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6-5

現在、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売中です。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

 6-5


「これで終わり、なのか?」


 疲れたような様子で溜息を吐き出すバルドルに俺とレスカは振り返る。

 オルトロスのペロもやるべきことを終えた、とばかりに全身に炎が吹き上がり、体は元の中型犬ほどの大きさの幼体状態に戻った。


「ええ、終わりました。また私の魔物が暴走してご迷惑をおかけしました」

「構わん。それよりも……」


 俺たちのいる洞窟全体が揺れ始め、天井からパラパラと細かな土が落ちてくる。


「おい、不味いぞ。洞窟が崩れる」


 白い菌糸の壁で支えられていた洞窟がペロの吹き上げる炎と《テラー・ボイス》により菌糸同士の繋がりが弱まり、崩れ始めた。

 またレスカは、制御できないコマタンゴの能力を制限しているために、菌糸の壁を再構築することもできない。


「俺たち、このまま生き埋めになるぞ!」


 焦るバルドルの声に全員が一所に集まり、頭上からの落下物に注意する。

 俺は、足をねじ曲げられ、痛む足では全力で走れず、密偵たちは長期の拘束により衰弱した体では、洞窟の入り口まで走れない。


 なんとかコマタンゴの妖精の暴走を落ち着かせることができたが、このままでは、本当に生き埋めになる。

 そんな中、レスカの腕の中で抱かれるコマタンゴの妖精は――


『レスカ、マモル。ミンナ、マモル』

「えっ、なにを……」


 レスカの腕から抜け出し、菌糸核に触れるコマタンゴの妖精。

 残った菌糸同士の繋がりと制限された能力の中で菌糸を操り始める。


『コンドハ、マチガエナイ』

「待ってください! 何するんですか!」

「レスカ! 危ない!」


 コマタンゴの妖精を捕まえようと手を伸ばすが、頭上からの落下物から守るためにレスカを引き留める。

 そして、足元の菌糸が寄り集まり、俺たちを包み始める。


『アソビニイク』


 コマタンゴの念話の直後、コマタンゴの妖精と菌糸核が崩落する土砂に巻き込まれると共に、俺たちは、菌糸の球体に包まれ、崩壊から守られる。

 そして、地中を潜行するような振動と共に俺たちを守る菌糸が地上を目指して移動し始める。


「レスカ……」

「大丈夫です。コマタンゴの菌糸核は、地中にあるものです。それにまだコマタンゴとの魔力の繋がりは切れてません」


 妖精は、司る環境や対象が滅びない限り何度でも蘇る。

 自己犠牲のような行動に見えたが、あれはコマタンゴの妖精にとって最も確実な方法だったようだ。


「またすぐに会えますよ」

「ああ、そうだな」


 そう言って、寂しそうな微笑みを浮かべるレスカの頭を撫でると、今回の功労者であるペロと暗竜の雛のチェルナも撫でろと言わんばかりに俺とレスカに体を擦り付けてくる。


 なので、地上に出るまでの僅かな時間にレスカと共に撫でる。

 そして――


「止まった……」


 俺たちを包んでいた菌糸の揺れが止まり、その一部が縦に避けて外の光景が見える。

 目の前には、レスカの牧場が広がっており、様子を見にジニーとヒビキが出てきていた。


「ビックリしたわ! 真下から大きな揺れがあって飛び出したら外に巨大なキノコが生えているんだから!」


 俺やレスカ、バルドルにシャルラ。オルトロスのペロは背中にチェルナを乗せ、密偵の三人もゆっくりと出てくる。


「帰ってきたんだな。ここに……」


 振り返ると俺たちが包まれた菌糸の正体が巨大なコマタンゴであると気づき、驚く。

 軽く二階建ての建物ほどの大きさのキノコは、俺たちが地上に戻ると役目を終えたとばかりに胞子をその周囲に振りまき、カラカラに萎んでいく。

 そして、カラカラの巨大キノコを苗床にポコポコと小さなコマタンゴたちが生まれ、レスカの牧場の各所に散り始めた。


「とりあえず、目的は達成できたけど、この後どうするか?」

「まぁ話し合いじゃないですかね」


 困ったように微苦笑を浮かべ、俺たちは、密偵たちを連れてレスカの牧場に案内し、話し合いをすることにした。


 衰弱していた彼らに、栄養のあるものを即席で用意するレスカと料理を手伝うジニー。

 それを食べながら俺とバルドル、そしてヒビキが密偵たちと対面する。


「それで、あんたらが第二王子派閥の密偵ってのは分かってる。それで、第二王子は、何を考えているんだ?」


 バルドルの率直な疑問だ。

 アラド王国の第一王子は、王太子であり俺やチェルナの扱いに対して手出しをしないような立ち位置だ。

 それに対して、第二王子は、逆にチェルナを出汁に俺に竜騎士の称号と貴族位を与えて国との関わりを強くしようとしている。


「下手すれば、王位の簒奪を疑われて国を二分するぞ」


 バルドルの言葉の通り、一見すればその危険性はある。

 だが、それを真っ向から密偵の分隊長は否定する。


「殿下は、そのようにならないためにその立場に甘んじているのだ」

「なに?」


 密偵の分隊長の話によれば、正妃の子である第一王子派閥と側妃の子である第二王子派閥では、国を二分しそうな状況だ。

 だが、側妃は、立場や役目を弁えており、その子である第二王子自身も公人としての役割を熟知している。


「王家は王家で意志の統一をしているのは、いい。だが、そうなると反王家の貴族の動きが掴めない。だから、第二王子自身、王家とは考えが異なるように振る舞っているのだ」


 第二王子は、時に王家の行動に疑問を呈するような内容を投げかけ、時に貴族たちの代表として物申す。

 だが、行き過ぎた考えや行動の貴族の情報を王家に流し、その貴族家の勢力を削ぎ落とす役割も担っていた。

 いわゆる、国家内部の勢力図の調整役である。


「だから、この町に独断先行した貴族派閥の騎士たちは、貴族家の勢力調整のために粛正されました。まぁ、全ての勢力闘争を管理するのは困難で、小さい規模のものは日常茶飯事ですよ。あなたが巻き込まれた派閥争いもその内の一つです」


