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2-1

不評な部分の前後を書き直しました。

よろしければ、読んでいただけたらと思います。


 騎士団の駐在所が直るまで俺は、レスカの牧場にお世話になることになった。

 左遷先の牧場町で騎士としての仕事を始める前に、この町に持ち込んだ荷物の荷解きをしている時、一つの問題が起こった。


「なぁ、レスカ。俺の荷物が足りないんだが、何処にあるんだ?」

「えっ? それで全部じゃないんですか?」


 小首を傾げて、この左遷先の牧場町に持ってきた荷物を荷解きする中で、一つだけ足りないのだ。

 騎士団の駐在所が破壊され、リスティーブルをレスカの牧場に送り届ける時、荷物を一時的に駐在所の一角に置いておいたのだ。


「ちなみに、何がなくなったんですか?」

「ああ、俺の剣と鎧がないんだ。前に所属していた騎士団の統一装備なんだが、剣と全身鎧だから相当重いし、大きいから見落としはないはずなんだ」

「コータスさん、それ、大変じゃないですか!」

「ああ、早く探し出さないといけない」


 紛失した荷物は、武器もある。

 扱い方を間違えれば、人命にも関わるために、早く見つけないと、と小さく呟く俺に対して、レスカは焦った表情で俺の手を掴む。


「違います! 早く私に着いて来てください!」

「はぁ!? なんなんだ?」


 レスカが俺の手を引いて、家を飛び出し、早足で歩き始める。

 途中、俺の手を掴んでいたことに気がついたレスカは、恥ずかしそうにしながらも俺の手を離して、先行して歩いて行く。


「レスカ、どこに行くんだ! そんなに急いで!」


 一応、騎士として鍛えているが、一般人のレスカの早足の速さに驚きながらも追い付き、併走する。


「この牧場町で武器が紛失する場合、必ずとある鍛冶職人がいるんです! その職人は、コータスさんの荷物が置いてあった駐在所にも来ていたんです!」

「それは、どういうことだ?」


 要領を得ないレスカの話を聞き返せば、苛立ったような声でレスカが詳しく教えてくれる。


「騎士団の駐在所を修理できる大工と鍛冶を得意とするドワーフに頼んだんです! その時に、コータスさんの荷物を持って行っちゃった可能性があるんですよ!」


 仕事を受けたのに現場にあるものを持っていくなど、あまりに非常識過ぎて理解に追いつかない。

 レスカの後を追っているだけの俺に対して、更にレスカが俺に発破を掛けてくる。


「だから、早くしないとコータスさんの騎士装備が全部農具に変わっちゃいます! 現に、バルドルさんが来た時、愛剣がスコップに変わったりもしました!」


 レスカの暴走したリスティーブルを落ち着けるために、攻撃をスコップで受け流していたが、そのスコップが元近衛騎士の愛剣の成れの果てだと聞いて、さっと血の気が引く。


「こうしちゃいられない! 俺の初の給料で買った装備一式が!」

「コータスさん、そっちは道が違います! こっちです、こっち!」


 町の大きな通りを真っ直ぐに走り抜けようとした俺をレスカが呼び止め、別の方向を指差す。

 俺は、走る速度を落としてレスカの案内で家々の間を抜けて、町の端にある石造りの頑丈な工房を目指す。

 レスカの牧場からドワーフの工房まで走り続け、近づくにつれて煙突から吐き出される煙とハンマーが金属を叩く音が聞こえてくる。


「はぁはぁ、遅かったかも……」

「無事であってくれ!」


 途中で目的地が見えたレスカは、足は速いが持久力がないのか、途中で走るのを諦めてしまう。

