表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

254/622

11「エルザ・ブロムステット」②




「私はエルザ・ブロムステット。見てわかるだろうが、砂漠の民だ」


 砂漠の民、という部族名をレダは知っていた。


「南大陸の部族だよね」

「そうだ。私は数ある砂漠の民のひとつの集落を纏めていた長の娘だった……いや、それはどうでもいい。私は、ルナの母親だ。それ以上でも、以下でもない」

「だーかーらー、さっきも言ったけど、あたしに母親はいませーん。わかったぁ、おばさん?」

「……ルナ」


 あくまでルナの母親だというスタンスを崩さないエルザに対し、ルナの反応は冷たいものだった。

 ルナを注意しようと思ったレダだったが、デリケートな問題であることと、娘の気持ちが頑なになってしまうことを避けるため、開きかけた口を閉じることにした。


「ていうか、あんたこそ、あたしの名前を気安く呼ばないでくれない?」


 レダに対しエルザが言い放った言葉を、ルナが真似した。

 すると、エルザの表情がわかりやすく強張った。


「こら、ルナ」

「だって、こいつ、パパに」


 さすがに見過ごせなかったレダが咎めるように娘の名を呼ぶも、ルナは頬を膨らませて抗議するだけ。

 

「俺のことはいいから。まず話を聞こう。感情的になってもいいことなんてないんだから。いいね?」

「……うん」

「よし、いい子だ。じゃあ、ブロムステットさん、続きをどうぞ。その砂漠の民であるあなたが、どうしてウインザード王国に?」


 レダの問いかけに、エルザは答えたくなかったのか言葉を詰まらせて睨む。

 しかし、ここで黙っていればルナとの関係が改善はもちろん、進むことがないことがわかっていたのだろう。

 静かに口を開いた。


「奴隷商人に捕らえられ、この国の貴族に売り払われたのだ」

「――それは」


 想像していなかったエルザの答えにレダが言葉を失う。

 ルナもまた、エルザの境遇に驚いているようだった。


「同情など要らぬ。私は、ただ事実を語っているだけだ。貴様に同情されても、憐まれても、腹が立つだけで過去が変わることはない」

「そう、ですね。では、続きを」


 レダは同情しなかった。

 エルザの言葉通りだと思ったからだ。

 レダが優先すべきことは、彼女を哀れむことではない、事実を知ることなのだから。


「私を買ったのは、この国の貴族だ。名を、ロナン・ピアーズ子爵だ」

「――っ」


 レダはその名前を知っていた。

 ルナとミナの父親の名前だった。


「私はロナンの奴隷にされ、数年も凌辱を受けた。そして、ルナ、お前を孕んだのだ」

「あ、そう」


 エルザの口から語られた出生の秘密に対して、ルナの反応は実に素っ気無いものだった。

 そんな娘の態度が逆に心配になってしまう。


「……ルナ、大丈夫か? もし、嫌なら、俺だけで話を聞いても」

「あのねぇ、パパ。あたしだって子供じゃないの。あの人間のクズが、あたしとミナを借金のカタで売り払うような人間が、まともなわけないじゃない。むしろ、予想していたよりもマシなほうよぉ」

「だからって」

「こんな話を聞かされて、パパは優しいから辛いわよね。でも、あたしは大丈夫よ、だって、パパがいるもん」

「ルナ」


 娘の言う通り、聞くに耐えられなかったのはレダのほうだった。

 あまりにも酷すぎる内容に、話を中断したくなったほどだ。


「――続きを話そう。私は妊娠し、出産した。しかし、なにを思ったのか、ルナは私から取り上げられ、ピアーズ家の人間として育てられた。私は以後、会うことはもちろん、様子を聞くことさえ禁じられてしまった」


 当時のことを思い出したのか、辛そうにエルザが己の唇を噛んだ。


「口約束ではあったが、出産後、子供と一緒に解放されるはずだった。理由は、単に私に飽きたからだと言っていたが、それでも信じた。一抹の希望に縋ったのだ。だが、叶わなかった」


 レダはどう声を掛けるべきなのか悩んだ。

 過去のこととはいえ、エルザがされた仕打ちはあまりにも酷すぎる。


「あとで知ったことだが、砂漠の民は高額で売買されるらしい。おそらく、ルナが成長したら売るつもりだったのだろう」

「――っ! ブロムステットさん!」

「なんだ?」

「あなたの境遇には心から同情するけど、いちいちルナが傷つくようなことを言わなければ、話を進められないのか?」

「私は事実を語っているだけだ」

「それでも、母親を名乗るなら、ルナが傷つくかどうかを考えられないのか!」

「パパ、やめて!」

「ルナ、だけど!」

「いいの、別に、気にもなんないし。ていうか、実際、売られたし」


 怒りに任せて立ち上がっていたレダは、冷静な娘を見て、頭を冷やし、腰を降ろした。

 だが、腹も立っている。

 事実だろうが、わざわざルナに知らなくてもいいことを言う必要があるのか、と思ってしまうのだ。


 レダは自分が甘いという自覚がある。

 甘いとわかっていても、不必要に大切な家族に傷ついて欲しくなかった。





がうがうモンスター(https://futabanet.jp/monster)様にてコミカライズが6話まで公開中ですので、ぜひぜひご覧ください!

ニコニコhttps://seiga.nicovideo.jp/comic/49125)でも公開中です!


【お知らせ!】

書籍1巻2巻、コミカライズ1巻は好評発売中です!

何卒よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レダはん...事情説明してって言うたらそりゃ出てくると思わんのかね
[良い点] 五章 11「エルザ・ブロムステット」② 更新ありがとうございます。 [気になる点] ルナは成人女性なのだから、どのようなものであろうと、己の出自を知る権利があるでしょう。 それに、暗殺…
[良い点] ぐすーよー、ちゅーうながびら うやぬ、うむぃ、くんかぃつながれーしむんやーさい。 やしがてーくれーむじかさぬはなしるやる。 [一言] わーや、めーなち、くまんかぃ、まーてぃちゅーんど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