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6-2

 6-2


 レスカの牧場に戻った俺たちは、装備を整える。

 腰のベルトには、武器となるミスリルの長剣と圧縮木刀を差し、背中の背負い鞄には、救助対象に必要と思しき保存食とジニーの用意した医薬品を詰める。

 またコマタンゴたちの出入りする洞窟は、暗いことを予想し、ライコウクラゲのランタンを用意する。


「バルドルの方は、準備はいいか?」

「ああ、騎士団の駐在所に置いてあるものを持ってきた!」


 そう言って、俺と同じように鞄を背負っており、手にはランタンを持っていた。

 そして、武器は、バルドルの【重圧の魔眼】の加護で作られた圧縮木刀とミスリル製のスコップだ。

 突けば槍、振るえば斧、防げば盾、調理にフライパンと、ある意味では、万能装備だ。

 元近衛騎士としての装備としてはどうだろうか、と思ってしまうが、これ以上に バルドルの身に合った武器がないために、何も言わない。


「よし、行くぞ!」

「ああ、レスカたちを迎えに行こう」

『『ワォォォン!』』


【魔の森】で見つけた菌糸の洞窟に向かうのは、俺とバルドル、オルトロスのペロの少人数となる。

 ジニーやリスティーブルのルインも着いて来たそうにしていたが、子どもを危険に晒すわけにも行かず、またリスティーブルの体格では狭い洞窟を進むのは難しい。

 それでも無理をする可能性があるために、1人と一匹を見張るためにヒビキがジニーたちとレスカの牧場で留守番として残ることになった。


「あ、あたしもレスカ姉ちゃんを迎えに行きたい」

「ジニーちゃん。不可抗力で巻き込まれたんじゃないんだから、危ないことに首を突っ込むのは、ダメよ」

『ヴモォォ~』


 そう言って、窘めるヒビキの声に抗議するように不機嫌そうに鳴き声を上げるリスティーブルのルイン。

 きっと戻ってきたらストレス発散のために突撃されるだろうことを覚悟しつつ、俺たちはジニーとヒビキたちに見送られて、コマタンゴたちの出入りする洞窟に足を踏み入れる。


 オルトロスのペロは、右の頭でライコウクラゲのランタンを咥えて洞窟内を照らし、左の頭でレスカたちの匂いを確認しながら先行し、その後を俺とバルドルが続いていく。

 謎の洞窟は、白い壁に分厚く覆っており、足元が柔らかく反発する洞窟を踏みしめながら進んでいく。


「どうやら、この洞窟は、一本道のようだな」

「そうだな。それに、この方向は、レスカの牧場の真下だ」


 バルドルの言葉に相槌を打ちながら、洞窟の終着点を予想する。

 きっとこの先には、レスカの牧場の地下にあるコマタンゴの菌糸核に辿り着くだろう。


 途中、バルドルが立ち止まり、白い壁に触れて確かめる。


「それにしてもこの白いのはなんなんだ?」

「さぁ、だけど、どこかで見たことがある気がする……」


 バルドルは、不思議そうにしながら洞窟の壁を眺め、俺は記憶からそれを思い出そうとする。

 バルドルが試しに壁の一部を削ぎ落とすせば、白い壁の向こう側には土の壁が露出する。


『グルルッ! ワンワン!』


 そんなバルドルの行動に合わせて、オルトロスのペロの左の頭が警戒するように吠える。

 その直後、洞窟の内部の微振動を感じ取り、俺とバルドルは、自然と戦闘態勢を取る。


「なんだ……この揺れは」

「地面が揺れてるんじゃない。洞窟全体が揺れてるんだ!」


 俺たちがランタンを掲げるとバルドルの削ぎ落とした白い壁がジワジワと塞がり始め、周囲の壁も盛り上がり始める。

 俺たちは、反射的にその場を飛び退く。


「くっ、白い腕!? レスカたちを攫った正体か!」


 レスカたちを攫った巨大な腕と大きさは違うが、白い壁に既視感を覚えたのはそのためだったと後から気づく。


「この腕がシャルラたちを攫ったんだな!」


 次々と上下左右の白い壁から細い腕が伸びてきて、俺たちを捕まえようとしてくる。

 俺とバルドルは、それらを長剣で薙ぎ払い、斬り捨て、オルトロスのペロも体に取り付かれた腕を壁に生える菌糸ごと引き千切り、爪で切り割き、蹴りではじけ飛ばす。


「限がない! コータス、奥に進むぞ!」

「わかった。ペロは先行してくれ!」

『グルルッ、ワン!』


 バルドルの指示で左右から伸びて捕まえようとする菌糸の手を切り払いながら突き進む。

 ランタンを咥えたペロは、そのまま細い腕を掻い潜り、俺たちを先導する。


「まるで魔物の体内に入ったみたいだな!」


 俺は、そう愚痴りながら後を振り返ると、俺たちに追いつこうと腕を躱し、ふと振り返ると背後の洞窟の白い壁が粘菌のように寄り集まり、細い腕が何本も寄り集まり、洞窟を覆い尽くすような巨大な腕が拳を向けて迫ってくる。


