05
カリム・サンは俺の横に付かず、後ろにピタリとついて来ていた。護衛というより監視者のようであった。人混みに紛れて逃亡、あるいは、迷子にならないように注意を払っているように見受けられる。
「見せたいものがある」
俺は手紙を取り出し、後ろのカリム・サンに向けて手紙をひらひらさせた。
カリム・サンは興味を持ったようだ。横に付くとその手紙に食い入る。構わず俺は尋ねた。
「そこに書いてある“十人の後見人”とは何者だ」
「これをどこで」
「シルヴィア・ロザンが持って来た。送り主のそいつらが、どうやらシルヴィア・ロザンの真の雇主のようだ」
カリム・サンはおれの前に出て、立ち止まった。そして強い眼差しで俺を見据える。一国の王子に侍従がする態度でない。多くの通行人が俺たちを置いて通り過ぎていく。
「あんた、一体何者だ」
こいつは今、やっと分かったのだ。俺はキースではない。
ここは魔法とドラゴンの世界だ。何者かが魔法を使ってキースの姿になり、何かを企んでいる、と疑いを掛けるのは自然な流れだ。カリム・サンが剣を握って、いきなり切りつけて来ないだけでも良しとしなければならない。
だが、あえて、俺は言った。
「キース・バージヴァル。アメリア国の第二王子」
案の定、納得しないカリム・サンは強い眼差しを離さなかった。別に話してやっても良かったが、今はまだ正直に答えるわけには行かない。どんなトラブルに巻き込まれるか想像できないからだ。
「いいか、カリム・サン。人っていうのは生まれながらに持っていた気質と生まれた後の環境で決められた性格で成り立っている。俺はキースがゲスであることは承知している。だが、それは環境がそうしていたんだ。そもそもの俺はこういう人間だったんだよ」
「“俺はキースがゲスであることは承知”? まるで他人のようだ」
納得がいかないようだな。無理もないか。【改行漏れかと思います】「じゃぁ、もし、俺がキースではなかったら」
「殿下の居場所を聞き出さなければならない。それとあんたの目的もだ」
「キースはここにいる。それと目的か? 今やってるじゃないか。手紙にあるムーランルージュって店に行く」
「行ってどうする」
「“十人の後見人”に会って、シルヴィア・ロザンの解放を求める」
俺は先を急いだ。カリム・サンが後を追って来て、俺の横に並ぶ。
「シルヴィア・ロザンはあんたの慰み者で、やつらの小間使いでスパイだ」
カリム・サンは何でも知っているようだ。【改行漏れかと思います】「やつらとは?」
「マフィアだ。エンドガーデン全土を牛耳る十人のボスが、間違いなくその“十人の後見人”だろう」
「つまり、俺はやつらの神輿で、やつらはそうすることでやりたい放題やっているっていうことだな」
後見人か。含みのある言葉だ。やつらは俺を王にでもするつもりなのか。
「ムーランルージュの場所は知っているな。俺を案内しろ」
ますます会ってみたくなった。
ムーランルージュは遊女屋ばかりが集められた区画、遊郭にあった。形が奇抜な建物や派手な色の建物がある中、ムーランルージュはコンクリート造りで、四角くて色は白い。バルコニーが二階と三階にある何ら変わったことろもない普通の建物で、それがかえって遊郭で一際目立たせている。
入口のドアはかがり火で照らされていた。兜無しだが鎧を装備した男が二人、俺たちを出迎えた。
男たちは俺の顔を見るなり態度が変わった。エスコートしようとしたが、カリム・サンの入店は拒んだ。
俺は男たちに、こいつは俺の友人だ、と話した。上の許可が必要なのか、一人が店に引っ込んで行って、しばらくして、戻って来た。
俺たち二人は入店を許された。中で待っていた別の男に案内され、暗い階段を下り、地下に向かった。
地下は、店の大きさからは想像できないほど広い空間だった。この世界では、土地の権利は地上だけしか認められてないのかもしれない。あるいは、地上の地権者がグルなのか。地下は多くの人が行き交い、しかも、男も女も裸同然であった。
そこらじゅうで性交を行っている。酒が次々に運ばれ、テーブルの上には果物や肉が溢れ、漂う煙はタバコか、麻薬なのだろう。
俺は大きな椅子に座らされた。前にはテーブルはなく、数段の階段があって俺が座った椅子は高い位置にある。そこからは地下全体を見渡すことが出来て、まるで玉座のようであった。
音楽が止まった。性交をしている者も喧嘩している者も誰彼関係なくその場にいた全員、手を止め、ひざまずき、俺へと向かって頭を下げた。
カリム・サンは俺の横で、王を護衛する近衛兵長のように突っ立っている。音楽が再開された。正面ずっと奥には舞台があって楽団がいて美女が躍る。地下空間の中央には大きな風呂があって、男女が戯れている。
テーブルは所々に配置され、バーカウンターもある。水たばこのようなものを吸っている者もいたり、粉を鼻ですすっている者もいたりする。
俺の前に男が一人、現れた。階段を上がって来て、ひざまずき、手のひらを上に向けて俺に差し出してきた。
俺はカリム・サンを見た。カリム・サンは戸惑っている。この俺がまるで王なのだ。冗談にしても、これは明らかに反逆行為である。
「殿下、お手を」
男が言うので仕方なく俺は手を差し出した。男は俺の手に自分の手を添えると、俺の手にキスをした。
「ご落命したと聞いてどんなに悲しんだことか」 【改行漏れかと思います】男は俺の手を離さない。【改行漏れかと思います】「それがまた、このように殿下にお会いできたのです。こんなに嬉しいことがありましょうか」
男の頬に一筋涙が走った。男は泣いて見せたのだ。
「すいません。あまりの喜びで殿下の前で醜態をさらしてしまいました。お気を悪くなさらないように。さぁ、さぁ、ファーザーがお待ちです。お祝いの言葉を述べたいと世界各地から集まっております」
男は俺の手を軽く引き上げ、立ち上がるように促した。
誘われた通り俺が立ち上がると、男は手を離し、あちらの方へ、と離した手を玉座の奥の方へ向けた。
この男は武闘派ではなくこの館の支配人であろう。マフィアにしては貴人の扱いに長けている。
「カリム・サン殿。あなた様はここに残るのがよろしかろう。ファーザーたちはまだあなた様を信用していない」
支配人の言うとおりにするほかない。俺はカリム・サンに残るように命じて、誘われるままに支配人の後に付いて行った。
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