表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/603

プロローグ「悪いことは二度続く」




「テメェはもうクビだ」


 冒険者レダ・ディクソンは、所属する冒険者パーティー「漆黒の狼」のリーダー、ジールに容赦のない通告をされていた。

 夕食時の賑わう酒場で、二十代半ば過ぎの青年と向かい合い、レダは驚きに目を見開いていた。


「……いったい、どうして。こんな急に?」


 三十歳のレダは、冒険者としては底辺ともいえるFランクではあるものの、回復魔法を使えることと、アイテムボックスというスキルを持っていることでパーティーに貢献できていたと思っていただけに唖然としてしまう。


「急にじゃねえよ。あんたさ、前々からお荷物だったんだよ。ちょっと回復魔法使えるっていったってそれだけじゃねえか。戦いがずば抜けているわけでもねえし、せいぜい荷物持ちが限界だろ?」

「それは」


 ジールの言いたいことはわかる。

 レダは、あまり戦いに向いているわけではない。攻撃魔法は使えるがなにかの属性に特化しているわけでもなく、なによりも優しい性格が戦闘にあまり向いていなかった。

 しかし、それを補おうと補佐役として頑張ってきたつもりだっただけに、突然すぎる解雇通告にショックを隠せない。


「聞いてると思うけどよぉ。俺たち漆黒の狼はCランクからBランクに昇格できるかもしれない。なのに底辺のテメェがいると足を引っ張る可能性があるんだよっ。お情けで今まで使ってやってたんだから、感謝して黙って消えてくれや」

「……そう、だね。ジールには感謝しているよ。もちろん、みんなにも。田舎から出てきて右も左も分からない俺を拾ってくれたんだ」

「そう思うなら、荷物をまとめて出て行ってくれや。あと、親切心で言ってやるけどよ、テメェは冒険者を目指すには遅過ぎたんだよ」

「それは、そうだろうけど」

「俺らは十代のころから必死こいてやってきて、それでようやくここまできたんだ。テメェみたいに二十代半ばで駆け出しをはじめるなんて、俺たち舐めてるだろ?」

「そんなことはない。確かに、冒険者を目指したのは遅かったかもしれないけど」

「その遅さが問題なんだよ。ランクは底辺。歳だってもうおっさん。戦いはできなくて、お荷物……とっとと田舎に帰って畑でも耕してろ」


 突き放すような物言いにレダはなにも言えずに俯いてしまう。

 言い方はさておき、ジールの言葉はあまり間違っていなかった。

 冒険者に憧れて、田舎から王都に出てきたのが五年前。

 以来、冒険者として頑張って活動するも、パーティーの中で唯一底辺のFランクのまま昇格することなくずるずると五年が過ぎた。

 内心、ついにこのときがきてしまったのか、とも思わなくもないのだ。


「テメェに今まで渡したものはこっちで回収しておく。私物を奪おうなんて考えていないけどよ、これからBランクに挑む俺たちに、装備やらをくれてやる余裕はねえんだ」

「待ってくれ! それじゃあ俺は冒険者としてなにもできなくなるじゃないか!」

「だーかーらーよぉ、向いてねえからやめろって言ってんだよ。ったく、優しく言ってやれば調子乗りやがって」


 苛立ったように麦酒を煽ったジールは、赤くなった顔でレダを睨んだ。


「いいか、テメェの頭で理解できるように言ってやるからよぉく聞け。テメェはクビだ。理由は役立たずのくそったれだからだ。それが理解できたなら、なにも言わずに消えやがれ。いいな?」

