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騎士王に召喚された私は生贄ですか?!  作者: 村田 梅
1章 異世界より来れり乙女
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6話 一滴のシミ

 神託があったその日の晩。ユーサー・ペンドラゴンは床に伏した。一国の王であり父であったその男の一生は、寿命と言うには余りにも早いもので、遺体はキャメロット地下にある歴代の王族が眠る墓に埋葬された。


 神託により国中の男たちがふるいにかけられる事になった。先ずは王位継承権を持っている人間から。次に上級貴族、中級貴族、下級貴族。アーサーは下級貴族出身の為次期国王として剣を引き抜いたのは神託があった日から随分と経った事だった。


 ブリタニアで1番大きな協会の前に突如現れた台座には剣が刺さっていて、筋肉自慢の男でも抜けなかったと噂が流ている剣。


 辺境貴族である僕がこの剣を持つに相応しいわけがない。その一心で握った柄は何故かしっくりと手に馴染み、そのまま上へと引き抜くと何故か抜けたのだ。


 なりたい訳でもない職業に就くとは、尽く僕の運が悪いとしか言いようがないな。


 キャメロットに着いてからアーサーは慌ただしい日々を送っていた。自身が守っていく環境を一つ一つ確かめるように見て周り、近衛を始めメイドや料理人にまで声をかけて回った。

 この行為が城に働いている人間の好感度を上げたのは間違えない。


 王城内の挨拶回りを済ませたある日、この国の要である王城キャメロット王座の間にて大司祭の名のもと秘密裏に行われた王位継承式にて、アーサーは羊皮紙に自身の名前を記入した。


 王座の間は大きな窓がありそこから太陽光が大理石の床を照らしている。王座の間の名の通り部屋の中には台座があり、その上に真紅の生地で出来た椅子があり、肘置きや足、背もたれを囲む飾りは全て金で出来ている。その王座から深紅のカーペットが伸びていて、脇には王直属の近衛兵が右手に槍を持ち、ずらりと並んでいる。そして、誓約書が書かれた羊皮紙は深紅の長いカーペットに跨る長さのテーブルに置かれており、その近くにはガラスで出来たインク壺に刺さっている白い羽根ペンがある。


 アーサーが記入した羊皮紙は国王になる者だけが書く誓約書で、これに名前を記さなければ王として認められない。この文化は初代ブリティニアが国を平和に導く為、神に誓った事からこの伝統は続いている。


「何に誓われますか?」


 大祭司の問にアーサーは特にないな、と考えながらもそれではこの大祭司にも認められないだろうと言葉を選び答えた。


「……この国の安寧と平和を神が僕を導いた聖剣に」


 神託と共に現れた台座に刺さっていた剣を、鞘ごと腰から引き抜いたアーサーは、それを王座のに向かって突き出した。


「神もその答えに祝福を与えるでしょう」


 大祭司はアーサーの答えに満足し、神の代弁者よろしくアーサーに祝福があると言って誓約書を持って王座の間から出て行き、それを確認したアーサーは溜息を吐いた。


「ガウェイン」

「はい……陛下、此方を」


 大祭司と入れ違いに入ってきたガウェインの両手には深い赤のマントがある。それを持ったまま、ガウェインの方に振り向いたアーサーの前に立ち片膝を床に付けひざまつき、両手に持っている深い赤のマントをアーサーに向かった差し出した。


 “赤”は王族の色を表す。

 赤を貰えるのは王の血を引く者と、王直属の部隊だけだ。ガウェインが身に纏っている赤いマントも彼が王直属の部隊にいる証だ。


「貴方の御心のままに」

「ガウェイン、貴殿は王に何を求める」


 両手で印を持ち上げるガウェインにアーサーは静かな声で問う。王とは何たるか、王子であれば幼い頃から考え、答えに導くものをアーサーは何1つとして知らない。

 つい最近まで辺境の下級貴族だったアーサーは、この赤いマントを受け取ったとしても何も持たない、この国に住まう全ての人に見せる権威を持たない空っぽの器なのを、アーサー自身がよく知っている。

