表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/603

2「女の子拾いました」①




「うぅぅ、春が近づいたとはいえ、夜はやっぱり冷えるなぁ」


 王都から辺境の町アムルスまでは、歩いて半月ほどの距離があった。

 幸い、レダは、アムルス近くの町まで、行商を行う商人の馬車にギルドの善意で同行させてもらえた。

 商人もアイテムボックスという希少なスキルを、今回限り利用させてほしいという条件をつけてきたが、お互い様ということで快諾したのだ。


 現在は、商人に好意から提案された町での一泊を断り、アムルスまで三日ほどの場所にある河原でテントを張って夜営していた。


「でも、ひとりって落ちつくな。俺って、こんなにひとりが好きだったっけ?」


 焚き火の前で、夕食の支度をしつつ、独り言を続けていた。

 寂しいとかは感じない。

 むしろ、ひとりでいられることに開放感を覚えていた。

 思い返せば、冒険者パーティーでは目まぐるしく雑用し、恋人との関係はうまくいっていなかったので、こうして野営とはいえのんびりできたことなどなかったことを思い出す。


「ちょっと奮発して、商人さんからもらった厚切りの肉を焼こうかな」


 アイテムボックスはとても便利なスキルで、生肉を保管しても腐ることはない。

 鮮度を保てることはかなり貴重であり、レダのスキルを知った商人は大量の生物を収納してくれと頼んだことは記憶に新しい。


 スキレットを取り出して火の上に置くと、オリーブオイルを多めに引いていく。

 十分に熱が伝わったタイミングで、塩胡椒で軽く味付けした肉をスキレットで焼き始める。

 ちゅわぁあああああっ、と食欲をそそる音がした。

 肉の焼ける香ばしい匂いが鼻腔を擽りお腹を鳴らせる。

 早く食べたいという気持ちを必死に抑えて、他の料理に取り掛かる。


 町で購入しておいたパンを適度な大きさに切り分け、皿へ並べた。

 小さな鍋を取り出して、一口サイズに切り揃えた根野菜をミルクで煮込んで塩と胡椒で味付けする。

 ぐぅ、という音がした。


「ん? 今の俺じゃないぞ?」


 反射的に腰のナイフに手を伸ばし、周囲に神経を配る。

 誰かがそばにいるのか、もしくは腹をすかせたモンスターか。

 戦闘に自信がないレダに緊張が走る。


「だ、誰かいるのか? 出てきてくれ」


 一応、人間であることを願って声をかけてみた。

 すると、


「…………」


 離れた茂みの中から、ひとりの少女が現れた。


「女の子?」


 まだ十歳ほどの小柄な少女だった。

 月明かりが彼女の白い肌と、汚れくすんでいる癖のある長いブロンドヘアーを照らしている。

 まるで森の妖精が食事の匂いに誘われて現れたのかとも思えたが、そうではない。


「まだ寒いのにどうしてそんな格好を?」


 彼女は人間だ。

 かわいらしい容姿を持ちながら、顔には感情が宿っていない。

 着ているのもボロ布といっても過言ではない程度だ。

 足元は裸足で、目を凝らしてみると血がにじんでいた。


「ご両親は? まさかモンスターに襲われてはぐれちゃったのかい?」


 少女を怯えさせないようにナイフをしまって、少しずつ近づいていく。

 距離が縮まる度、彼女は怯えたように身をすくませるものの、逃げ出そうとはしなかった。


「君の他に誰かいないかい?」


 少し待つと、少女は弱々しく首を横に振った。


「そっか。なら、お腹は空いてないかな? ちょうどお肉が焼けるところなんだ。よかったら、一緒にご飯を食べないかい?」


 返事はない。

 しかし、少女の視線はレダの背後にある焚き火に向けられていた。


「ほら、おいで。寒いだろう? なにも酷いことはしないと約束するよ。おじさん、ひとりでご飯食べようとして寂しかったんだ。君が一緒に食べてくれると、嬉しいなぁ」


 なんだか少女を拐かそうとする誘拐犯みたいなセリフだと思いながら、なんとか彼女の警戒心を解こうとした。

 すると、


 ――くぅぅ。


 少女のお腹から空腹のサインが響いた。

 反射的に少女がお腹を押さえて、視線を地面に落とした。


「温かいスープもあるよ。さ、おいで」


 レダは少女に必要以上近づくことなく、右手を差し出した。

 しばらく迷うように、レダと地面に視線を彷徨わせていたが、笑顔を浮かべている彼に安心したのか、そっと一歩を踏み出してくれた。

 恐る恐る少女が手を伸ばし、そっと握ってくる。

 冷え切った手は小さくて細かった。


(こんな小さい子が冷え切るまで外にいるなんてただ事じゃないな)


 不安にさせるようなことは口に出さず、レダは少女の手を引いて焚き火まで戻った。

 彼女を火の前に座らせると、自らのコートを羽織らせてあげる。


「……あり、がと」

「――どういたしまして」


 はじめて喋ってくれた少女に嬉しくなると、レダは張り切って火が通った肉を切り分ける。


「さ、ご飯にしよう」





しばらく毎日投稿致します!

ブックマーク登録、ご評価いただけると嬉しいです!

どうぞよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 拾った子が主人公と同レベルのレアスキル持ちと予想
[良い点] 拾った子が育つ頃にはおっさんもおじいさんになってると思うと感慨深いけど、近年は子供が急速成長するというから、油断できませんね。
[気になる点] 文明レベルが推測されるモノ オリーブオイル 塩胡椒 ミルク(酪農が成立している世界。山羊?牛?) >アムルスまで三日ほどの場所にある河原でテントを張って夜営していた。 河原は増…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