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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
四章

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44「褒美とスカウト」③




 レダは、ソファから立ち上がると、床に膝をつき、頭を下げた。


「――レダ?」

「申し訳ございません。お受けすることはできません。俺は、この町に残りたいんです」


 魅力的な誘いだった。

 家族のことを考えれば、宮廷勤めは好条件の仕事だ。

 しかし、レダは、簡単にこの町を捨てられなかった。


「露頭に迷っていた俺を助け、家族のように接してくれたこのアムルスに、俺はまだ恩返しができていません。それまでは、この町から離れることはできません」


 領主のティーダ、冒険者ギルド、町の人々は、レダを頼り、感謝している。

 しかし、それ以上に、レダもみんなに感謝していた。

 王都から流れ着いたレダを暖かく受け入れ、仕事を与えてくれた。

 町の人たちも、みんな気さくでいい人だ。

 ミナはこの町で健やかに、明るく育っている。

 ルナともこの町で出会い、家族となった。


 アムルスに来ていなければ、ヒルデガルダたちエルフとも知り合うことはなかっただろう。

 友人と呼べるティーダやテックス、リッグスたちとも縁がなかっただろうし、ヴァレリーとも出会わなかったはずだ。

 同じ治癒士のユーリとネクセンとは今はいい同僚として働けている。

 勇者ナオミ、そして王女アストリット、王妃キャロラインとも知り合った。


 このすべてが、アムルスにいたからこその出会いなのだ。

 ゆえに、レダはこの街から離れることができない。

 王都で失った以上に与えてくれたアムルスに、まだ恩返しをしていないからだ。


「顔を上げなさい、レダ。褒美を与えると言いながら、逆に君を追い詰めてしまったようだ。すまぬ。さあ、立ち上がりなさい」

「……はい」


 レダは国王の言葉に従い、静かに立ち上がった。

 恐る恐る国王を伺うと、意外にも優しげな笑みを浮かべていた。


「君のアムルスに対する深い思いは確かに受け取った。残念ではあるが、受け入れよう」

「感謝します」

「だが、これはお願いだが、もしアストリットやキャロラインたちになにかあったら、君に助けてほしい」

「もちろんです。どこにいようと、必ず駆けつけます」

「――ありがとう。そう言ってくれるなら、私から言うことはない。君のアムルスでの生活が、良いものになるよう祈っている」

「どうもありがとうございます、国王様」


 国王とレダは、その後、和やかに話を続けた。

 結局、褒美は、アムルスと診療所に国王の私財から寄付をすることとなった。

 その際、「欲のない男だな」と国王がレダに苦笑する一面もあった。


 国王は、王としてではなくまるで友人と接するようにレダと話をした。

 娘たちと妻への想い。

 王位争いへの苦悩。

 貴族同士の対立。

 正直、レダにはなにひとつ力になることができないことばかりだったが、それでも胸に溜まっていたことを吐き出せた国王は、少なからずすっきりした様子だった。


「すまんな、レダ。愚痴ばかり言ってしまった」

「お気になさらず。国王様が、ずっとひとりで耐え忍んでいたことは存じていますから」

「ありがとう。君とはまた会いたいものだ。いっそ、娘のことを君に任せたいという気持ちもあるが、それはさすがに本人の気持ちを無視しているのでな」

「あ、あははははは、そうしていただけると助かります」

「それに、君はヴァレリーにも慕われているようだ。彼女のことは幼い頃から知っている。アストリットの友人として、いや、ひとりの女性としていい子だ。きっと君の良き妻となり支えてくれるだろう」

「俺にはもったいない方です」

「ふむ……まあ、恋愛ごとに首を突っ込むつもりはないが、私のように後悔する前に気持ちをはっきりさせておくといい」

「そうですね。そうできれば、と思っています」


 国王の助言にレダは頷く。

 もっとゆっくり周囲との関係を進めたい気持ちはある。

 それが正しいのかどうか、レダにはわからない。

 だが、それならせめて、後悔だけはしないようにしたいと思う。


「ならばよい。君はまだ三十だと聞いている。人生これからだ。仕事も、恋も、精一杯楽しむといい」


 国王はそういって、微笑んだのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 国王様の中ではヴァレリーがレダに嫁ぐ事が決まっててフフッとなりました。
[良い点] 44「褒美とスカウト」③ 更新ありがとうございます。 [一言] 国王が苦笑するぐらい、レダは欲がないですねえ。 次回の更新も、楽しみにしております。
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