38「再会と和解」③
「ううぅっ……国王様、アストリット様、よかったですなぁ!」
廊下の片隅でザルドックが号泣しているのを、苦笑して見ているレダにルナが問う。
「ねえ、パパ。結局、あれ、なんだったの? 本当に国王がわざわざこんな田舎町に足を運んだってわけ?」
「そういうことみたいだねぇ」
「みたいだねぇ……って」
「だって、俺だってびっくりしたんだよ。ていうか、ヴァレリー様も、国王様がいらしていたなら事前に言ってくださいよ! びっくりして心臓が止まるかと思いました!」
レダの抗議にヴァレリーも苦笑を浮かべる。
「申し訳ございません。でも、わたくしだって、まさか国王様が突然いらっしゃるとは夢にも思いませんでしたので」
「そりゃ、そうでしょうけど。でもまあ、結果的には国王様とアストリット様の関係が修復されたからよかったです」
「わたくしも同感です。ですが、驚いてもいます。アストリット様はもちろん、キャロライン様でさえ、国王様から愛されていないと信じていましたから」
ヴァレリーの言いたいこともわかる。
アストリットもキャロラインも、国王からの不遇な扱いに心を痛めていた。
それなのに、まさか心から愛されているとは思いもしないだろう。
(国王様はキャロライン様とちゃんと愛情があって結婚したんだな。じゃあ、他の王妃様たちは?)
疑問の答えをレダが知ることはないだろう。
国王の腹心と思われるザルドックがすぐ近くにいるが、尋ねるわけにもいかない。
それ以前に、知ったからといってなにかが変わるわけでもない。
「おとうさん」
「どうしたミナ?」
「アストおねえちゃんがおとうさんと仲直りできてよかったね!」
「――ああ、そうだね。その通りだ」
今はただ、アストリットの憂がひとつ晴れたことを喜ぶだけでいい。
レダは、巻き込まれる可能性はあるかもしれないが、自分から積極的に王家の揉め事に関わるつもりはない。
「……よくわかんないけど、パパが治癒士の天下取るまで、もう少しってことねぇ」
「なにそれ?」
訳のわからないことを言い始めたルナに、レダは困った顔をする。
ルナは「にひひ」と笑うと、平たい胸を張り、高々に言い放った。
「だって、王妃、王女ときて国王よ! 王族にコネができたんだから、回復ギルドなんてもう怖くもなんともないじゃない! むしろ、ぶっ潰してパパが新生回復ギルドを作り上げるチャンスよ!」
「しないから!」
「――っ、新生回復ギルド……いいですわね」
「ヴァレリー様までやめてくださいよ! 俺、そんなことしませんから! そもそも回復ギルドはアマンダが立て直しているらしいので、あの人に任せておけばいいんですよ! 俺は俺で、この町でみんなを変わらず治し続けるだけです」
「えー!」
「残念そうにしないの!」
ルナはあからさまに不満顔だ。
本気でレダに新生回復ギルドを作らせるつもりだったのかもしれない。
娘より怖いのは、「……新生回復ギルド……王家の力があれば……」と小さく呟いているヴァレリーだ。
「おとうさん、天下とるの?」
「こら、ミナ。ルナの変な言葉を覚えちゃだめだぞ」
「ちょっと! 変な言葉じゃないじゃない! パパのビッグチャンスなのよぉ!」
「そんなチャンスいりません!」
「レダよ。お前が回復ギルドを潰そうというのなら、里の戦士を連れてこよう。なに、そう時間はかけない。我らエルフに任せておくといい」
「……ヒルデまでそんなことを。っていうか、それ、物理的に潰すつもりだよね? あとで大問題になるからやめて!」
キラキラした瞳を向けてくるミナと、にやり、と笑うヒルデガルダ。
後者はただ悪ノリしているだけなのを願う。
「はっはっはっ! ディクソン殿と、そのご家族は実に楽しそうでいいですな!」
いつの間にか泣き止んでいたザルドックが笑顔で頷いていた。
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