 だが、目の前まで来れば、案内不要だ。

 逆に一秒でも早くに持ち去られた装備を取り戻すために俺は、走る速度を上げる。

 そして、ドワーフの工房の扉を力一杯に開き、転がり込むように中に入る。


「――俺の剣は無事かっ!」


 工房のカウンターに前のめりに倒れ込むと、工房の奥からドタドタと一人の男性が出てくる。

 髭を生やし、煤に汚れたエプロンと革製のグローブを付けた背の低い中年男性だ。


「なんじゃい! 朝から騒がしいわ!」

「俺の剣は、装備はどこか!」

「怖っ!? なんじゃい! そんな形相しおって!」


 カウンター越しにドワーフの鍛冶師を睨みつける俺に対して、ドワーフの鍛冶師は、思わず臨戦態勢で手に持っている金槌を構える。

 そして、遅れてきたレスカが俺たちの間に入り、要件を捲し立てる。


「ロシューさん! コータスさんの! 新しく来た左遷騎士さんの装備を持って行ったんじゃないですか!?」

「おおっ!? そのことで知らん目付きの悪い兄ちゃんとレスカちゃんが来たのか」


 そう言って、部屋の隅にある俺の装備が入っていた荷袋へと駆け寄り中を確かめると仲が空っぽになっている。


「ロシューさん! 騎士の駐在所の修理を頼まれた時に、騎士の装備を持って行ったら駄目なんですよ!」

「ちょっと待て、待つのじゃ! その荷袋には入っとらんが、今、工房の奥の方に運んだ。ちょっと待っておれ」


 ずんぐりとしたドワーフのロシューがのっしのっしと歩きカウンター奥の工房から俺の装備を何度かに分けて運んでくる。

 重装騎士団の統一装備に俺は思わず手を伸ばすが、その手をロシューに捕まれた。


「こいつがお前さんの装備なのはわかった。だが、コイツを引き渡すわけにはいかんな」

「なん、だと……」


 俺の初任給なんだぞ、と睨み返せば、鍛治屋のロシューも真っ直ぐに見返してくる。

 俺の顔が怖いことは分かっているためにそれを最大限利用して引き渡させようとするが、一歩も引かないロシューに俺は、信念のようなものを感じた。


「……理由は、あるんだろうな」

「もちろんじゃ。少し話が長くなるが、そこに座れ」


 そう言って、俺とレスカに椅子に座るように指示する。


「ロシューさん、なんでこんなことをしたんですか?」

「そうじゃな。人命を守るためじゃよ」


 そう言って、カウンター裏に隠してあった蒸留酒の瓶を取り出し、ちびちびと飲みながら説明を始めるロシュー。


「ワシも最初は、邪魔な荷物を運ぼうと持ってみたが重さがおかしかったんじゃよ。重装騎士団の統一装備の規格から外れとった。だから一度工房に持ち帰って精査したんじゃ」

「そしたら、なにか分かったんですか?」


 俺の代わりにレスカが尋ねれば、ロシューは、怒りを滲ませた表情で吐き捨てるように答える。


「お主、偽物を掴まされたんじゃよ。国の騎士団の統一装備ってのは、鍛冶組合が一括で引き受けて、そして加入している工房に仕事を振り分ける。その際に、管理するための管理番号や工房を示す刻印が絶対にあるんだが、それがない!」


 その管理番号や刻印は、王国の法律で定められたものであるらしい。

 どのような工房でいつ作られた装備なのか分かれば、犯罪に使われた武器の入手経路が分かる。最悪、犯罪者と悪徳工房が繋がっている可能性を容易に調べるための制度だ。


「どこの店で買ったかしらねぇが、コイツは、剣の刀身がわざと折れやすいように作って、偽物だと分からないように重心を調整してやがる。何合と打ち合えばすぐに折れちまう」