 城内に常駐している貴族と擦れ違う度に感じる視線。何でこんな奴が。と鋭い視線が圧力としてアーサーに突き刺さり心臓が痛むのだから。


「答えろガウェイン」

「恐れながら……陛下。私は陛下に平等を求めます。陛下が我々臣民や民に与える御心は、平等で在るべきだと」


 基本的な事だろう。王は全ての者に平等で全ての者に愛情を示す。然しそれは同時に私利私欲を捨てる事と同じだ。平等の前では私欲は存在せず、逆もまた然り。

 王の全ては国の為に使われるのだ。


「そうか。君の理想は“平等である事”なんだね」

「はい」

「では、そう努めよう。君が胸を張って誇れるような王になる為に」


 ガウェインはアーサーの言葉に目を大きくさせた。それもそうだろう。つい先日まで辺境貴族だった男は既に王としての顔つきをしているのだから。


 アーサーはガウェインの両手に跨る王族の証であるマントを掴み、勢い良く肩にかけた。質量としては重たくもないが、目に見えない責任だけは吐き気がする程に重たい。

 一体何時どこで僕が王になりたいと言ったんだ。とこの場で叫んだ所で過去には戻れない。神とやらに役目を与えられたのなら、それを熟すまでだ。でないと僕が召喚してしまった少女に申し訳ない。


 大きく息を吐いたアーサーは赤いカーペットの上を歩き、王座の間を後にした。次に向かうのは政務室だ。城にいる兵は大体貴族の次男や三男、若しくは騎士団の中でも優れた成績を納めている者。それと打って変わって政務室の中にいるのは貴族の長男が殆どで、余程優秀じゃない限り、次男や三男といったものは出入り出来ない。


 中にはいるのだ。王位継承権を持っていた貴族も。


 扉の前に立つ近衛が政務室に繋がる扉を開けると、インクの匂いが鼻腔を通り抜ける。ここは各領地の情報が一手に入ってくるだけあって、その仕事量は多く負担の重たいものだ。


「陛下」

「なんだい?」


 アーサーが政務室に入って来て早々、1人の臣下がアーサーを呼び止めその場に跪いて頭を下げた。右手は心臓の上にあり、左手で握り拳を作り床に置いている。政務室にいる人間全てがその場に跪き、頭を下げている。


「改めてご即位おめでとうございます。我々国民を導くその手腕、存分に奮われますよう私共臣下は願っております」


 政務室で1番権力を持っている男。つまりユーサー・ペンドラゴンが治めていた時に、王位継承権第1位だった男がその場を代表し祝辞をあげた。


 それらしく言ってはいるが、所詮牽制だ。本音は“能無しとわかったら何時でも引き摺り落としてやる”っと言ったところだろう。

 そう考えたアーサーは綺麗な笑みを浮かべ宣言するように声を張った。


「あぁ。必ずやこの国をより良い方向へ導こう」


 勿論嘘偽りのない言葉だ。

 アーサー自身この国を愛している。その気持ちに偽りはなく、愛している国に貢献出来るならこれ以上嬉しい事はない。そう幼い頃から思ってはいたのだか。ただ、アーサーが思うような形よりも随分と斜め上をいく方向で貢献するように強要されるとは思わなかっただけだ。


 いつまでもくだらない事に気を取られている訳にはいかない。先ずはこの部屋に新しい風を吹き入れなければ。

 その為には……。


 一通りの挨拶が済んだ政務室はいつもの風景に戻っている。そんな中アーサーは伝令役を呼び皆がいる前で、夜にユイに会いに行くと伝えるように言い付けた。伝令役はアーサーの言葉を1字1句逃さず聞き、ユイの元へ行く為に政務室を後にした。


「よろしいのですか?」

「あぁ。彼女はこの世界で1人きりなのだから少しでも時間が空けば様子を見に行くくらい、いいだろう」


 それに、あの子がこの城の中で埋もれてしまっては困る。自分と言う存在を知らしめて貰わないと、僕に何かあった時、彼女に味方がいないと可哀想だ。

 ……その味方作りまでは手伝ってあげられないけれど。


 自分よりも幼い結衣を心配する気持ちは親心のようで、アーサーは僅かに口元を緩く上げた。


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