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 ジニーをリア婆さんの元まで送り届けた後、俺とレスカ、ヒビキは、どうやってジニーと猫精霊との契約を他の火精霊に邪魔させないか、成功させるか、という方法を考えた。


「叔父の本には、魔物関係の書物が多いので、あまり役に立てなくてすみません」

「うーん。私が結界を張って、その中で契約する……って言うか、精霊ってどこにでもいるから妨害を防ぎようがないわねぇ」


 レスカとヒビキが悩む中、俺の答えは――


「猫精霊の魔力の籠もった威嚇は、俺の使う《錬魔》と似た働きがあると思う」

「つまり、どういうこと?」

「ジニーが《錬魔》や火精霊の妨害でも契約の魔法陣が乱されないほどの魔力制御や強度を引きあげれば、あるいは……」

「そんなの一朝一夕でできることじゃないわよ~」


 俺の出した方法にヒビキが頭を抱えて否定し、俺もそうだよなぁ、と溜息を吐き出す。

 人間の魔力量は、例外的なことを除けば、ほぼ生涯変わらず、僅かに増える程度だ。

 そのためにジニーの魔力は、正確に計ったわけではないが一般人よりやや多い程度。

 また、《錬魔》を受けても壊れない乱されない魔力制御となると、鍛錬を初めて二ヶ月のジニーは、到達していない。

 才能が無い俺が、養父に拾われた5歳頃から今の12年間、地道にやって辿り着けるほどの精度が求められるだろう。


「いや、待って! 外部から別の魔力! そう私の【極大魔力】を魔法の触媒に溜めて、ジニーちゃんの契約魔法の時に使わせれば、ってその大容量の魔法の触媒がないんだし! そもそもそんな大きな魔力をジニーちゃんが操ることができないじゃない!」


