3.amusement park
ある日曜の昼下がり、そこは親子連れで賑わう遊園地。
八歳の少女コリーナはメリーゴーランドを目指して急に走り出した。
大柄な用心棒モルテッドがその後を追った。その腕を、少女の母アルバータがガシリと掴んだ。
「モルテッド! 少しはほっといて。あなたたち警戒しすぎだから。こんなんじゃちっとも楽しくないわ」
入場の列に並び、コリーナは手を振った。
「ママー、見てて! 今日は一人でのってみる!」
アルバータは手を振り微笑んだ。
その隣りに立つもう一人、用心棒のライサンも手を挙げ、不器用に笑顔をつくった。
アルバータはそれを横目で見て笑った。
「ぷっ、あなたの顔ひきつってるわ。これがお仕事なのはわかるけど、もっとリラックスしなさいよ」
そう言って彼女はライサンの正面に立ち、眉間の皺を指でグイッと広げた。
二十歳になるライサンはスモウクスタック家の若き用心棒。
すらりと背が高く髪の長い、物静かな青年だ。
その澄んだ青い瞳は落ち着き払い、寂しげでもある。
頑なに寡黙なのは心を閉ざした過去を背負うからだと、周囲は理解していた。
武闘に優れ、秘めた力を恐れる者もいた。
成人した現在、主にこの母娘の護衛にあたっている。
コリーナはしっかりと馬にしがみついた。
ベルが鳴り、メリーゴーランドが動き出す。
優雅に回り来るコリーナのはず、だったが元気がない。
――やっぱり無理なのかも。以前の落馬の恐怖がよぎってる……そう心配するアルバータは大きく呼びかけた。
「コリーナ! ママがちゃんと見てるわ、大丈夫だから」
ライサンは周囲を見渡しコリーナの安全を確かめる。
モルテッドは厳つい顔のままライサンに合図を送り、反対側へ回った。
コリーナはようやく顔を上げ、母親の声援に応えた。
両手を振りながらアルバータは隣りのライサンに言った。
「ライトニングはあなたを頼りにしてるわ。勇敢な戦士だって。でも無茶しないで。自分の体を大事にね」
ライサンがコクリと頷いたその時、メリーゴーランドの向こう側に立つモルテッドの異変をライサンは感じた。
やがてメリーゴーランドが停まり、降りてくるコリーナをアルバータが抱きしめる。
母娘をガードしつつ、取り囲む人混みの中へ駆け込むライサン。
そこには倒れているモルテッドの姿があった。
ライサンは彼を抱きかかえた。
だが既に手遅れで、モルテッドは白目をむき息絶えていた……。