7.magic
遊園地での事件以来、コリーナの様子がおかしかった。
笑顔が消え、毎晩悪夢にうなされた。
医者は心の病だと言った。
アルバータは片時も離れず、ただ優しく見守った。
七日目の朝、ライトニングの屋敷。
ライサンが玄関ポーチに立つ。
黙したまま、部屋の中のコリーナを案じて。
アルバータは中からドアを開け、彼をコリーナの部屋へ。
ベッドで震えているコリーナ。ライサンは見つめた後、コリーナのおでこに手をかざした。
眩い光。辺り一面真っ白に――アルバータは顔を伏せた。
しばらくしてコリーナの震えは止まり、笑顔が戻った。
ライサンはじっと、また不器用に笑ってみせた。
コリーナは彼の胸の中に飛び込んだ。
まるで闇の峡谷に突然光が射し、花を咲かせたように。信じられない光景だった。
ライサンの秘めた力を知らないアルバータは不思議でならなかったが、パジャマ姿ではしゃぐコリーナに素直に安堵した。
* * *
「ママ。ライサンのこと、好きなの?」
「え? どうして?」
「だって……メリーゴーランドの時、向かいあってたでしょ? 恋人どうしみたいに」
「え? あ、あれは違うわよ。〝笑顔〟っていうものを教えてたの。眉を引っ張ってね」
「……なぁーんだ」
アルバータはピンときた。
――メリーゴーランドに乗ったあの時、元気がなかったのは……妬いてたのね? と。
「コリーナが、好きなんでしょ? ライサンのこと」
「うん! だって、ライサンて、しゃべんないけどやさしいし、かっこいいもん!」
「フフッ。そうね」
その夜、ライサンはライトニングの部屋に呼ばれる。
ショットグラスのウォッカを一服、ライトニングは手を伸ばし、固く手を握る。
「ライサン……。娘のことは、ありがとう」
いいえとライサンは首を横に振る。
口を閉ざす彼だとしても、ライトニングは他の者と変わらず語りかける。
以心伝心を肌で感じ、良き関係を築いてきた。
こちらの言いたいことや考えを見透かすように動いてくれるライサンの、レプタイルズとしての脅威と神秘に畏敬を感じ、大切にしてきた。
「もしお前と酒を酌み交わし、語らうことができたら……」
ライサンは健やかな笑顔でグラスに注ぐ。
自分は酒は飲めないと手で示し空のグラスを手に取る。そして顔を引き締め、コクリと頷いた。
ライトニングは立ち、ライサンの肩を確と掴んだ。
「そうだ。いよいよこの国を変える。共に行こうライサン。お前の父シグニの無念を晴らすためにも」