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魔界賢者のスローライフ  作者: 徳川レモン
第三・五章 平穏と魔界賢者

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六十七話 昔話の始まり

 テント内で紅茶を飲んでいた僕の元にイリスが報告に来た。


「最初の合格者が戻ってきました」

「連れてきてくれるかな」

「かりこまりました」


 カップをテーブルに置いたところでテント内に一人の青年が入る。

 ブラウンカラーの短髪に眼鏡を掛けた知性的な顔立ち。身長は高く痩せ型で、生まれた時から着ていたのかと思うほど、紺色のローブがしっくりくるいでたちだった。


 彼には見覚えがあった。


 グランメルン研究所にある僕の研究室のメンバーの一人だ。

 しつこく何度も何度も質問をしてきた出来事はまだ記憶に新しい。


 しかし彼が部隊に入りたいと思っていたとは意外だった。彼は研究に熱中していて戦いにはまるで興味のない人物だと認識していたからだ。研究成果も上々ですでに宮廷魔術師の一人に入っているエリート中のエリート、順調にいけば賢者の席も十分に射程範囲だと思っていたのだが。


「数日ぶりですアモン様。改めて自己紹介を、小生はスティーブ・ビルフォリオと申します。年齢は十八。グランメルン研究所にて貴方様の指揮の下、日々魔法陣の改良に努めております」

「うん、数日ぶりだね。まさか君が参加していたとは」

「そう思われるのも無理はありません。研究員は基本的に研究畑を邁進するもの、戦いなどに好んで身を投じる者はそうはいないでしょう。ですが、小生はアモン様に付いて行くことこそが研究のめざましい進展に繋がると判断いたしました」


 少し変ってると思ってたけど、わざわざ研究所から出てくるなんてかなりの物好きだったみたいだ。僕としては慕われるのは嬉しいし、成長を見込めると踏んでもらえた期待も好ましく思えるけど、正直過大評価されているような気もしなくもない。


 しかもさ……彼って実はビルフォリオの孫なんだよね。


 元賢者カサル・ビルフォリオには優秀な孫がいて、その子が僕の元で研究者をしているなんて知った時は心底驚いた。

 結婚していたのか――という点もそうだけど、なんでその孫がライバルであるベネディクトの研究室にいたのかってところも大きく疑問を抱かせた。孫なら祖父の研究室に行けば良かったのにと当然思うだろう。


 でも理由を知って納得した。


 スティーブは祖父を嫌っているのだ。


 原因はいくつかあるらしく、頭が固く融通が利かない、男好き、これと言って目立った功績もない、男好き、あれこれ余計な口出しをしてくる、周囲から賢者の孫として見られ正当な評価が得られない、あと男好き。

 とにかく祖父を下に見ていて毛嫌いしているのだ。


 うん、気持ちは分からなくもない。


 その反動から彼はベネディクトの研究室に入り、祖父とは無関係な己だけの成果を求めて歩みを続けているそうだ。


「さて、君はずいぶんと早いクリアだったけど、どうやってタリスマンを見つけたのかな?」

「小生の得意とする魔術は熱。すぐに魔物に体温がないことに気が付き、これはアモン様による多人数への内幻術であると仮説を立てました。小生自身に内幻術をかけ続けこれを相殺、三階層の構造に不自然な点を発見し、隠し部屋にあるタリスマンを無事回収したしました」


 素晴らしい判断力と決断。

 己に魔物を認識できなくする幻術をかけて幻術同士を打ち消したのか。


 もし内幻術じゃなかったら、魔物に殺されていたかもしれないというのに、あえてそれを実行に移し最短でクリアした度胸は僕も脱帽だ。誰にでもできることじゃない。

 加えて三階層にあった隠し部屋を見つけたのもいい洞察力だ。

 仕掛けとしては比較的簡単にはしていたが、それでも見つけるのは至難の業だっただろうに。


「小生からも質問があります。あのようなダンジョンをどうやって見つけられたので?」

「見つけたんじゃない造ったんだ」

「アモン様が?」

「そこまで難しいことじゃない。設計図通りに土の魔術で構築しなおせば、あのくらいは誰だってできると思うよ」

「誰でもなどと……どれほどの魔力と緻密な術式を組めばできるのか見当も付かないのですが……」


 唖然とするスティーブに「そうかな?」と軽く返事をする。

 魔術師なら誰だって岩のブロックくらい構築できるじゃないか、それの拡大応用をしただけなのだけれど。でも必要魔力量を考えると難しいのかな?