「このままだと押しつぶされるぞ!」

『ワンワン!』

「コータス、広場に出るぞ!」


 俺やバルドルが走る洞窟より数倍も広い地下空洞が見える。

 だが、背後の巨大な白い腕が迫る速度の方が早く追いつかれる。


「バルドル先に行け、俺が時間稼ぎする!」

「コータス、任せた!」

「はぁぁぁっっ!――《オーラ》《デミ・マテリアーム》!」


 俺は、全身を身体強化の魔力で覆い、更にその上から半物質化した魔力の籠手で両手足を覆い、迫る白い腕と相対する。


「うぉぉぉぉぉっ!」


 俺の意思に呼応するように青白く輝く身体強化と半物質化した魔力で強化された体が迫る巨大な腕の拳を受け止める。


 体に走る衝撃は、意外と軽く感じる。

 これならリスティーブルの突撃の方が威力は高い、と思いながらも後から白い巨大な腕を押さえ込むと質量の差で洞窟の奥へと押し込められていく。


「コータス、そのまま耐えろ!」


 俺が押さえ込んで巨大な腕が迫る速度が落ちたために、安全に広場に飛び込んでいったバルドルとペロ。

 その後、広場からバルドルの声が響き、俺は、そのまま押し込む白い腕と共に広場に入り込む。

 その直後――


「はぁぁっ!――《闘気刃》!」


 バルドルが広場の横に待機して、ミスリルのスコップを上段で構えていた。

 そのミスリルのスコップの刃先には、闘気の赤い光が宿り、長大な刃を形作り、そのまま振り下ろされる。


 洞窟の通路を埋め尽くす白い腕の根元をバッサリと両断される。


「ふぅ、なんとか動きが止まったな」

「流石、元近衛騎士。凄い威力だな」

「まぁな。けど、これがコマタンゴってのが未だに信じられねぇ」


 そう呟くバルドルの言葉に俺も同意するように頷く。

 そして、広場で頻りに匂いを嗅いでいるペロは、広場の一角に向かって歩き出し、吠える。


『ワンワン!』

「ペロ! そこにレスカたちが居るのか!?」


 俺は、すぐさまペロの元に駆け寄るが、この広場は行き止まりのようで周囲には白い壁で覆われていた。

 だが、白い壁の僅かな向こう側に土壁があったなら、空洞もある可能性がある。


「はぁ! たぁ!」


 ミスリルの長剣を抜いて、ペロの吠えた白い壁の一部を斬っていく。

 柔らかな手応えと共に、白い壁で隠蔽されていた洞窟の続きを見つけ、その奥に微かな光が見えた。


「「レスカ(シャルラ!)」」


 俺とバルドルがほぼ同時にその光の方向に飛び込む。そこで見た光景は――


「ごめんなさい。本当にごめんなさい!」

「もう、泣かないでください。私は、気にしていませんから」


 何故か、記憶を取り戻したシャルラが目元を泣き腫らし、そんなシャルラをレスカが慰めていた。

 それにどこか既視感を覚えるような状況……。まぁ無事を確認できて良かった。


『キュイ!』

「っ!? チェルナも無事か!」


 続いて、俺の側に飛び込んできたのは、暗竜の雛のチェルナだ。

 ジャンプして滑空するとそのままの勢いで俺の体に体当たりして、軽く甘噛みしてくる。

 そして、今度は、ペロの方に向かい、二つの頭で舐められて嬉しそうな鳴き声を上げる。

 

「どうなっているんだ?」

「やっと迎えか……長かったな。それに依頼対象直々に来るとは」