 ウガァァッと珍しく頭を悩ませて吠えるヒビキは、そのままテーブルに突っ伏す。


「ううっ、レスカちゃ~ん。無力なお姉さんを慰めてぇ~」

「あはははっ、ヒビキさん。大丈夫ですよ、きっと上手くいきます」


 レスカに抱き付き、胸に顔を埋めるヒビキは、レスカに頭を撫でられ、軽く髪を梳かれる。

 そして、俺も立ち上がりレスカの背後に回ると、レスカの頭を撫でる。


「な、なんで! 私の頭を撫でるんだ!」

「いや、つい……」

「ついじゃないですよ! コータスさん!」


 レスカも色々と考えてくれたし、手伝ってくれたので、頭を撫でた方が良いかな、と思ったが、怒られてしまった。

 そして、そんな俺たちの様子を顔をレスカの胸に埋めていたヒビキがニヤニヤと笑うのが少しイラッとした。


「まぁ、今日これくらいで寝ましょう。明日にはいい考えも浮かぶかも知れませんから」


 そうしてレスカの提案でお開きとなる。

 レスカは、眠たそうなチェルナを連れて、ペロと自室に戻り、ヒビキは、頼まれていた革細工への付与魔法の仕上げをするためにもう少し作業をするらしい。

 俺は、明日の牧場の手伝いをするために、大人しく眠る。


 そして翌日――


「結局、思いつかないな」


 今日も曇り空で寝ている間に小雨が降ったのか牧草地が湿っているので滑らないように注意しながら、朝の仕事を行う。

 マーゴも姿を現わさないが、コマタンゴたちは湿気を含む天気に生き生きとレスカの牧場の敷地内を歩いている。


 そして、今日もレスカの用意してくれた朝食を食べながら、本日は他の牧場からの手伝いの内容を聞いていた。


「今日は、ヒビキさんに牧場のお手伝いのお願いがあるんです」

「レスカではなく?」


 俺が不思議そうに首を傾げながら、朝食のパンを千切り、スープに浸して食べる。


「どうやら、サラマンダー牧場の手伝いで火が欲しいみたいです」

「ああ、そういうことか」

「えっ? どういうこと? ちょっと分かるようにお姉さんにも教えてくれない?」


 俺とレスカは、先日そのことに関して放していたが、ヒビキは、【炎熱石】――サラマンダー・ルビーについては、あまり知らない。


「【炎熱石】は、熱を溜め込み、そして放出する性質があるのは覚えていますよね」

「ええ、湯屋に使われたり、あとは、魔物の孵化にも利用されるのよ」

「そうです。大抵は【炎熱石】の消耗期限より先に蓄えられている熱量が放出されるんです」

「あー、なるほどね。私の魔法で【炎熱石】に熱を補充して欲しいのね」


 大抵、熱量を放出し終えた炎熱石は、鍛冶屋や調理場、炭焼き小屋などに置かれて、余剰熱量を少しずつ吸収させて再利用される。

 だが、梅雨の時期がもう間近に迫っている中、悠長に熱量を溜めさせるより一度に集めて一気に片付けて備えたいのだろう。


「了解したわ。あー、でもジニーちゃんも連れて行った方がいいかしら?」

「ジニーちゃんをですか?」

「ええ、最近は魔力制御も上達しているから自分の魔法が役立つ、ってことを感じさせたいのよ」


 僅かな種火程度だが、火魔法を安定させられるジニーのちょっとした手伝いだ。

 冒険者になれなくても、薬屋の他にもそうした特技を使った仕事があることを知る社会見学になると予想した。


「なら、この後、ジニーちゃんの予定を聞きに向かいましょうか」


 朝食を食べ終え、朝に頼まれた【炎熱石】の熱量を補充する仕事に出かける。

 その際、牛舎の入り口を開け放ち、放牧したリスティーブルのルインに軽く出かけてくることを告げる。


「いってくる」

『ヴモ~ッ』


 天気が若干悪いが、それでも雨のない合間には、ほどほどに運動させて少しでもストレスを溜めないようにさせる。

 また、雨が降れば、すぐに開け放った牛舎の中に避難できるようにもしてある。


「それじゃあ、行きましょうか。ペロ!」

『『ワンッ!』』

『キュイ!』


 レスカの呼び掛けにペロがチェルナを背に乗せたまま駆け寄ってくる。

 そして、その様子を微笑ましそうに見つめながら俺たちは、牧場を出かける。


「あっ、そうだ……」


 朝の仕事の忙しさで忘れていたが、ジニーの召喚した猫精霊は、今朝から見てなかった。


「今日は、マーゴと猫精霊を見ていなかったな」

「そういえば、私も忘れてました。でも、どっちも相性が悪いですし、ご飯も必要無いですし」


 マーゴは、コマタンゴの妖精なので養分は、土中から吸収することができるし、猫精霊は食事の必要もない。


「猫だから、どっかに散歩に出てるんじゃない? 一応、触媒と魔力の力で昨日の今日で実体化できずに消える、ってことはないはずよ」


 それなら何処に……などと不思議がるが、ふと視線を感じて振り返る。


『ニャァ~』

「付いてきてるな」