 ひとまずスティーブには、試験が終わるまで別テントで過ごすように命令した。




 試験二日目。

 次の合格者が現われた。


 予想通りフォリオ、ベネだったようだ。

 おまけに二アという少女も同行していて三名の合格が認められた。


 彼らは今回の試験の目的をよく理解していたようだ。


 僕が望んだのは別の参加者との協力である。

 合理的に考えればこの試験を単身でクリアすることは難しい。与えられたポイントはせいぜい魔物の攻撃三回分。少ない食料と数多くの魔物に閉鎖的な空間、悪条件を乗り越えるには他者の協力が不可欠のはずだ。


 だが同時に裏切りにも警戒しなくてはならない。

 同行する仲間は本当に信じられるのか、その真偽を見極める目をこの機会に養ってもらいたかった。


 三人をテントに招き入れ試験の感想を聞く。


「今回の試験どう感じたかな」

「アモン様には申し訳ないですが我々には簡単すぎましたぞ」

「あえて最下層のタリスマンをとりに行ったのも余裕の現わレ。合格するだけなら数時間で達成していタ」

「君達はそうだろうね――君はどうかな?」


 僕は二アに目を向ける。

 彼女はおどおどした様子で長い前髪の隙間からこっちを覗いていた。


「実はずっと壁を壊して良いのか悩んでました……それならもっと早くたどり着けたんじゃないかって……」

「どうしてそうしなかったの?」

「試験ですし、変なことをすると不合格になるかもって……」


 フォリオとベネはニヤリとする。

 僕も思わず口角を少し上げた。


 この子は常識に囚われない思考の持ち主のようだ。


「別に壊しても良かったんだよ。僕は最初にタリスマンを手に入れろとしか条件を提示しなかったからね」

「そうだったんですね」


 彼女は納得したように頷いた。





 三日目の試験最終日。

 二名の合格者がダンジョンから出てきた。


 一人は糸目の優しそうな少年。

 一人は気の強そうな長い金髪をカールさせた少女だ。


 それぞれ僕のテントで自己紹介する。


「僕はピート・ベルザスといいます。どうかよろしくお願いいたします」


 ピートは金髪をおかっぱにした十五歳ほどの少年だ。

 まだあどけなさを残す可愛らしい顔立ちで、柔らかい物腰と雰囲気から荒事には向かない印象を受けた。

 だが、それよりも驚いたのが、なんとこの少年レイモンドの弟だというのだ。


 どうしてライバルと言ってもいい僕の元へ来たのか気になったが、その辺りは追々聞くことにした。


わたくしはエイミー・ベネディクトよ。言わずもしれた賢者ベネディクトの娘。アホンだかアベンだか知らないけど、超一流魔術師のわたくしが部隊に入ってあげるわ」


 エイミーはアーモンドのような大きな瞳に、キリッとした眉が気の強さをよく表わしていた。お嬢様らしく自信満々の態度は無駄に注目を集め、ピンクのローブには魔術師にはまったく無用のレースがふんだんに付けられていた。


