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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
四章

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24「穏やかな時間」②




「おはようございます、キャロライン様、アストリット様、ナオミ殿」


 代表してティーダが立ち上がり、恭しく一礼する。

 レダとヴァレリーも彼に続き、立ち上がって頭を下げた。

 ルナも、一応は礼をしたが、エルフのヒルデガルダは相手がよくわかっていないようで、周りにつられて同じようにしただけだった。


「楽になさってください。お世話になっているローデンヴァルト家の皆様なのですから」


 キャロラインの言葉に、一同が顔を上げた。


「さ、アストリット。ご挨拶をなさい」

「はい、お母様」


 母に名を呼ばれ、一歩前に出たのはアストリット王女だった。

 彼女は、昨日のように寝巻き姿ではなく、高価そうな生地が使われた涼しげな白いドレスに身を包んでいた。

 身なりは綺麗になり、上もしっかり整っている。

 なにより、彼女の顔を覆っていた包帯がなくなり、整った容姿をはっきりと見ることができる。


「あ、あの……おはようございます。昨日は、よくない態度を取ってしまってごめんなさい」


 そうアストリットは、みんなに頭を下げる。

 そして、顔を上げ、レダを真っ直ぐに見つめた。


「あの、ディクソンだったわよね」

「はい」

「ありがとう」


 どこか、もじもじとしたアストリットの言葉は短かった。

 だが、その一言にどれだけの想いが込められているのかわかったレダは、笑顔を浮かべる。


「どういたしまして」

「あのね、実を言うと、夢じゃないかって思っていたわ」


 アストリットは語る。


「でも、朝起きて、お母様の顔をまた見ることができて、人の手を借りることなくお風呂に入って、ご飯を自分の手を使って食べて――ああ、本当に治ったんだって。悪夢から解放されたんだって」


 王女の瞳にはすでに大粒の涙が浮かんでいる。

 きっと、暗い暗い日々を思い出すだけで、恐ろしいのだろう。


「だから、本当にありがとう!」


 ついに、アストリットの瞳から涙が溢れ、頬を伝う。

 彼女の後ろでは、同じようにキャロラインが涙を流していた。


「ねえ……私の顔どう見える?」

「とてもお綺麗ですよ」

「……ありがとう」


 アストリットは、花の咲いたような笑みを浮かべる。

 レダの言葉はお世辞ではなく、本当に彼女の笑顔は綺麗だった。


「ディクソン殿、わたくしからも改めてお礼を申します。娘を治してくださり、どうもありがとうございました。まさか、こうして娘の笑顔を見ることができるとは……うぅ」

「もう、お母様ったら泣かないでよ」


 嗚咽をこぼす母に、アストリットが頬を濡らしたまま苦笑した。

 昨日目にした、気性の荒い女性はもういない。

 心の平穏を取り戻した、アストリットがそこにいた。


 そのことに、レダは心底喜ぶのだった。

 同時に、思うこともある。

 彼女の浮かべる素敵な笑顔を、長年奪った人間がいるのだと思うと許せない。

 それが例え王族であったとしても、レダの考えは変わりそうもなかった。


「ねえ、パパ。まさか新しい女じゃないわよね?」

「まったく。嫁が増えるのか?」

「――こ、こら! 王女様になんてことを言うんだ! す、すみません、まだ子供なものでして、失礼をお許しいただければ」


 突然、王女を嫁扱いしはじめたルナとヒルデガルダにレダが慌て、アストリットに謝罪する。

 しかし、彼女は気を悪くするどころか、苦笑を浮かべ、


「あら、ディクソン――いえ、レダと呼んでいいかしら? レダの奥さんになれるのなら嬉しいわ」


 と、爆弾発言をしてしまう。

 ルナが整った柳眉を顰め、ヒルデガルダが「やっぱりな」と嘆息し、ヴァレリーが大きく目を見開く。


「あ、アストリット様、ほ、本気では、ありませんよね?」


 震える声でヴァレリーが尋ねると、アストリットが小さく声を出して笑った。


「あははっ、冗談よ、ヴァレリー。あなたたちの想い人に手を出したりしないわ」


 彼女はそう言うと、レダに近づき、彼の手を取った。


「私を救ってくれてありがとう。ひどいことをたくさん言ったのに、見捨てないでくれてありがとう」

「俺のほうこそ、救わせてくれてありがとうございました」

「助けてくれたレダがお礼を言うなんて、あなた変な人ね」

「かもしれません」


 レダとアストリットが笑い合う。

 長年苦しんでいた彼女が、ちゃんと救われたことを確認したレダは、心から安堵した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 四章 24「穏やかな時間」② 更新ありがとうございます。 [気になる点] 『「あら、ディクソン――いえ、レダと呼んでいいかしら? レダの奥さんになれるのなら嬉しいわ」』 吊り橋効果とは…
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