書籍2巻発売記念SS
「うわぁ! 湖おっきいね!」
水着姿のミナのはしゃぐ声を耳にして、レダは頬を緩ませた。
アムルスから少し離れた場所にある、名もなき湖にディクソン家一同と、ローデンヴァルト辺境伯一家、王女アストリット、そしてテックス率いる護衛の冒険者たちがいた。
「パパぁ、早く泳ぎましょうよぉ!」
「レダ! 水が冷たくて気持ちがいいぞ!」
ミナ同様に水着に身を包んだルナとヒルデガルダが、湖の中に入り、お互いに水をかけっこしながらレダを呼ぶ。
「ちょっと待ってて! テントの支度したら俺もいくから!」
「待っているわねー!」
(自分の娘たちながら、みんな水着がよく似合っているなぁ)
白く細い身体のミナは、ピンク色のワンピースタイプの水着を身につけていた。
ほんのりと頬を赤く染めているのは、恥ずかしさからだろう。
姉であるルナは堂々としたもので、凹凸こそ少ないがスレンダーな褐色ボディによく似合う白いビキニを身につけていた。
ただし、ちょっと布面積が少ない気がする。
ヒルデガルドは、白すぎる肌によく映える青い運動用の水着を身につけている。
泳ぐ気満々なのが実に彼女らしくて、つい笑みが溢れてしまう。
三者三様の水着姿は、どれもかわいらしく、華やかである。
この場にいる男性陣は、レダとティーダ、テックスと少々年を重ねた面々だが、もしここに彼女たちの同世代の少年がいたら、三人に目が釘付けとなっていただろう。
(三人も、おっさんたちしかいないのに水着に気合が入ってるなぁ。ただし、ルナはあとで怒っておこう。ちょっと水着の面積に問題がある)
恥ずかしいから水着は自分たちで選んで買ってくる、と言ったルナの意見を尊重した結果がこれだ。
「恥ずかしい」と言われてしまうと、レダも男だ。ついていけるわけがなかったのだが、露出の多い水着を買ってくると知っていたら、無理してでもついていくべきだったと後悔している。
男としては少々目のやり場に困るし、父親としてはもう少し控えめな水着を選びなさいと苦言したい。
レダは、テックスに手伝ってもらいテントを設置すると、荷物から釣竿やバーベキューセットを用意していく。
子供たちがはしゃげばお腹も減るだろう。
アイテムボックスにはたくさんの食料が入っているので問題ない。
夜になれば、護衛の冒険者たちも含めてバーベキューだ。
「あら、レダ様ばかりに支度をさせて申し訳ございません」
「ごめんね、レダ。なにか手伝いましょうか?」
「あ、いえ、もう終わりますか……ら」
背後から声をかけられ、振り向いたレダの心臓が跳ね上がった。
そこには、白いレオタード状の水着に身を包んだヴァレリーと、真っ赤なビキニを身に着けるアストリットがいた。
ふたりとも実に水着がよく似合っていた。
両者とも、最近まで伏せっていたとは思えない健康さを取り戻しているのがよくわかる。
控えめスタイルのヴァレリーも、スタイルのいいアストリットも、レダを十分すぎる刺激を与えてくれた。
「あ、あまりみないでください。恥ずかしいですわ」
「し、失礼しました!」
「別に見たいなら見てもいいのよ? せっかくはじめて水着を着たのだから誰かに見てもらわないと寂しいじゃない」
「おふたりともお似合いですよ」
「そ、そうですか? レダ様にそう言っていただけるなら嬉しいですわ」
「どのあたりが似合っているのかしら?」
「へ?」
ついレダが間の抜けた声を上げてしまう。
なけなしの勇気を振り絞って「似合っている」と褒めたのに「どこがいいの?」と聞かれたのだ。
本人を目の前に、身につけている水着のどこがいいとか言いづらいにも程がある。
「え、えっと、その、ですね、はい、似合っていますよ。ですが、その、おふたりとも大人ですし、あまりこんなおっさんに水着を見せつけるのはよくないといいますか、なんといいますか」
「レダったら、そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
「しますよ!」
「……わたくしの水着姿でレダ様がどきどきしてくださるのなら、その、嬉しいですわ」
からかい口調のアストリットに対し、頬を染めるヴァレリー。
彼女たちはそれぞれ魅力的で、枯れているわけでもないおっさんには刺激が強すぎた。
「パーパーっ!」
もちろん、レダがアストリットとヴァレリーに鼻の下を伸ばしていて静かにしているわけがない子がひとりいる。
――ルナだ。
「ちょっとパパ! かわいい奥さんがいるのに、そんなおばさんたちに釘付けになっちゃうってどういうこと!?」
「――おばっ……こら! ルナ! 私たちはそんな年増じゃないわよ!」
「あたしからすれば、おばさんですー!」
「こら!」
おばさん扱いされたアストリットが怒って湖に飛び込んだ。
そのままルナのもとへ行き、勢いよく水をかける。
「ちょ、やめてよ。せっかくのメイクが落ちちゃうじゃないの! キャンプでパパを籠絡作戦が失敗しちゃうじゃない!」
(……そんなこと考えていたのか)
ルナの企みに冷や汗をかきながら、楽しそうに水かけっこをはじめる女性陣たちにレダは目を細めた。
キャンプの支度を終えたレダは、ルナとミナに手を引かれて湖の中へ。
ティーダたち家族も一緒になって、楽しい時間を過ごした。
ひとしきり湖を堪能すると、今度はバーベキューだ。
食欲旺盛な女性陣に、大量の肉が消費されていく。
焼く係はレダとティーダだ。
それぞれ家族のために汗だくになっている。
ときどき娘たちに「あーん」をしてもらい、肉に舌鼓を打ちながら持参したウイスキーやワインをちょびちょび飲んでいく。
護衛であるはずのテックスは、早々に冒険者の面々と水着を着ずに飲んで食べるナオミと出来上がっていた。
「おとうさん! キャンプ楽しいね! わたし、また来たいな!」
「今度はふたりっきりのテントでねましょぉ。ふふ、滾るわぁ」
「次回は、食料を現地調達してみよう。なに、私の狩猟の腕を披露してやるから安心するといい」
それぞれが今回のキャンプを堪能してくれたようで、レダも嬉しい限りだった。
まだまだ暑い夏は続く。
これからも家族みんなで仲良くすごしていきたいとレダは思うのだった。
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