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おっさん底辺治癒士と愛娘の辺境ライフ 〜中年男が回復スキルに覚醒して、英雄へ成り上がる〜  作者: 飯田栄静@市村鉄之助
三章

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33「ニュクトの理由」




 お酒を飲むと言って夜の町に消えたリンザを見送り、手を振っていたニュクトは、彼女の姿が見えなくなると浮かべていた笑顔を消して唾を吐いた。


「感心しますー、よくもまー、これから襲撃しようとするこの町に滞在できますねー。どんな神経してるんでしょうかー?」


 一時とはいえ、恋人だったジールを死に追いやったレダのことが憎い。

 なぜ奴は、仲間だったジールの減刑を請わなかったのだ。

 ニュクトの調べた限り、領主と冒険者ギルドに気に入られているレダなら、ジールを無罪にできなくとも、死刑を回避することくらいはできたはずだ。


「……わたしもー、なにをしてるんでしょうかねー、手痛く振られたジールのために復讐なんてー。でもー、止まれませんしー、止まるつもりもありませんけどー」


 ジールと別れた後、それなりに愛着のあったパーティーから離れようとはしなかった。

 まだジールに未練があったし、新たなパーティーに加わるというのも難しく、また新パーティーの新人として下積みをするのもごめんだった。

 意外とジールはパーティーから出て行けと言わなかった。きっと、魔術師を新たに探すのが面倒だったのかもしれない。


 次第にジールへの恋愛感情も消えていった。

 彼が騎士崩れの剣士に手を出した頃には、ジールの女癖のだらしなさを知っており、なぜこんな男と付き合っていたのかと後悔したものだ。

 だが、彼がレダの参入でおかしくなり始めたときには流石に心配した。


 ジールは冒険者としてのし上がるつもりだった。

 金を手に入れ、女も、そして地位もすべて手に入れようとしていた。

ランクが上がればそれが可能だったので躍起になっていた。


 でも、ジールと自分たちの実力では難しかった。

 そんなときレダが現れた。

 ジールはすぐに彼の回復魔法に目をつけ利用することを考えた。

 聞いたこともない田舎からやってきた彼は、ジールを親切な青年くらいにしか思わなかったようで、とても従順だった。


 ニュクトはレダをお人好しの善人と判断していた。

 実際、その通りだった。

 当時は嫌いではなく、むしろ好感を抱いていた。

 しかし、そんなレダを加入させたことでジールが壊れていった。


 まず、回復要員を手に入れたことへの周囲の嫉妬だった。

 ジールはレダの実力は徹底して隠させた。せいぜいポーション代わりだということにして、他が駄目だから雑用として使っているとした。

 実際、雑用をレダが担当していたこともあり、また回復魔法をパーティー以外の目のあるところで使わせなかったので、みんなはジールの企み通り、レダを大したことないと信じた。


 厄介だったのが冒険者ギルドの受付嬢だった。

 彼女はレダと親しかったらしく、彼の回復魔法の実力を知っていた。そのため、もっとレダの待遇を改善すべきだという苦言から始まり、ジールとよくぶつかっていたのを覚えている。


 そして、決定的だったのが、レダの噂が貴族の耳に届いてしまったことだった。

 貴族はもちろん、レダを雇用しようとした。しかも、好待遇で、だ。

 きっと、レダに直接話が行っていたら、事の成り行きは変わっていたかもしれないと今でも思う。

 だが、貴族にしては珍しく、パーティーリーダーに筋を通そうと、ジールにレダの引き抜きの許可をもらおうとしたのだ。


 結果、ジールは自分たちが低ランクで燻っているのに、さらに下っ端のレダが成り上がることを許せず、嫉妬し、憎悪した。

 ニュクトも嫉妬しなかったとは言わない。だが、同時期にパーティーのランクが上がる話をギルドからもらっていたので、自分たちは自分たち、レダはレダでそれぞれの道を歩めばいいと思った。


 しかし、ジールは違った。

 レダを貴族に渡さず、だからといって利用することもせず、自分たちのパーティーからも追い出す始末だ。

 ジールの暴走は独断だった。


 聞いた時にはもうすでに後の祭り。

 とはいえ、レダと離れればジールが変わると思っていたので、ニュクトはどこか安心していた。

 しかし、ジールはさらに暴走することとなる。


 回復要員がいないのに無茶な突貫を繰り返し、怪我を負ってはポーション頼り。果てには、高額の治癒士の世話になる大怪我を負っても反省しない。

 むしろ、失敗すればするほど躍起になっていく。

 結果、パーティーに残ったのは高額の借金だった。

 同時期、ジールの冒険者ギルドに対する悪態や、今までの態度、そして現在の失態から、パーティーのランク上げが見送られてしまう。


 ジールはさらに暴挙を行うようになった。

 借金はさらに増え、ついにジールは恋人である剣士を娼館に売ろうとまで企み始める。

 そんな彼について行けなくなったニュクトと剣士は、ジールに別れも告げず逃げ出した。


 しばらくフリーの冒険者として活動しているとき、ジールが野盗に落ち、町を襲い、捕縛され死刑になったと聞いた。

 あまりにも酷い最期だった。

 だが、話はそこで終わらない。


 ジールを捕まえたのがレダだと知った。

 そしてレダは、その町の領主と冒険者ギルドと親しいのだとも。


 ジールを失ってニュクトは、彼をまだ愛していたと自覚した。

 失ってから気づいてしまった。

 この感情を持て余し、苦しむ日々。


 そんなときに思ったのだ。

 すべてレダが悪いと。


 ゆえにニュクトは復讐する。

 まず、嫌がらせとばかりに、レダの元恋人が金に困っていることを知り、レダの現状を教えた。

 想像以上にたやすくリンザは動いてくれた。

 あとは、「生贄」にするだけだ。


「そういえばー、もうひとりの生贄はー、どうしてるでしょうかー?」


 町に連れてこられる状態ではなかったので、外で偶然見つけた小屋に縛り付けてある。


「レダからー、すべて奪ってあげますー。あなたがー、わたしからジールを奪ったようにー、ジールからすべてを奪ったようにー」


 町の喧騒を耳にしながら、ニュクトはひとり町の外へ向かう。


「きっといい町なんでしょうねー。それだけー、この町がー、ぐちゃぐちゃになるのが楽しみですー」


 歪んだ笑みを浮かべたニュクトは、足取り軽く、夜の闇の中に消えていくのだった。





カバーイラスト公開中です。

活動報告、Twitterでご覧ください。

ミナがすごく可愛いです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 性根が大分歪んでるんだな、この作品中で過去最高のサイコパスかも知れない
[一言] ああこの子ももう手遅れですね。かわいそうだからちゃんと殺してあげないといけない。
[一言] きちが◯メンヘラ女こわ………
感想一覧
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