14.reptiles
ハーツ将軍の生えた左腕は床まで伸び、皮袋の中身を掴み引き上げた。
その物体とは血塗れの〝ハーツの首〟。本物の将軍の生首だ。
ハウルは恐怖に慄き、モゴモゴと絶叫し錯乱した。
目の前に立つハーツの顔が変わってゆく。
ざわざわと髪と肌が蠢き、やがてそれは……スプンフル・ファミリーの幹部の一人、マッド・マニッシュに!
不気味に笑う。
スキンヘッドに白い顎髭のマッド・マニッシュは顔を近づけ、舐めるように見回した。
「ハーツ将軍はとっくに殺したよ、ドン・ハウル・スプンフル。お前の手間が省けたではないか」
そう言って右掌を膨らませ、ハウルの頭を生卵のように握り潰した。
マッド・マニッシュは立ち竦むディグリーに目をやった。
「……姿を戻せ〝ライサン〟。お前だとわかっている」
彼がしたのと同じようにディグリーから形を変え、ライサンは元の聡い青年の姿に戻した。
「ディグリーを倒すとは大したものだ。さすがはライラの子……」
ライサンはハウルから奪った拳銃の銃口を向けた。
「無駄な足掻きはやめろライサン。そんなものは効かん」
マッド・マニッシュはハーツの頭を部屋の端に放り捨て、転がるハウルの胸元に手を伸ばした。
そして鍵のネックレスを引きちぎり、フリージン・ブルーを宙にかざした。
「こんなもの! ただのマヤカシだ」
彼は口を大きく開けそれを飲み込み、それからライサンを睨んだ。
「そう。ディグリーを裏で操っていたのは俺だ。ハウル・スプンフルに従えと命じた。ハウルの内情を探るためにな。ディグリーは完遂した。ただ、一つ……奴は失敗を犯した。戦いの末、ディグリーはライラを殺してしまった。奴は元来殺戮を好んでいたからな」
そう言ってマニッシュはクリスタル像〝ライラの像〟に歩み寄る。
――ライラ……愛しのライラ。俺は知っている。お前はこうして仮死状態にあると。自らそうしたのだろう? 自ら戻せない術なのか? ……どうしたら、お前を呼び戻せるんだ? どうしたら……。
金縛りにかかって動けないライサン。ただ涙が頬を伝った。
「だがスプンフルはもっとタチが悪い。美しきライラをこのように並べおって」
愛おしげに見つめるマニッシュ。
「人間というものは……想像している以上に、もっと残酷なのかもしれん。奴らは知能が高く、技術を繋いだ。この国を支配し、我々爬虫人類レプタイルズを虐げてきた。我がもの顔で。王族は我々を育てたというが、あれは嘘だ。争いの道具として利用したに過ぎん。優れた者は寵愛されても能力のない大多数は蔑まれた。奴隷扱いだった。かつて俺もライラと同じように国王に仕えていた。だがある時、俺は自尊に目覚めたのだ」
氷のように固まったライラを見つめ、しばらく首を傾げた後、マニッシュは続けた。
「ライラとお前の父親シグニが恋に落ちた。相手は人間だ! 許されない! ましてや子供まで! ……ライサンお前が産まれた時、俺は国王の下を去った。姿を変え、一人彷徨い、逃げ延びた。そして〝マッド・マニッシュ〟として復讐を誓った。復讐! それは俺たちを虐げてきた人間たちへの復讐だ。それがいよいよ、今から始まるのだ」
マニッシュは鋭くライサンに視線を投げる。
「ライサン、お前は俺の部下となれ。我々の王国を築くために働くのだ。それしかお前の生きる道はない」
必死で藻搔くライサン。その目は激しく抵抗している。
マニッシュは右手を部屋の入り口側にかざし、捕まえてきた人間二人を中に引き寄せた。
側近たちは部屋の中を覗いた途端、その場に倒れ動かなくなった。
マニッシュは薄ら笑いを浮かべ、言った。
「それにしてもライトニング・スモウクスタックの奴はまだ姿を現さんな。さては怖じ気づいたか……自らの手で妻子を守れん男など、クズ同然だ」
念力で引き寄せられ床に叩きつけられた二人、それはアルバータとコリーナだった。
ロープで縛られ、粘着テープで口を塞がれてる。
気を失っているだけで息はある。
「アルバータはクロスロード王の娘。我々を利用してきた王族の血……だからこそ生かしてはおけんのだ。ライサン、その銃でこの二人を撃ち殺せ!」
重くのしかかる念波。
ライサンの意識は朦朧としてくる。
マニッシュの目が白く光る。
「虐げられた我が種族の怒り、悲しみ……どうだ? ライサン、レプタイルズの血が騒ぐだろう。今のお前は俺に逆らえん」
ライサンの腕が勝手に動いてゆく。表皮が波打ち、温もりが薄れた。悶えながら冷血な歯を光らせた。
「撃つんだライサン、人間どもを排除しろ! 撃てっ!」
ライサンは目を閉じた。
魔物と化したマニッシュの恫喝が胸を劈いた。
「撃てーーーーーーっ!!」
ライサンは引き金を引いた。