「だから、この武器を使う俺を守るために……」


 そんなんじゃねぇよ。と照れ隠しか蒸留酒をまた一杯飲むロシュー。

 この統一装備を購入した店は、騎士団からの紹介であり、多くの新米騎士と共に購入しに行った。

 だが、事前に貴族出身の騎士に手回しされて、偽物を用意されていた、って事だったんだろうな、とそんなところにまで俺に悪意を向けられているとは思わなかった。


「それから剣だけじゃない。鎧の方は、もっと訳が分からん。表面は板金鎧に見えるが実は二層になっておって、中の金属は、【グラド重鉱石】を混ぜた金属が使われている」

「ああ、重い金属で犯罪者を捕縛するための」

「【重鉱石】は、それ自体が重力を発する金属じゃが、純度50%以上を超えると重力の影響で魔力を攪乱させる性質を持ち、特別な手枷に使われる」


 主に、魔法を使う犯罪者の逃亡防止の道具である。


「ワシの見立てでは、この鎧には、【グラド重鉱石】が5%含まれとる。それだけでも人によっては、重さを感じ、普段通りの動きはできんぞ」

「そうか。気がつかなかった」

「お主、どれだけ相手に恨まれとるんじゃ」

「別に俺が何かしたわけじゃなくて、親父が成り上がりなだけなんだけど……」


 そう言って、困ったように自分の頭の後を掻く。


「じゃから、この装備はお主には引き渡せん。こんな装備を今まで使っててよく死ななかったわい」

「剣は、実践じゃ一度も使ってないし、鎧は、訓練中に身につけていたけど、体力と持久力、それに回復力には自信があるから」

「そうなんですか。でも、コータスさん、体調には気をつけて下さいね」


 それまで静かに話を聞いていたレスカにも注意されて頷くが、ロシューからは呆れたような視線を受ける。


「普通、体力、持久力、回復力でどうにかできる鉱石じゃないはずじゃが」


 そう小さく呟くロシューは、とりあえず、この使えない偽装備をどうするか尋ねてくる。


「使えん装備じゃし、こんな辺境の牧場町にあんな物々しい装備なんぞ要らんわい」

「じゃあ、どうするんだ?」

「金属の量だけは多いからの。精錬して金属に分けた後は、農具にでも作り替えるわい」


 そう言って、ドワーフの大工兼鍛冶屋のロシューは、工房の奥から幾つもの農具を持ってきた。

 三本爪の鍬、スコップ、マチェットの三つの農具だ。


「ほれ、目付きの悪い兄ちゃん、金は持ってなさそうだから、この農具三つと交換してあとは、労働力をツケにしてくれればええわい」

「俺の装備が……初任給で買った騎士団の統一装備が……」


 口元のヒゲを撫でるロシューと沈痛な表情で俺を見つめてくるレスカ。

 俺は、無表情でカウンターに置かれた農具を手に取り確かめる。


「こいつは、鋼の農具……贅沢だな」


 この三本爪の鍬など、簡単に板金鎧を貫けるほどの鋭さは有りそうだし、スコップなど重量や全体のバランスなどが完璧に近い。

 そして、藪などを掃うマチェットなど、余りに切れ味が良過ぎて前の鉄剣が完全にナマクラである。


「ほぅ、偽物掴まされた割には、刃物に関しての見る目はあるのじゃな」

「農具の出来は凄いけど、やっぱり納得いかない」

「お主には、このバールの作り途中の鉄の棒で十分じゃろ。それに、どうせこの牧場町では、剣よりも打撃武器の方が使うぞい」


 そう言って、三点の農具に追加して、俺の目の前に一本の鉄の棒を置く。

 これも安い鉄の装備から作ったとは思えない純度の高い鋼の棒だ。

 太さや握りが本来の剣とはかなり違って細い。だが、高純度の鋼の重さと硬さの棒を見て、一つのことを思う。


「……たしかに、これを芯にした木刀なら、打撃武器としては十分かも」

「納得したなら早く帰れ。これでもワシは忙しいんじゃ」


 そう言って、俺たちを追い払うように手を振るロシュー。

 俺は、最後に一つ聞きたいことがあった。


「なぁ、そう言えば、バルドルの愛剣をスコップに作り替えた、と聞いたが本当か?」


 俺の場合は、粗悪品を使い続けることによる人命の危険性があったが、バルドルの場合は、近衛騎士が使うような上等なもののはずだ。

 そんなものを奪い、今許されている理由が知りたくなった。


「バルドルがこの町に来た当初は、酷く無気力なやつじゃった。いつまでも過去の栄光に縋る阿呆をマトモに働かせるための荒療治でミスリルの剣をスコップに変えたんじゃ!」


 荒療治など、よくなるか、余計に悪化するかのどちらかが大半だ。その中で荒療治を実行するなんて、俺には怖くてできない。

 そういう意味では、ロシューはその辺りを見極めて実行できたんだろう。


「あと本音を言えば、魔法金属で農具を作りたかったという気持ちがあった」

「「……ロシュー(さん)」」


 ポロリと漏れる本音に俺とレスカが胡乱げな目を向ける。


「なんじゃ、いいじゃろ! あやつも真面目に働くようになったんじゃし! ええい、もう帰れ!」


 そう言って、俺とレスカを農具ごと工房から放り出して扉を閉めるロシュー。

 俺とレスカは、放り出された工房前でしばらく沈黙する。


「その、なんだ……装備が見つかって良かったですね」

「ああ、農具に交換されちまったけど……」

「「…………」」


 互いに、気まずい雰囲気が流れる。

 俺は、それを払拭するためにあえて大きな声を出す。


「よし、明日からの騎士の仕事を頑張るか!」

「そ、その意気です、コータスさん!」


 レスカも雰囲気を変えるために乗ってくれた。

 俺たちは、レスカの牧場に戻り、荷解きを再開するのだった。



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