 俺が振り返って見ると俺たちの後に一定距離で猫精霊が付いてくる。


「ホントに、付いてきますね」


 俺やレスカ、ヒビキが振り返り、猫精霊を見ると、慌てて建物の影に隠れてこちらを覗いてくる。

 それを追って、引っ張り出そうとチェルナを乗せたペロが駆け出すが、猫精霊は、精霊なので空を駆けて、ペロの届かない位置まで距離を離して一度隠れる。


『『キュゥン』』

「よしよし、連れてこれなくて残念だったね」

「大丈夫だ。あいつの距離感ってやつがあるだろうから無理に追わなくて良い」


 俺とレスカは、猫精霊を連れてこれなくて、しょんぼりと頭を下げるペロの二つの頭を二人で撫でる。

 ペロは、賢い双頭の魔犬であるために、分かった、と言うように短く鳴き、前を真っ直ぐ歩いてくる。

 そして、しばらく町中を歩き、リア婆さんの薬屋に辿り着く。


「こんにちは、ジニーちゃん居ますか?」

「おや、全員揃ってどうしたんだい?」


 リア婆さんの薬屋で入り口から声を掛けると、薬を調合している最中だったリア婆さんが顔を見せてくる。

 珍しそうに軽く目を見開き、俺たちを見回す中、レスカが用件を切り出す。


「実は私たち、炎熱石の熱量補充の仕事をお願いされているです。それにジニーちゃんも手伝ってくれないか、と思いまして」

「ついでに、魔力制御の訓練も兼ねて、と思い、私が提案したんです」


 レスカとヒビキの説明に、リア婆さんがなるほど、と頷く。


「最近、ジニーは、薬の調合の際、種火を魔法で生み出していたからねぇ。暴発させていた以前に比べれば、上達したってのが分かるとこっちも嬉しくなるよ。それが人様の役に立つなら嬉しいよ」


 ジニーの魔法が他の仕事に役立つことに嬉しそうに笑うリア婆さん。


「さて、ジニーを呼ぶかね。ジニー、ちょっとこっちにきな!」

「ん? お祖母ちゃん、どうした……って、レスカ姉ちゃんたち、どうしたの?」

「お仕事のお誘いと――」

「魔力制御の訓練よ」


 そう言って、ジニーに炎熱石の熱量補充の仕事の手伝いを頼み、リア婆さんから預かり四人で仕事場へと向かう。

 その移動中、昨日の段階で俺たちが話し合った猫精霊と契約する方法の一つとして、契約の魔法陣が妨害されても乱されない魔力制御を身に着ける、という方法を一つ提案する。


「わかった。例え十年以上必要な方法でも可能性があるなら、やる」

「もう、ジニーちゃん健気! お姉さん、もう感動しちゃう!」

「うわっ!? こら変態、くっつくなぁ!」


 移動中、ヒビキがジニーにじゃれ合い、罵倒されているのを見て、相変わらずだな、と思ってしまう。

 その際――


『ニャニャニャッ……』


 例え、知性を持つ猫型の中級精霊であっても火精霊だ。

 周囲の無数に存在する下級の火精霊に妨害され、目の前で楽しそうに触れ合っているヒビキを見ていると、やはり嫉妬の感情があるのだろう。

 猫精霊の前足に魔力が集中するのを感じ、虚空に向かって猫パンチを放つと、何か見えないものに当たり、魔力が霧散するのを感じる。


 あれは、実体化していない邪魔な火精霊たちに八つ当たりでもしながら追い払っているのだろうか。

 見ている分には、ただ猫精霊が見えない何かとじゃれているように見えるが、当の猫精霊は、鬱憤を晴らすように真剣だ。


「コータスさん、そろそろ付きますよ」

「ああ、そうか。そう言えば、炎熱石の熱量補充には、ジニーとヒビキの火魔法が必要だが、俺とレスカは何を手伝えば良いんだ?」

「そうですね。私とコータスさんは、基本、肉体労働ですよ」


 そう言って案内されたのは、大きな調理場だ。


「ここでお鍋でお湯を湧かしてその中で【炎熱石】が赤くなるまで煮るんです」

「えっ? 私、てっきり熱量補充だから、直火で焼くのかと思っていたわ。意外と面倒なのね」


 炎熱石は、サラマンダーの口腔内から取れる魔力が凝縮した魔法の触媒だが、物質としては、炎に直火で当てても耐えられるほど強くない。

 そのために、熱量の補充方法としては、お湯で煮たり、鍛冶場や調理場の熱いところに少し置いておく、もしくは炎天下の野外に放置しておくなどがある。


「こうした、灰色の熱量を放出し切ってしまったものを回収して、お湯で煮て、赤くなったら引きあげるのが今日のお仕事です」

「それじゃあ、この調理場は……」

「凄い、熱くなります。なのでしっかり水分管理をして全部に熱量が補充されるように頑張りましょう!」


 そうして始まるのは、唐突な蒸し風呂状態の調理場での我慢大会であった。



モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。

是非、書店で手に取っていただけたらと思います。

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