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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
三章

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書籍発売記念SS「メイリンは見た」

何気ない朝、メイリンがレダたちの部屋を覗くと……。




 春らしく暖かくなってきた日の朝、メイリン・ドーランはエプロン姿で我が家である『髭の小人亭』の掃除をしていた。

 まだ早朝の時間帯であり、料理の仕込みをする父ほどではないが早起きが癖になっているメイリンは、にこにこしながら箒を片手にお掃除中だった。


「あーあ、朝の空気が気持ちいなぁ。寒くなくなったからお掃除もしやすいもんね」


 まだ寝ているお客が大半なので大きな声は出さないが、彼女はいつもどおり元気いっぱいだ。

 お客に心地よく過ごしてもらえるために、我が家を清潔に保ちたいという思いから、今日も一生懸命掃除をする。

 まだ成人前ながら、よく働くメイリンのことを、宿の利用客が微笑ましく見ている。

 中には、しっかり者の彼女に、成人したら王都の自分の店で働かないかと誘う商人もいた。


「ふん、ふふーん。あ、そろそろ、ミナちゃんとルナお姉ちゃんが起きるころかな?」


 鼻歌を歌いながら、家族同然の付き合いの姉妹を思い出した。

 ある日、ふらりとアムルスに現れたレダ・ディクソンとミナ・ディクソン。

 なにか訳ありなのは、いろいろなお客を相手にしてきたメイリンはもちろん、父リッグスにもすぐにわかった。

 その証拠に、宿で生活するようになって数日で、ミナの姉というルナを連れてきたのだ。

 しかも、そのルナは、レダのことを父親としてではなく、異性として見ていること間違いないのだ。


 幼いメイリンにもはっきりとわかるルナの愛情。

 いささか過激な面はあるものの、一心にレダを慕うルナを見ていると、いつか自分にも恋するときがくるのかな、と楽しみになってしまう。

 そんなことをちょっと父に話してみると「よ、嫁に行くにはまだ早い!」と、なぜか動揺していた。


「ミナちゃーん、ルナお姉ちゃーん、起きてーーる?」


 レダたちの泊まる部屋をそっと開けて覗くと、メイリンは呼吸を止めた。


「……ルナお姉ちゃん?」


 まだ眠っているレダにしがみついて寝息を立てているミナの姿がある。

 それはいい。

 しかし、問題はルナだ。

 彼女は、起き上がってベッドの上に座って、眠るレダの顔をじぃっと見つめているのだ。


 なにごとだろうか、とつい息を殺して伺ってしまう。

 すると、ルナはレダの頬にキスし、


「パパ、愛してる。ううん、レダ……愛しているわ」


 と、呟き、繰り返し、頬や額、首筋にキスを降らしていた。

 唇にだけキスしなかったのは、どんな理由があるのだろうか、とメイリンは首をかしげる。

 その間にも、うっとりとした表情のまま、ルナはレダにキスをする。


「あわわわ……」


 情熱的なルナの行為を覗いていたメイリンは、自らの頬が熱くなっていくのがわかった。

 まだキスなどしたことにないメイリンにとって、ルナの行動は刺激的だ。

 父リッグスとだって、幼い頃頬に親愛のキスをしたくらいだ。

 ルナとレダに血の繋がりがないことも、形だけの親子であることをメイリンはしっている。

 その上で、家族であろうとする三人のことを、見守っているのだ。


「……パパ、あたし、もうすぐ成人するからね。楽しみにしててね」


 そんなことを言い、またキスを降らせるルナ。

 しばらくすると、満足したのか、レダの隣で眠る妹にもキスをしてから、揺り動かす。


「……ん、おねえちゃん?」

「おはよ。ほら、パパに朝ごはん作るんでしょ」

「うん……おきる」

「さ、顔洗ってきなさい」

「うん」

「ふふ、いつもは逆なのにね」


 ミナが部屋に備え付けてある洗面所に向かうと、ルナが微笑む。

 彼女は、愛しそうにもう一度レダにキスをすると、パジャマから着替えるために立ち上がった。


「…………」


 そして、メイリンとルナの目が合った。


「…………」

「…………」

「…………見てたの?」

「…………うん」


 ドアの隙間から覗く自分の視線に気づいたのか、ルナがにこりと微笑む。

 メイリンもつられて微笑もうとして、ルナの手に無骨なナイフが握られていることに気づいた。


「ーーぴぃっ」

「……あたしの神聖な儀式を見られてしまったからには、記憶を消してもらうか、存在をけしてしまうかのどちらかなんだけど……どっちがいいかしらぁ」

「記憶を消します! 私はなにもみてませんでしたぁ!」

「あら、いい子ね。素直な子って好きよ。ま、見られて困るわけじゃないけど、パパにだけは知らせないでね。警戒されちゃうから」


 頷くメイリン。

 ルナが本気で怒っているわけではないとわかりほっとした。

 覗き見してしまった自分に非があるので、文句を言われても反論できないのだ。


「ミナと厨房にいくから、今日もお願いねぇ」

「はーい」


 ルナの気が変わらないうちに、レダたちの部屋から去っていく。


「うふふふっ、刺激的なもの見ちゃった!」


 実を言うと、あまり反省はしていない。

 ルナの過剰なスキンシップに驚きはしたが、いいものを見たくらいにしか思っていなかった。


 メイリン・ドーラン。

 最近の楽しみはーー覗き見。

 もちろん、後日、父リッグスにバレて大目玉を喰らうこととなり、改善されることになる。






がうがうモンスター(https://futabanet.jp/monster)様にて、コミカライズ連載スタートしております!

原作小説と一緒にお楽しみいただけると幸いです!

どうぞよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 宿屋のムスメさん定番なのかな〜(笑)
[良い点] 書籍発売記念SS「メイリンは見た」 更新ありがとうございます。 [気になる点] ルナは本気でレダのことを…。変われば変わるものですね。 [一言] 次回の更新も、楽しみにしております。
[一言] 家政婦は見た!…のパロディですか。但し、盗み見の対象から脅しを受けるまでがセットだったけどwww ※コミカライズ版見ました。リンザが最初から飛ばしてるのが印象的でしたwww(悪女悪女している…
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