり集落に連れて行けるのも、転移魔法の設置されている場所と反応するのがエルフだけだからだという。


(ミナはすっかりケートのペースだなぁ)


 毒から回復し目覚めたエルフの少年ケートは、人間の少女に好奇心が旺盛なのかたくさん話しかけていた。

 自分のことを教えたり、ミナのことを聞いたりと元気だ。

 人見知りのミナは少々気後れしているところがあったが、彼を嫌がっていないことはわかる。

 おっかなびっくりだが、ケートと会話しているのがその証拠だ。


(それにしても……ドラゴンなんてそうそうお目にかかるものじゃないと思っていたんだけど)


 ケートの声が耳に届くため、彼の周辺の事情をつい知ってしまった。

 例えば、父クラウスは弓を得意とするエルフの中では珍しく剣の使い手だという。しかし、それは弓が使えないのではなく、弓以上に剣が使えるというものらしい。

 母エディートは優しく料理が上手で、薬草の調合に長けているという。集落で調合師という役職にあるらしい。


 そんな個々の事情から、集落を襲ったのがブラックドラゴンだということ。

 エルフの中でも武人と呼ばれ尊敬される面々が集団戦で挑むも敗北してしまったこと。

 とくに『ヒルデガルダ様』という戦士の敗北はエルフにとって大きすぎたらしい。さらに、一番の大怪我を負っていながら、他の者たちになけなしの薬を優先させて、自分は今も苦しんでいると言う。


 レダの脳裏に、エルフの女傑が浮かんだ。


「これで最後の転移を抜けるぞ」


 子供たちの話に耳を傾けていたクラウスが、顔を引き締めた。

 レダは、はじめて訪れるエルフの集落への期待と、ドラゴンに関わることへの緊張からわずかに浮かんだ汗を袖で拭う。

 そして、転移魔法の光に包まれたレダたちの前に広がったのは――哀れなほど半壊したエルフの集落だった。


「これは、ひどいな」


 元は緑に囲まれた美しい集落だったのだろう。

 今までレダには見たこともない大木の枝の上にエルフ特有の民家が立ち並んでいるのがわかる。

 木々や枝が道のように伸びており、木の上に住んでいるといったほうが適切かもしれない。

 そんな自然の中に住むエルフたちの住まいも、大木たちも、いたるところが焼け焦げていた。


「……ドラゴンに襲われたのだからこの程度で済んでよかったと思うべきなのかもしれん。私たちが集落を出るときとかわっていないのは幸いだった」


 つまりクラウスたちがポーションの買い付けにアムルスを訪れている間にドラゴンの襲撃はなかったということだ。


「レダ、さっそくですまないが、ポーションでは治らない怪我人のことを頼めるか?」

「もちろん。そのために来たんだから」

「レダ! わたしもいく!」

「ありがたい。ではこちら――」


 荷馬車から飛び降りたレダたちをクラウスが案内しようとしたときだった。


「なにをしているのだクラウスっ!」


 怒号と共に老いたエルフが、怒りの形相でこちらにやってきた。

 老エルフの背後には、武装した若いエルフたちもいる。

 誰もが警戒する目をレダたちに向けていた。


「誰の許可を得て人間をこの里に連れてきた? お前に頼んだのはポーションを手に入れることであって、人間を招き入れることではない! 我が集落の掟を忘れたのか!」

「長! 話をお聞きください。この者は、私の息子の命の恩人です。しかも、回復魔法が使えるのです!」

「――回復魔法だと? つまり、治癒士か?」

「はい。人間の治癒士に関しては悪い噂しか聞いていませんでしたが、このレダは善良な男です。私と家族が保証しましょう」

「……こんなときに人間が、それも治癒士が我が集落を訪れるとはなにかの変化なのかもしれぬな」


 長と呼ばれたエルフは、レダとミナを見つめると、そっと目を細めた。


「失礼した人間よ。我ら集落には人間を許可なく招いてはいけないという掟があるのじゃ。しかし、こんなときに治癒士では、拒むに拒めぬ」

「俺はレダ。この子はミナです。俺たちはただ、エルフたちの力になりたかっただけです。どこまでお力になれるかわかりませんが、どうか治療をさせてください」

「……感謝する。どうか我が集落の戦士を救ってくだされ」


 深々と頭を下げる長に、若きエルフたちも続いて頭を下げていく。

 そんな彼らにレダは力強く頷くのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] エルフが人間に対し高圧的なのは定番だが、 この小説ではまだマシな方か
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