27「アンジェリーナの来訪」③
「はぁ? それってどういうことぉ? ネクセンって、両思いなのにフラれたのぉ?」
アンジェリーナの言葉に、第一に反応したのはルナだった。
ヒルデガルダも続く。
「それはおかしな話だな。なぜ、そんなことになってしまったんだ?」
もっともな疑問に、レダも同感だった。
ミナは少し話が難しいのか、困惑した表情を浮かべている。
「フェイリンがネクセン様のプロポーズを断ったと知り、私は驚きました。あの子は、プライベートでもネクセン様とお会いすることもあるそうで……褒められたことではありませんが、体の弱い親を支えるための援助もしていただいていたようです」
「あ、体の弱い親がいるっていうのは本当なのねぇ。てっきり男を騙すための、よくある手口だと思っていたわ」
「いいえ、そんなことをする子ではありませんわ」
思ったことをそのまま言ってしまったルナに対し、アンジェリーナはきっぱりと否定する。
「フェイリンにはお母様がいるのですが、数年前に身体を壊してしまってから、あまり働きに出ることができません。家計を支えるために、あの子は娼婦となったのです」
「ふむ。フェイリンという少女の境遇は承知したが、それがなぜネクセンのプロポーズを断ったことと繋がるのかいまいち理解しかねるぞ……普通は、これ幸いと受けるべきではないのか?」
「そうよねぇ。金目的の女でも飛びつきそうだけど、フェイリンって子はネクセンが好きなんでしょ? なら、断る理由がないじゃないのぉ」
フェイリンにとって、ネクセンが客以上の相手であることはわかった。
彼女の境遇も知った。
すると、なおさらフェイリンがネクセンを振った理由がわからない。
金銭面に困っているフェイリンに対し、ネクセンはどちらかというと裕福だ。
今まで彼女を支援していたネクセンなら、彼女の境遇を知っているはずだ。
その上で告白したのだから、彼女にとっても喜ばしい話だったのではないかと思えてならない。
「――それは、フェイリンが……いいえ、私たちが娼婦だからですわ」
「まってください。それって、どういう意味ですか?」
暗い顔をして、まるで娼婦であることが悪いと言ったアンジェリーナに、レダが問うた。
彼女はそんなレダに少しだけ微笑んで見せる。
「レダ様。娼婦はお金で男性を、時には女性をお相手いたします」
「そのくらいわかっています」
「そのような仕事ゆえ、差別されることも、侮蔑の言葉を投げられることも、決して珍しくありません」
「――っ」
レダはショックを受けた。
娼婦を利用したことはないが、いい大人だ、どういう目的の店なのかわかっている。
客は金を支払い、彼女たち娼婦を抱く。
悪いことだとは思わないし、レダはそんな彼女たちを差別するつもりも、侮蔑するつもりもない。
(――アムルスでも、そういうことを口にする人がいるんだな)
もちろん、彼女たちの仕事を快く思わない人間がいることだってわかっている。
しかし、ここアムルスでは、わざわざ口に出して彼女たちを貶めるような人間がいるとは思いたくなかったのだ。
「残念なことではありますが、ときにははっきりと汚らわしい、とおっしゃられる方もいます。私たちも覚悟して仕事をしていますが、やはりそのような心ない言葉に心を痛めることもありますわ」
「そう、でしょうね」
「フェイリンはまだ十八歳と若くありますが、娼婦であることに変わりありません。むしろ、若いからこそ、自分が娼婦であることを気にしているのです」
「……だからネクセンのプロポーズを断ったんですか?」
「はい。私を含め、自分から好んで娼婦をはじめた人間はいませんわ。そのことに負い目を感じる子も、決して少なくないのです」
レダだって馬鹿ではない。
アンジェリーナたちが好き好んで自分から娼婦になったわけではないことくらいわかる。
ただ、理解が足りなかったと思わざるを得ない。
娼婦であることに負い目を抱く、そんな当たり前な彼女たちの感情を考えることができなかった自分に、どうしようもなく腹が立った。
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