26「アンジェリーナの来訪」②
「連日の訪問をお許しください、レダ様」
二階で待っていたアンジェリーナは、レダが現れると立ち上がり、深々と頭を下げた。
「いいえ、構いませんよ。いつでも来てくれと言ったのは俺の方ですから。でも、急患じゃなさそうですね」
「はい。実を言うと、今日はご相談があって参りました」
「相談ですか? ええ、俺で良ければ。とりあえず、座ってください」
客人をいつまでも立たせておくわけにはいかず、椅子へと促す。
アンジェリーナが座ると、娘たちが食事を温め直した。
話の邪魔をしないという気遣いなのだろう。
「実は、ネクセン様とフェイリンのことです」
「ネクセンが、プロポーズした件ですか」
「はい」
やはりそうだと思った。
残念な結果に終わってしまったネクセンのプロポーズが、娼館で働くアンジェリーナたちに伝わっていないはずがない。
彼女が尋ねてきたと聞いたときから、ネクセンに関することだと薄々勘付いていた。
「ていうかぁ、アンジェリーナがわざわざパパを訪ねてくるって何事なのぉ? まさか、ネクセンの奴が、しつこくしてきたとかぁ?」
鍋をかき回しながら、ルナが口を挟んだ。
しかし、その疑問にアンジェリーナは首を横に振り、否定する。
「いいえ、それはありませんわ。ネクセン様は実に紳士的なご対応をしてくださいました」
「そうでしたか」
「娼婦という仕事をしていると、お客様から想いを寄せられることはあまり珍しくありません。……とはいえ、残念ながら、大半のお客様は、一時的な熱に浮かされてしまったものを恋心と思うようで、仮にお付き合いすることになったとしても、あまり長続きするものではありません」
「それは、その、なんというか」
身体を重ねるゆえに、娼婦に恋愛感情を抱いてしまうことは珍しくないようだ。
しかし、その感情が、本当に心からのものなのか、それとも快楽による一時的なものなのかは、残念ながら後者のほうが多いらしい。
「お気になさらないでください。そういう方もいらっしゃるということです。ネクセン様はフェイリンのことを心からお好きになってくださっているようで、私としても嬉しく思っていますわ」
「ネクセンのことなら俺が保証します。他ならぬネクセン自身から、フェイリンへの気持ちを教えてもらいましたので」
彼の気持ちは本物だと、レダは信じている。
フェイリンを案じ娼館に急いだ姿も、怪我をした彼女にすがりつく姿も、一時の熱に浮かれているようには見えなかった。
「ネクセン様の想いを疑っているわけではありませんわ。薔薇の花束を持ってプロポーズにいらしたときには、私を含め、一同で驚いてしまいましたが、決して悪く思っている人間はいません」
「えっと、じゃあ、どうして今日ここに?」
ネクセンに問題がないのなら、残念だがこの話はおしまいだ。
彼の想いは届かなかった。
悲しくはあるが、珍しい話ではない。
「少し言いづらいことではあるのですが」
「なんでも言ってください。俺で良ければ、お話くらい聞きますから」
「ありがとうございます。実をいうと、ネクセン様に思うことは微塵もないのです。むしろ……」
「むしろ?」
「問題はフェイリンのほうにありました」
「つまり、どういうことですか?」
レダの問いかけに、少し困ったようにアンジェリーナが答えた。
「――フェイリンもまた、ネクセン様をお慕いしているのです」
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