 こっちは聞くまでもなく自ら教えてくれている。

 どうやら彼女は元賢者クリス・ベネディクトの娘らしい。


 なんとなく僕の部隊入りを志願した理由も察することができる。


「ねぇあんた! お父様をどこへ隠したの!? 部隊員になってあげたんだから会わせなさいよ!?」

「ごめんね。陛下には誰にも面会させるなって命令を受けてるんだ」

「なんでよ! ちょっとくらいいいじゃないケチ!」


 ……だと思った。


 ちらりとフォリオとベネを見ると青ざめた顔であわあわしている。

 孫と娘が同僚になったなんて二人には不幸な話だろう。とてもではないが見せられる姿じゃないし。


 とりあえずこれで試験は終了にしよう。

 僕は六人の名前を記載した書類を兵士に渡した。


 これより正式にアモン部隊の活動が開始されるのだ。


 でも前途多難な予感がビンビンしてる。


 何事もなければいいが……。



 ◇



 試験翌日。

 僕はのんびりサーニャの淹れた紅茶を飲んでいた。


「御当主様、例のお客人が来られております」


 執事のエドワードの呼びかけに頷いて応じる。

 彼がそのように呼ぶ人物は一人しかいない。


 やれやれと溜め息を吐きつつエントランホールへと向かう。


「おおおっ! アモンよ! おっと、ここではロイだったな!」

「こんにちは陛下。今日もお元気そうで」


 満面の笑みでハグをするのはアラン国王陛下だ。

 ここ最近暇さえあればこうしてこの屋敷に訪れる。


 こんなことなら正体を明かすんじゃなかった。


 もちろん今でもあの時の判断に後悔はない。

 大罪人であるアルベルトの身柄を引き受けるには、もう一歩踏み込んだ信用が必要だった。もし逃した場合、全ての責任を僕が負うと言う意思表示をする必要が。


 ただ、おかげで居場所を探り当てた陛下が、こうして気軽に顔を出しに来るようになってしまったのだ。


「今日はどのような話を聞かせてくれるのだ!? 魔術か!? 魔道具マジックアイテムか!? それとも余が知らぬ未知の悪魔デーモンか!?」

「ひとまず書斎に行きましょうか」

「うむうむ、美味い菓子を所望するぞ!」

「はいはい」


 玉座に座ってると大人なのに、ここへくると途端に子供になるなぁ。

 お忍びで宮殿を出てきてることは知ってるけど、そろそろ大臣やプリシア辺りが文句を言い出しそうで怖い。


 書斎のソファーに対面で座ると、サーニャが紅茶とクッキーを出してくれる。

 ひょいっとクッキーを口に入れた陛下は、紅茶で流し込んで至福の表情となった。


「美味だな。真に美味」

「大げさな。宮殿の方が質の良い茶葉を使ってるでしょうに」

「貴公には分からぬか。この自由と共に味わう茶と菓子の甘味が」

「……すっごく分かる」


 王様ってほんと自由がないんだよね。寝ても起きてもずっと管理される生活。

 実のところ僕がさっさと息子であるライオットに王位を譲ったのも、縛られる生活が嫌だったからだ。

もっと王様らしくしろとか、もっと威厳を出せとか、研究室を爆破するなとか。

 僕は平穏にのんびり生きたいんだ。


「それで今日はどのような話を聞かせてもらえる」

「ああ、それなんだけど」


 僕は天井を見上げて少し考えた。

 そろそろこの話をしてもいいかな。


 ちょうど数日前にプリシアには話したし。


「陛下は僕が魔界から戻ってきたことはご存じだよね?」

「うむ、初めて聞いた時は嘘かと思ったが、今までのことを思えば紛れもなく真実なのだろう」

「うん。それで僕がどうやって魔界で生き抜いたかを話そうと思う。もちろんこれは他言無用でお願いするよ。僕と二人の兄弟と陛下だけの秘密だ」

「おおおおおっ! 貴公との秘密か! よかろう、歴代国王の霊に誓って約束は守る!」


 僕は頷いてから静かに話を始めた。


 あれはそう――魔界に落ちた直後から始まる。



 第三・五章 〈完〉


いつもお読みいただきありがとうございます。作者の徳川レモンです。

これにて2019年の魔界賢者の更新は終了です。次章から過去編を開始しますが、いましばらくお待ちいただけると嬉しい限りです。

それでは良いお年を(^^)/

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[一言] うほぉとうとう過去変ですかあ! 楽しみに待ってます! 良いお年を!!
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