1.RISUN
太陽が高く輝くまで 僕は待ち続けた
太陽が高く輝くまでの憂鬱が僕につきまとった
でも僕は泣かない
ただ黙って待っているんだ
ーーMOTHERLESS CHILD.
〝希望と夢の国〟エルドランドより遥か海の彼方……
そこは独裁軍事国家〝クレイドルズ〟。
統治者〝ジェネラル〟ハーツは神と崇められた。
軍人を尊ぶ新たな階級が明確な格差を生んだ。
古来〝武族〟と呼ばれたスプンフル・ファミリーはその神ハーツ将軍を後ろ盾に強大化した。
この国に警察の統率力はなく、あるのはドン・ハウル・スプンフルの力だけだ。
庶民の目には彼と将軍は同等だった。
事実、ハーツとハウルは兄弟だった。
正義で楯突く判事や弁護士はことごとく潰された。
反旗を翻す武族や謀反を企てる旧政府軍残党も根こそぎ抹殺された。
ドン・ハウル・スプンフルは首都セントウォータースの裏社会の支配者として君臨した。
「兄ハーツ将軍は我が血族の誇り。スプンフル・ファミリーはこの国を制し、統治し、栄華をもたらす神の家族なり!」
夜、一人の男が裏街道を走り抜けた。
腕から血を流し追手から逃げていた。
袋小路に追い詰められると突然眩い光が射し込んだ。
意識を失い、取り戻すと彼は狭い小屋の中にうずくまっていた。
薄明かりに立つ黒いスーツの男が静かに彼を見つめていた。
「目が覚めたかな? ライトニング・スモウクスタックよ。私が貴方をここへ運んだ。力を貸そう。今こそ立ち上がる時だ」
黒スーツの男の呼びかけに身を起こすライトニング。
目の前の板間には血塗れの弾丸が転がっている。
腕の傷口は縫合されていた。
ライトニングは見上げ、黒スーツの男に訊ねた。
「……あんた、何者だ?」
「私の名はシグニ。貴方の同志だ。スプンフルそしてジェネラル・ハーツを倒すために動き出した」
外で機関銃が唸る。その煙突小屋はたちまち包囲された。
スプンフルの者たち十数名が流血を辿ってやって来た。
ライトニングはくすんだ窓の外を見て言った。
「俺は幹部の一人を殺った。スプンフルの横行とハーツ将軍の圧政に我慢できなくてな。死を覚悟で報いたんだ」
シグニが肩を掴む。
「いや、貴方は死なせない。私と、私の息子が貴方を守る」
再び機関銃が暴れ出したかと思うと、突如ぱたりと鳴り止んだ。
ライトニングは外へ出る。
硝煙と砂埃の中、一人の少年がそこに立っていた。十歳ほどの端正な顔立ちの少年。
白い装甲服を纏い、剣を払い、灰色の髪を揺らして。
スプンフルの者たちは皆、地に伏している。
「……え? まさか、こいつらは……君が?」
状況を見て震撼するライトニング。その肩をさすり、シグニが説明した。
「ああ。息子に銃は効かない。私の言うことだけは聞くがな」
ライトニングは一瞬身が竦んだ。
少年は血の滴る剣を舐め、ニヤリと笑った。
シグニはライトニングの前に出て、その子を彼に紹介した。
「あれが私の息子、ライサンだ」