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 どんよりとした曇り空を見上げながら、レスカの借りている畑にいる俺は、野菜のための畑に棚を設えている。

 畑の畝を挟むように柱となる棒を刺し込み、二本の柱を交差させて紐で縛り固定する。

 そうした棒を交差させた柱の上に梁となる棒を載せて、こちらも固定する。

 最後に、牧場町で使い古された中型サイズの魔物捕獲に使われる編み目の粗いネットを被せて、風で飛ばないように柱と梁に縛る。


「ふぅ、他の畑を見ながらだが、これでいいかな?」

「はい。コータスさん、それで良いですよ」


 俺は、既に周囲の畑で作られた棚を見て、呟くと、レスカが近くに駆け寄り、動く野菜の棚を確認してくれる。


「コータスさん、助かります。雨季が来る前に準備することができました」


 この畑の棚は、野菜たちが雨季の風雨で倒れないように支え、夏の日差しを効率良く受けて急成長するために必要なものだ。

 早速、蔦状の動く野菜たちが蔓を伸ばし、寄り掛かるようにしている。


「順調に、雨季を超えて、夏になれば、ナスやピーマン、トマトなどの夏野菜を実らせてくれるはずです」

「だが、少し葉っぱに艶がない気がするが……」


 牧場町に左遷されて早三ヶ月近く経ち、日常的にレスカについて畑の手伝いなどもしているために、多少は違和感に気づける程度にはなった。


「そうですね。ここ最近、梅雨が近いのか曇り空が多いので日照不足かもしれませんね。お天気は、どうすることもできませんから」

「じゃあ、できることはないのか?」


 流石に天気ばかりはどうすることもできないが、春先から手伝い続けた畑であるために多少は愛着があるので、できることがないとなると少し歯がゆく感じる。


「大丈夫ですよ。雨季は植物の成長の時期でもありますから。雨で地面は湿気ますが、水はけが悪くなるので、畝の土寄せをしたり、成長で生い茂った葉っぱや枯れたり、カビや病気になった葉っぱを間引いたりなど、やることは一杯ありますから」