「…………わかった」


 とてもじゃないが、数年苦楽を共にした仲間にかける言葉ではなかった。

 言いたいことが胸の奥から湧いてくるが、レダは唇を噛んで必死に堪えた。

 ここで揉め事を起こさないのがせめてもの抵抗だと言わんばかりに、レダは静かに席を立つ。


「今までありがとう。君たちがBランクに昇格することを祈っているよ」

「はっ、テメェがいなくなればBランクは確実なんだよ!」


 最後まで気遣う言葉など一切口にすることのなかったリーダーに、レダはこれ以上なにかを言うことなく背を向ける。

 そのまま賑わう酒場から逃げるように立ち去るのだった。




 ※




「冒険者じゃなくなったのなら稼ぎなしってことでしょ? じゃあ、もう、あんたなんて用はないわ。別れましょ」

「――え?」


 冒険者パーティーをクビになったことを、恋人リンザに伝えにいったレダを待っていたのは、優しい言葉ではなく辛辣なものだった。

 わざわざ夜にも拘わらず彼女を訪ねたのは、もっと温かい言葉をかけてくれると思っていたからだ。


 まだ付き合って半年にも満たないし、恋人らしい関係とは言えないかもしれない。

 だが、こうも冷たい対応をされるとは思いもしなかった。


「……別れるって、どういう」

「鈍い人ね。お金がないなら付き合っている価値がないじゃないの。そのくらい察して、自分から去るくらいの気遣いしてよ」


 あまりにも酷い物言いだった。

 リンザとは、周囲の勧めからだった。

 彼女の方から親しくしてきたのがきっかけだったが、気づけば外堀が埋められていた。

 王都暮らしは忙しいと同時に寂しいものであったレダは、とくに考えずに彼女との付き合いを始めたのだが、まさかこんな希薄な関係だったとは思わなかった。


「俺は今までリンザのために」

「あのねぇ、まさかお金のことを言うつもり?」


 言葉を遮られて、リンザに嫌な顔をされる。


「確かにあんたにはお金をもらってきたけど、彼氏が彼女を助けるのって当たり前でしょう。ていうか、私みたいな美人と付き合えるってだけでお金を払う価値があるんだから、小さいことを今さら言わないでほしいんだけど」

「君って、そんな人だったんだ。ご両親に借金があるから助けたかっただけだったのに」

「――ぷっ。ふっ、あははははっ! 両親って、あんた本当に信じてたの? 親なんて何年も顔を合わせていないわよ」

「嘘を、吐いていたのか、どうして?」

「……ったく、察しが悪いのね。本当に嫌になる。そんなのお金のために決まってるじゃない! ちょっといいパーティーに所属しているからお金持っていると思ったのに、大したこともなくて、しかもクビになるとか信じられない! これじゃ、付き合う意味がないのよ。わかった!?」


 要するに金づるだったのだ。

 自分は、リンザの本性に気づかず、わずかな収入を渡し続けていた。


「言っておくけど、お金は返さないからね。あんたからくれるって言ったんだから」

「そんなこと、言うつもりはないよ」


 そう返すのが精一杯だった。

 それ以上口を開けば、自分の情けなさに涙が溢れそうだったから。


「あ、そう。じゃあ、あたしはこれからデートだから。あんたみたいに金のない男じゃなくて、一流冒険者だからお金もたくさんもってるのよ。ふふっ、実力がなければお金だって稼げないんだから、冒険者向いてないんじゃないの?」


 嘲笑するような言葉に、レダは奥歯を噛み締め耐えた。

 反論しないことをつまらないと思ったのか、リンザは鼻を鳴らした。


「ま、あんたのことなんてどうだっていいけど。それじゃあ、もう二度と話しかけないでね」


 彼女はそう言って踵を返した。

 ヒールの音を立てて去っていく元恋人の背中を見送ることもせず、レダは背を向けて走りだした。

 悔しさ、情けなさが襲いかかってきて、とにかくなにかがむしゃらになりたかったのだ。

 しかし、アルコールの入った体は言うことを聞いてくれず、あっけなく地面を転がってしまう。

 周囲の人々が大丈夫かと声を掛けてくれたが、レダはそれがいっそう情けなく感じた。




 こうして、この日。

 レダ・ディクソンは冒険者パーティーをクビになった挙句、恋人も失ったのだった。





今さらながら「成り上がり系おっさん主人公もの」を始めます。

同時に「回復チートもの」でもあり、「幼女との日常もの」でもあります。

ヒロインも増えていきますし、ちょっとバトルもありますので、どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 30歳を中年って言うのはどうかと思います! タイトルの訂正をお願いします! [一言] 30歳を中年って言うのはどうかと思います! タイトルの訂正をお願いします!
[気になる点] 冒険者に憧れたけど戦闘は嫌 低収入なのに美人にお金を貢ぐ いずれクビになると予感はあったのに貯金なし 主人公が割と自業自得で…
[良い点] 走りだしは良好、だがまだ絶望するのには早い気がするので、成り上がれる要素は一杯残されてるから、なんとなく、見返せなくてもそこそこいい暮らしできそうだなと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