39「再会と和解」④
騎士団長の笑いが廊下に響くと、
「賑やかな場所だ。実に心地がいい」
「そうですわね、お父様」
部屋の扉が開き、国王とアストリットが現れる。
ふたりとも、目元が赤く見えるのは気のせいではない。
国王ヒューゴは、レダに穏やかな笑みを向けると、改めて頭を下げた。
「レダ・ディクソン殿。改めて感謝を伝えたい。君のおかげで、娘は元気になり、こうして私たちも和解できた」
父に続き、アストリットまでが頭を下げる。
「ありがとう、レダ。あなたのおかげで、お父様に愛されていると知ったわ。目を治してもらっただけでも感謝しきれないのに、どう恩返しすればいいのかわからないわ」
「そんな。おふたりとも顔をあげてくだい。俺は治癒士としての役目を果たしただけです。気にしないでください」
謙遜気味なレダに、ふたりはもう一度「ありがとう」と感謝の念を伝えた。
しかし、その一方で、国王とアストリットの顔が暗くなってしまう。
「この場に、お母様がいなかったことが残念でならないわ。きっと喜んでくれたのに」
「……残念です」
「キャロラインにもすまないと思っている」
国王の顔は苦々しい。
「私が不甲斐ないせいでキャロラインは戦っている。だが、心配することはない。私の手の者が、陰ながら手伝うように命じてある」
「……お父様、いいのですか?」
「大切な娘と妻の命を狙った者を許しておくことはできぬよ。それがたとえ、自分の息子と側室であったとしても」
ヒューゴにとって、愛し合い結婚したキャロラインとその子供たちは大事なのだろう。
普段、感情を押さえていた国王の本心が、その場にいた者たちに伝わった。
「私がアストリットに王位継承権を残していたのは、娘との唯一の繋がりだと思っていたからだ。しかし、それをおかしな方向に誤解してしまった人間も少なからずいる」
「……私にも王位を狙えるということですね」
「そうだ。私の第一子であり、正室の子だ。光を失っていなければ、王位争いに巻き込まれていただろうな。今のアストリットを見る限り、国王などになりたいとは思っておるまい?」
「申し訳ありませんが、そのつもりはありません。今さら、政治活動をするつもりもありません」
「それでいい。国王など、自由もなく、孤独でしかない。そんな玉座に望んでいないのに座る必要もない」
父の言葉に、アストリットは素直に頷いた。
彼女も、自分の言葉通り、今さら王位に興味はないだろう。
しかし、そう思わない人間がいることも事実だ。
早く、キャロラインが彼女に敵意を抱く人間を一掃できることを祈るしかない。
「アストリットには伝えておこう。よほどのことが起きない限り、ウェルハルトが王になるだろう」
「……ウェルハルトが?」
「あ奴の母のミリアミラは短気な女だが、馬鹿ではない。現にキャロラインと不仲でもお前に危害を与えていない」
「そう、ですね」
「ウェルハルトも利発な子だ。よき王となるだろう。だが――」
国王の表情が変化し、怒りに染まった。
親子の会話を見守っていたレダたちでさえ、その形相に身を竦ませてしまう。
「ベルロールとマイラだけは許せぬ。アストリットとキャロラインの命を狙ったのだ、ただでは許さん」
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