 少しやつれたような声の方向を向くと手足を白い木材のような手枷をされた男たちが3人座り込んでいた。

 長くこの場に拘留され、依頼で俺のことを知っているとなると……


「お前たち……行方不明の密偵か?」

「ああ、そうだな。だが、シャルラに聞いて依頼は失敗に終わったんだな。こちらからは何かを起こすことはない」


 ふぅ、と長い溜息と共に髭を生やしっぱなしになっている男性が答える。


「あんたたちがシャルラの言っていた密偵仲間か。けど、詳しい話を聞かせて貰いたい」


 バルドルが一歩進み、密偵の隊長格に尋ねるが、隊長は、壁の方に視線を向ける。


「もうじきだ。ここの主が来たら話をしよう」

「ここの主って、コマタンゴのことか?」


 俺の疑問に、無言で頷く隊長格の密偵。

 そして、しばらくして洞窟内部が振動し、天井の一部が退くように開け、巨大な腕が伸びてくる。


「さっきの巨大な腕か!? 二本あったがもう一本の腕が追ってきたか!」


 俺とバルドルがすぐさま、武器を構えるが、巨大な腕が俺たちの前にピタリと止まる。



『ゴハン、ゴハン』

「またあの念話……」


 コマタンゴたちから響く念話に警戒を強める俺とバルドルだが、レスカは苦笑いを浮かべ、巨大な腕の掌から湧き出すようにコマタンゴたちが生えてくる。

 それは、レスカたちが攫われる直前に持っていた保存食の堅焼きパンであったり、ランドバードの卵プリン、他にもコマタンゴたちが【魔の森】で集めたフルーツや山菜がコマタンゴたちによって運ばれてきた。


「俺たちは歓迎されているのか?」

「まぁ、食べろってことは分かるが、これじゃ栄養バランスが悪いな。俺たちの持ち込んだ食料も出そう」

「いや、コータス、そういう問題か?」


 俺はバルドルにツッコミを受けながらも、背負い鞄の中から持ち込んだ食べ物や飲み物を取り出し全員に行き渡らせた後――


「コータスさんたちにあなたのことをお話したいから姿を現わして下さい」

『……ワカッタ』


 辿々しい片言の念話をレスカに返すコマタンゴたち。

 そして、白い床の一部が盛り上がり、形作られ始める。

 俺たちを追っていた白い腕が生えるように人を模した体が生え、耳の尖った人の頭部に相当する部分が出来上がる。

 続いて、人間の衣服を模したのかワンピースのようなヒラヒラが生え、頭部には帽子のようにキノコの傘が広がる。

 身長30センチくらいの小さな人型がパチリと目を開く。


「これは、妖精……か?」


 俺の疑問にレスカが答えてくれる。


「コマタンゴの菌糸核が妖精化して自我を得た魔物――コマタンゴ・リトルフェアリーです」


現在、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売中です。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。


次話の更新予定は、9月24日となってなり、隔月ペースに戻そうと思います。

どうぞ、ご了承していただけたらと思います。

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