20「治療を終えて」①
「アストリットっ!」
「お母様!」
レダが王女の体を離すと、替わるように王妃が娘を力強く抱きしめた。
母娘はそろって、大粒の涙を流している。
(――きっと、王妃様も王女様と同じくらい、治療に期待をしていなかったのかもしれないな)
仕方がないことだと思う。
今まで散々、期待と失望を繰り返したのだ。
今回だって、偶然レダのいい噂を聞きつけたので試したかったに過ぎないのだろう。
その結果、治療が成功した、ということだ。
もしかすると、アストリット以上にキャロラインのほうが驚いているのかもしれない。
「お母様……目が、目が見えるの」
「ええ、ええ、わかっています。わかっていますとも」
「お母様の顔が、はっきり……見えるの!」
「ああ、神様……この奇跡に感謝致します。……いいえ、ディクソン殿、あなたの魔法に心から感謝致します」
娘を抱きしめたまま深々と頭を下げたキャロラインに、レダは静かに首を横に振った。
「いいえ、俺はするべきことをしただけです」
謙遜気味のレダの腕を、いつの間にか隣に立っていたヴァレリーが握りしめる。
「さすがですわ、レダ様。わたくしは、アストリット様が無事にご回復することを信じていましたわ」
「うん、ありがとう。実を言うと、結構不安があったんだ」
「ですが、こうしてアストリット様をお救いくださいました。もちろん、キャロライン様のことも」
「……そう、ですね。ふたりを救うことができて本当によかった」
未だ涙の抱擁を交わし続ける母娘が、悪夢から解放されたことにレダは嬉しさを噛み締める。
「よくやったのだっ、レダ!」
続いて、背中にぴょんっ、とナオミが抱きついてきた。
「凄いのだレダ! あの女を回復させたときの魔力量は、すさまじかったぞ!」
「え? そう?」
「そうなのだ! 気付いてなかったのか? 私ほどではないが、魔族の四天王くらいの魔力量はあったのだ!」
「それって、すごいの? すごくないの?」
たとえがよくわからないため、レダは首をかしげた。
魔族の四天王とは面識がないため、魔力量が匹敵していると言われても想像もできなかった。
「凄いことなのだ!」
しかし、ナオミが満面の笑みで褒めてくれているので、よしとしておこう。
彼女にも「ありがとう」と感謝の気持ちを伝える。
「さて、せっかく親子が苦難を乗り越えて抱きしめ合うことができたんですから、俺たちは部屋の外でしばらく待っていましょう」
レダの提案に、反対する人間はいなかった。
三人は、母娘の邪魔をしないようにそっと部屋の外に出た。
「レダ!」
廊下で待っていたのはティーダだった。
彼は、不安に表情を滲ませている。
「ティーダ様? なにかありましたか?」
レダの問いかけに、ティーダは硬い声音を出した。
「なにかありましたか、ではない! アストリット様の叫ぶ声が聞こえたので、慌てて走ってきたのだ!」
「す、すみません」
「いや……レダを責めているわけではないんだ。どうやら、その様子からしてアストリット様の治療は成功したようだな?」
「はい」
「見事だ、レダ!」
不安な表情から一変して、ティーダが破顔する。
「レダは、ヴァレリーに続き、アストリット様も救ってくれた。もう、その力を疑う者はいないだろう!」
「ふふふ、お兄様ったらご自分のことのように興奮なされて。しかし、無理もありませんわ。これで、レダ様は王族からの覚えもよくなるでしょう」
「そうだな。国王様はさておき、王妃様の印象はいいだろう。っと、レダを褒め称えるのもいいが、アストリット様とキャロライン様はいかがしている?」
ティーダの問いかけに、レダとヴァレリーが扉の向こう側を見ると、彼は察したように頷いた。
「おふたりの時間を作ってさしあげようかと」
「……それがいい。王妃様は、長い時間をかけて、アストリット様のために奔走されていたからな。あとは……」
「刺客がこないことを祈るだけです」
レダの呟きに、ティーダだけではなく、ヴァレリーとナオミも同意するように深々と頷いた。
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