5「ミナの将来の夢」②
「――え?」
レダは耳を疑った。
(今、ミナはなんて言ったんだ?)
「み、ミナ、もう一度言ってくれないかな?」
「うん。おとうさんみたいな治癒士になりたいの!」
レダは、まさかミナの将来の夢が治癒士だったなんて夢にも思っていなかった。
それだけに衝撃が大きい。
震える声を絞り出し、なんとか問いかける。
「どう、して?」
「わたしね、ずっとおとうさんが頑張ってみんなのことを治療している姿を見てね、わたしもおとうさんみたいにみんなの役に立てる人になりたいって思ったの」
あまりにも不意打ちだった。
「でも、もし魔法が使えなくても、おとうさんのように誰かを助けることのできる仕事をしたい!」
まさか娘が自分を見て将来の夢を決めてくれたなんて。
「いいのかい?」
「うん!」
曇りない笑顔を見せてくれる娘をレダが、我慢できずに抱きしめた。
今まで多くの人を治療し、感謝されてきたが、これほど嬉しかったことはない。
「わぷっ、もうとうさん、苦しいよぉ」
「あ、ごめん。つい、感極まっちゃって」
と、そこでこの場にいるのがレダとミナだけではなく、教師のゾーラも一緒だったことを思い出す。
レダは気恥ずかしさを覚えながら謝罪する。
「すみません、ちょっと感動したというか、思ってもいなかったことだったので」
「いいえ、構いません。私も驚きましたが、納得できました。ミナちゃんにとって、ディクソンさんは自慢のお父様なんでしょう」
「うん!」
「ふふふ、聞くまでもありませんでしたね」
優しく微笑むゾーラに、ミナもはにかんでみせた。
レダは、娘が自分のことをしっかりと見てくれていた喜びを噛みしめながら、ゾーラに尋ねた。
「あの、ミナに魔法の才能はあるんでしょうか?」
思い返せば、ミナの夢はもちろん、娘が魔法を使えるのかどうかさえ知らない。
父親としてもっと娘のことを知っておくべきだったと、情けなくなる。
「はい。ミナちゃんは魔法を使うには十分な魔力と素質を持っています。先日、魔法の授業があったのですが、問題なく使っていました。ただ」
「ただ?」
「治癒士を目指すのならば、本格的に学んだほうがいいでしょう」
「そうなるとやはり王都にですか?」
「いえ、私が担当するクラスはあくまでも一般的なことしか教えていないので、魔法学科に進むことを提案したいということです」
「……そういえば、確か引退なさった魔法使いの方が講師として招かれていましたね」
ティーダが学校に力を入れていたことはよく知っている。
上級学校、とまではいかないが、辺境の町では本来学べないことも極力学ばせてあげたいと人材確保に奮闘していたことを思い出す。
ネクセンの知人を頼り、引退した魔法使いを高待遇で呼び寄せたと聞いている。
「とてもありがたいことに、この学校には数人の魔法使いが授業を担当してくれています。ですが、あまり魔法を使える子がいないのも事実ですので、ミナちゃんにその気があればすぐに魔法学科に移ることができる空きもあります」
「それって」
「ええ。私が担任から外れてしまうのは残念ですが、ミナちゃん次第では来週からでも魔法を専門とする教室に移れます」
それは願ってもいないことだった。
魔法は一朝一夕で身につくものではない。
レダだって、幼い頃からこつこつと練習していた。
だが、すべてはミナ次第だ。
今のクラスを離れることを強要するつもりはない。
聞けば、ミナは楽しい学園生活を送っているのだ。
環境が変わってしまうのはあまりよくないかもしれない。
「ミナ、どうする?」
「わたし――魔法の勉強したい!」
レダの心配をよそに、ミナは瞳を輝かせてそう言った。
ゾーラが満足そうに頷く。
「では、ミナちゃんの魔法学科への手続きをしましょう。来週からは、本格的な魔法の勉強ができますよ」
「やったー!」
とても嬉しそうに喜ぶミナを見て、ちょっとだけ魔法なら自分が教えたかったな、と思ってしまうレダだった。
しかし、学校で学ぶということもミナのためには大切なことだと思い直す。
行き詰まったときなどに、助言し、一緒に勉強しよう。
「ミナ、頑張るんだぞ」
「うん! 頑張っておとうさんみたいな立派な治癒士になるね!」
健気なことを言ってくれる娘の頭を撫でる。
レダは、父親として、ミナを精一杯応援しようと誓うのだった。
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