 その話を聞いて、顰めっ面をするバルドル。確か、バルドルも派閥争いで斬り捨てられて左遷されたのだったな。

 だが、顰めっ面をしたバルドルは、シャルラを見て、ふと表情を緩める。


「そのことについては、一時は恨んだが、シャルラと出会えたことを考えれば、まぁ良かったさ」

「バルドルさん」


 互いに見つめ合う二人の姿に、密偵の分隊長の額に青筋が浮く。


「そのことはまた後で……」

「わ、悪かった」

「まぁ、そんな感じで今回の我々がここに赴いたのは、貴族たちに向けた一種のパフォーマンスであります」


 だから、杜撰な騎士の派遣、少数の密偵派遣での交渉など、行動は起こしているが内容はやはり温いのだろう。


「俺たちは、知らぬところで守られてたんだな」


 俺は、そうぽつりと呟けば、密偵の分隊長も静かに頷く。


「これでパフォーマンスの期間は終わりました。無論、今後も接触の可能性は否めませんが

、アラド王国の王家の方針としては、基本様子見だそうです」


 そう言って答える密偵の分隊長に俺やバルドルは、疲れたような脱力する。


 チェルナの扱いに対してどのようにするか、外部からの接触をどのように回避するか、など頭を悩ませていたが、これが予定調和だったとは……


「けど、ちょっと気になることがあるけど、受けた命令ってコータスとの交渉と真竜関連の物品でしょ? 持ち帰れなくて平気なの?」


 ヒビキの問い掛けに困ったような密偵たち。


「それは、もう土の下でしょう? そこのお嬢さんが持っていた真竜アラドの竜角を拝見しましたが、脱出の際に持ち出せなかった。諦めるしかありません」


 そう言って、冷静に告げる密偵の分隊長。いや、冷静というよりは安堵しているようだ。そんなもの持ち帰れば騒動の元だから手の出せない地中に封印したようなものだ。

 まぁ、その土の下には、俺のミスリルの長剣も埋まっているのだが……


「コータスさん、そのどうしたんですか? 悲しそうな顔して」

「いや、なんでもない」


 俺が首を振り、とりあえずチェルナ関連の話し合いは終わり、後はバルドルとシャルラと密偵の分隊長の話になる。


「シャルラは私が育てたのだ。それも密偵としてでなく、人間として。それにここの密偵二人も同じように孤児から育てた」

「それじゃあ、お義父さん、お義兄さん! 俺にシャルラさんをください」

「お義父さんと呼ぶな!」


 再び、青筋浮かべて激高する密偵の分隊長と義兄と呼ばれてゲラゲラ笑う他二人の密偵。

 なんか、茶番でも見せられている気分に俺たちは黙っているが、レスカやジニー、ヒビキはその様子をわくわくしながら見ていた。


「……認めたくはない。だが、シャルラは密偵としての技能は問題ないが冷静さを失いやすい。聞けば、今回のことで無鉄砲に未知の相手に突っかかっていった」

「ううっ……分隊長」


 痛いところを指摘されて身を縮ませるシャルラに慈しむような目を向ける分隊長。


「この先、密偵を続けていくのも難しいだろうし、それに密偵としての潜入技能があれば、どのような仕事にも入り込めるだろう」

「分隊長……それじゃあ」

「私からの密偵としての最後の仕事は、この牧場町に潜入して、真竜の雛を監視しろ。その方法は問わん」

「……ありがとうございます。幸せになります」

「俺も、シャルラを幸せにする」


 ふん、と鼻を鳴らす密偵は、立ち上がり、もう話すことはないと立ち去り始める。


 こうして記憶喪失の密偵であるシャルラは、レスカやジニー、ヒビキたち乙女の前で一つの情熱的な恋を叶えたのだった。



【魔物図鑑】


 【コマタンゴ・リトルフェアリー】討伐ランクD-~C+(妖精の領域外から領域内での強さ)


 コマタンゴの菌糸核が自我を獲得し、妖精化した存在。

 その能力により群体を統括することが可能になった。

 本来、菌糸核を本体とし、菌糸をより合わせて身長30センチほどの人型を作り上げるが、これは自我を表出するための器や人形として使われる。

 その体の主成分は、コマタンゴと同じであるが、他者とのコミュニケーションを取るために変幻自在に形状を変えられ、菌糸の形を自在に変えることができる。

 また、念話の獲得により意思を伝える手段を有する他、コマタンゴの群体操作、胞子香を触媒とした菌糸魔法が可能。

 菌糸ネットワークの範囲が広がるほどに土地への影響力を持ち、コマタンゴの体であるためにほぼ不滅であると言える。

 ただし、記憶や自我の保持には、菌糸で繋がる菌糸核に蓄積され影響しているために、菌糸核の消滅は、リトルフェアリーの消滅を意味する。

 また、消滅まで行かずとも菌糸核の多くを失えば、再生と菌糸ネットワークへの影響力が一時的に低下する他、蓄えた知識や能力の劣化が見られる。


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