9.key necklace
首都セントウォータースにあるドン・ハウル・スプンフルの屋敷。
鉄仮面、鎧、兜そして刀、槍、銃器が立ち並ぶハウルの部屋。
虎の毛皮の椅子に腰掛けるハウルの前に従者ディグリーが蛇の化身のように音もなく姿を現した。
ディグリーは片膝をつき頭を垂れた。
拳銃を磨きながらハウルはぶつぶつ呟く。
「……この十数年、奴はこの国を支配してきた。俺は奴を兄として敬い、神として奉ってきた。だが近頃歳のせいか物忘れが酷い。誰に支えられてここまで来たのか忘れちまったようだ。傲慢で猜疑心に溢れている。おそらく目も悪いのだろう……未来が見えなくなっている」
ディグリーは動かない。黙って聞いている。
「モルテッドの件はご苦労だったディグリー。あの男はこの屋敷に侵入し、武器庫を調べていた。ついでにライサン、アルバータとその娘も殺してよかったのだぞ」
ニヤリと笑うハウル。
「ディグリー、次の標的は誰だかわかるか? お前は俺の心を読めるはずだ。〝レプタイルズ〟……お前の能力は計り知れない」
ディグリーはちらりと顔を上げ、また伏せた。
「ディグリーよ。お前がいるだけで俺は王になれる。最強の戦闘種族を操る俺は無敵だ」
ハウルは首に掛けた鍵型のネックレスを露わにし、ディグリーに向けた。
鍵に施された青い石が妖しげに光る。
少し間を置いてハウルは続けた。
「ライトニング・スモウクスタックの考えている事など全てお見通しだ。奴はサンダース・ファミリーとグルだ。あれから七日経っても働きを見せない……どころか、行方をくらませている。奴が狙っているのは俺、そしてハーツの命よ。だがあの若造はリトル・ラムたちに任せておけばいい。お前の次の標的、それはマッド・マニッシュ。あの男だ」
野望の臭気が漂った。
ディグリーが僅かに眉をひそめたのをハウルは見逃さなかった。
「どういう懸念だ? 言ってみろ」
「……何故、マッド・マニッシュを?」
「あのスキンヘッドの白髭男はハーツの手下――ということは俺の敵。だからだ」
ハウルは壁のハーツの肖像画に銃口を向けた。
「見てろ。この老いぼれは俺自身の手で葬ってやる」