 レスカの力強い言葉に俺は、農業は本当にやることが多いな、と感じる。

 そして、畑の棚作りの作業が終わったために、畑の端でこちらの作業を見ていたオルトロスのペロが背中にチェルナを乗せて近づいてくる。


「それじゃあ、牧場に帰りましょうか。天気も悪くて、少し肌寒いですし、ホットミルクでも飲みましょうか」

『『ワフッ!』』

『キュイ!』

 レスカの提案に、ペロとチェルナが嬉しそうに鳴き声を上げ、その様子に俺は自然と頬が緩むが、すぐに用事を思い出す。


「レスカ。悪いが先に帰っていてくれないか? 俺は、少しロシューのところに寄ってくる」

「はい、わかりました。それでは先に帰ってますね」


 レスカは、ペロの背中のチェルナを抱き上げ、ペロには畑の道具を乗せたリアカーを牽いてもらい、帰って行く。

 俺は、そんなレスカの後姿を見送り、腰に吊るした少し土で汚れた長剣の柄を一撫でしてドワーフの鍛治師のロシューの工房に向かって歩き出す。

 そして、程なくしてロシューの工房に入れば、中から金属を研ぐ音が聞こえる。


「すまない。ロシュー、相談にきた」

「なんじゃい? お前さんか?」


 工房で刃物を研ぐのを辞めたロシューは、工房から顔を出す。


「少し座って待っておれ。すぐに終わる」

「ああ、わかった」


 俺は、腰の長剣を鞘ごと外し、カウンターに置く。

 そして、俺の前にドカっと座るロシューは、カウンターに置かれた長剣を、訝しげに見つめる。


「すまないが、この長剣を見てくれないか?」

「なんじゃい、藪から棒に、まぁいいわ」


 そう言って、ロシューは長剣を手に取り、鞘から引き抜き、確かめる。

 訝しげな表情は、より険しいものに代わり、そして、深い溜息を吐き出す。


「お前さん、何をやらかしたらこのミスリルの剣がこんなに酷い状態になる?」

「少し、色々あってな」


 このミスリルの長剣は、エルフの交易団に参加した時、偶然にも世界樹に巣喰っていた魔物を退治した時の報酬として貰ったものだ。

 肉厚な刀身で更にミスリル製ということもあり、長く使える武器だと思っていた。

 だが、レスカの牧場で使役されていた菌糸魔物のコマタンゴが進化し、新種の魔物であるリトルフェアリーの暴走の際、地中に置き去りにしてしまった。

 後日、暴走を押さえ込み、レスカに名付けられたリトルフェアリーのマーゴによって地中深くから発掘して届けてくれた。

 だが、大量の土砂に押しつぶされた衝撃で鞘入りのミスリルの長剣は拉げて、歪んでしまった。


「色々って……よっぽどな衝撃じゃないと、ミスリル製の武具が歪んだりせんわ。しかも、芯の部分まで歪んでこりゃ打ち直しどころじゃないわ」

「やっぱり、そうか」


 専門家であるロシューの言葉に俺は、落胆するように肩を落とす。


「まぁ、何に作り替えるかは、目付きの悪い兄さんが決めればええわ。それで、何を作るんじゃ? スコップか、鍬か、それと三本フォークか!」

「なんで農具なんだよ。そこは、武具に作り替えてくれないか?」

「なんじゃい、なんじゃい。つまらんの、人殺しの道具など作らせようとしおって」


 ロシューは、隙あれば俺のミスリルの長剣を農具に変えようとする。

 なので俺は、軽く眼力を込めてロシューを睨むと、ロシューもジッと睨み返す。

 そして、ロシューは深い溜息を吐き出し、視線を逸らす。


「わかったわい。レスカ嬢ちゃんや真竜の雛を守るために武具が必要なのだろう。打ち直そう」


 溜息を吐き出すロシューは、歪んだ長剣を鞘に戻し、カウンターに置く。


「悪いな。俺には、とにかく武器が必要なんだ」

「わかっておる。ただ、完全に元通りにはならんぞ。芯も歪むから完全に溶かさなきゃならん。まぁ、総ミスリルだから混ぜ物がない分、いいものは仕上げられる。ただの……」

「なにか問題でもあるのか?」

「こいつは、元々叩き切るのに向いた長剣じゃ。そして作りは鋳造じゃが、その型がないから同じものは作れんぞ」


 これが一つ、と人差し指を立てて問題点を挙げる。


「もう一つが、儂が得意なのは、鍛造じゃ。そして、肉厚な刀身よりも鋭い刀身の道具の方を好んで作ってきた」


 例えば、ロシューの作るマチェットなどは、鋭い切れ味を持っているために、下手な鉄剣よりも優れている。


「長さは変わらんが、少し刀身が薄くなり、重さも軽くなるかもしれんの」

「まぁ、ソレは仕方がない」


 それに関しても納得する。

 そして、最後に――


「最後じゃが、一回り小さくなると余るミスリルが出てくる。そやつはどうする? 必要なら儂が買い取るか、今の農具の刃先にミスリルの刃を重ねることができるぞ」

「またここで農具……」


 ロシューのブレなさにガクッと肩を落とし、考える。

 どうせ、ここで余ったミスリルを売っても、ロシューの趣味でミスリル製の農具がこの店に並びそうだし、俺の農具の刃先――例えば、三本鍬の刃先にミスリルを鍛接するだけで刃毀れしにくく、また地面を耕しやすくなる。


 それを考えると、意外と農具という選択肢も……と考えがロシューに毒されている気がして頭を振る。

 そこで、ふと思い立つ。


「済まないが、余った金属で一本ナイフを作ってくれ」

「ナイフ? 流石にそれだけのミスリルは余らんぞ」

「なら、鉄との合金でもいい。なるべく長い期間、採取や解体とかに使えるような万能ナイフを作ってくれ」

「わかったわい。それなら、お代は、こんなところかのう」


 俺は、ロシューにミスリルの長剣と加工費のお代を払い、代わりの長剣をロシューから借りて腰に吊るす。

 その際の加工費だが、ミスリルの武器を作るにしては安すぎて、それを指摘しようとするが、ロシューの眼差しで止められる。


「何も言うでない。これはこの辺境の牧場町を守っておるコータス。お主への恩返しの一環じゃ。なに、燃料費とちょっとした酒代くらいは取っておる」

「……すまない、頼む」


 俺は、ロシューの気遣いを無碍にすることができずに受け入れる。


「一応、加工に五日、鞘などを用意するのに更に五日で計10日ほどじゃ」


 俺は、こうしてミスリルの長剣を預けてロシューの工房を出る。

 その際、鼻先に小さな雨粒が当たり空を見上げれば、パラパラとだが雨が降り始めたのを見つけ、小走りでレスカの牧場に帰るのだった。


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