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3-4

 3-4


「――《オーラ》《デミ・マテリアーム》!」


 下位の身体強化で体が青白く発光し、半物質化した魔力の籠手が両腕を覆い待ち構える。

 そして、空中で制止したように浮き続けるスタッグ・ビートルは、その巨体を前に傾け、一瞬にして加速して突撃をしてくる。

 馬車ほどの大きさの甲虫による突撃に一歩も引かずに逆に前に踏み出し、手を突き出す。


「ダ、ダメです!」


 シルヴィの悲鳴を背後に聞きながら、高速で突撃してくるスタッグ・ビートルの突き上げるようなY字の一本角を両手で捕らえる。

 突撃の衝撃が体全身を駆け抜け、背後に僅かに押し込まれるが――


「――ルインの突撃に比べれば、まだ温い!」


 身体強化と半物質化した魔力の籠手を纏った俺は、途中で突撃を完全に受け止め、スタッグ・ビートルが空中で静止する。

 それに慌てたスタッグ・ビートルがなんとか俺を押し倒そうと、触れる物を容易く切り裂きそうな羽根を更に激しく震わせる。

 あまりの激しさに羽根が千切れるのではないかと思うほど震わせ、再度加速しようとするが、一度失速した状態で再加速するのは、難しい。

 俺は、スタッグ・ビートルに畳みかける。


「――っ!? はぁぁっ!」


 スタッグ・ビートルの角を掴み、体を捻る様にして地面に叩き付ける。

 加速しようと羽根を震わすスタッグ・ビートルだが、叩き付けるために捻られた角に合わせて体も傾く。

 そして、羽根を震わせて生み出していた推進力が力の掛かる方向が変わり、あとは自分から加速した力で地面に叩き付けられる。


『――キシャァァァッ!』

「ちっ、あれだけの勢いで叩き付けてもビクともしないか」


 地面に叩き付けて、裏返しになり、ジタバタと暴れているが、外殻が硬いために対して堪えていないようだ。


「ペロ! ゴー!」

『『ワフッ!』』


 レスカの指示と共に俺の脇から飛び出していくペロは、地面を蹴り、裏返しになったスタッグ・ビートの腹部を駆け抜け、すれ違い様にそれぞれの頭が左右の足を一本ずつ噛み千切り、駆け抜ける。


『『ワオォォォッ!』』

 噛み千切った足を吐き捨て、遠吠えを上げるペロ。流石、ランクC-のオルトロスの幼体だ。

 そして、吐き捨てた足をよく見れば、関節部を綺麗に噛み砕いて引き千切っているのを見た。


「コータスさん! スタッグ・ビートルのような昆虫の魔物は、関節部を積極的に狙って下さい!」

「わかった! 関節部だな!」


 俺は、裏返り、晒す腹部の胸腹板の関節部を切り離すために長剣を引き抜き、近づくが、残った四本の足で体を起こし、再び羽根を震わせて浮かび上がる。


「何度やっても同じだぞ!」


 俺は、再び突撃してくるスタッグ・ビートルの突撃の方向を確認し、レスカたちに被害の及ばない方向であることを確認して長剣を構える。

 突撃を待ち構え、そして前に体を傾けて先程と同じように加速してくる。

 関節部といったが、真っ正面から見える反り立つ一本角のすぐ下に口があり、そこを突き刺す。

 その瞬間を狙い、間近に迫ったところで突きを放つが――


「くっ、避けたか!」


 角先を傾ければ、それに合わせて体も捻れる。

 そうして絶妙なタイミングで口腔内へと放とうとした長剣の突きを躱され、左に弧を描くように曲がるように、俺の眼前を通り過ぎようとする。

 そして、通り抜け様に飛翔するために広げて、高速で震わせる羽根が間近に迫る。

 実体化した精霊を両断した羽根から身を守るように腕を上げて、半物質化した魔力の籠手で受け止める。


「ぐっ!」


《デミ・マテリアーム》によって生み出された魔力の籠手は、羽根の両断から俺を守り、スタッグ・ビートルが通り抜け、旋回するようにこちらに再び狙いを定める。


「コータスさん!」

「この程度、平気だ! とは言っても、下手に受けるのは危険か」


 突きによるカウンターを狙うよりも防御の構えを取り、堅実に相手の外殻の隙間を狙うか、と思案する俺の横からリスティーブルのルインが割り込んでくる。


「……ルイン?」

『ブモッ』

『シャァァァァァァッ!』


 ルインは、鼻息荒く、俺の前に堂々と立つのに対して、スタッグ・ビートルが威嚇するように甲高い声を上げる。

 スタッグ・ビートルは、再突撃のために羽根を震わせ、異音を響かせる。

 それに対して、リスティーブルの体から膨れ上がるように青白い輝きが発せられ、後ろ脚で地面を蹴る。


「えっ? 青白い光? 獣型の魔物が身体強化の魔法を?」


 身体強化の魔法を使うルインに混乱するシルヴィをレスカが支えながら、後方で手を振り上げ――


「ルイン、ゴー!」


 その合図と共に、リスティーブルとスタッグ・ビートルの両者が駆け出し互いに真っ正面からぶつかっていく。

 真っ直ぐに伸びる長い一本角でルインを捕らえようとしたスタッグ・ビートルだが、避けることもなく、俺のように関節部を狙うでもない。ただ真っ正面から一本角に対して頭突きしていく。


「なっ!? 平気か!」

『ブモォォォォッ!』


 驚愕の声を上げる俺に対して、ルインは、咆哮を上げ、突撃の力押しでスタッグ・ビートルの体を弾き飛ばす。

 身体強化によって青白い光に覆われていたルインだが突撃を受け止めるために特に額に厚くオーラを纏っていた。


『シャッ……』

 そして、弾き飛ばされたスタッグ・ビートルは、空中で錐揉みしながら地面に落ち、弱々しく、蠢いている。

 錐揉みによって予想だにしない動きに残った四本の足の内の二本が関節が逆に曲がり、片方の羽根も捻れて千切れ落ちている。

 俺は、そんなスタッグ・ビートルに近づき、その頭部の後ろに飛び乗り、長剣を逆手に持つ。


「くらえ、はぁっ!」


 そして、長剣をスタッグ・ビートルの甲殻の間に突き刺す。

 関節部は脆いと言われるが、それでも巨大昆虫の分厚い体を突き刺して容易に両断できない。


「これで終わりだ!」


 だが、防御に使っていた半物質化した魔力の籠手を解除し、突き刺した長剣の表面に這わすような形で半物質化した魔力の刃を生み出す。

 そして、切断力の上がった長剣を振るい、スタッグ・ビートルの一本角を持つ頭部がゴトリと胴体部から切り離されて地面に落ちる。


『シャァ……』


 首を切り離されても僅かに口元から弱々しい声を出すのは流石、生命力の強い虫型の魔物だけある。

 完全に息絶えたのを確認し、討伐したスタッグ・ビートルの体を見聞すれば、断面から緑色の体液が流れ、硬い外殻は、意外と薄く軽い。


「コータスさん、終わりましたか?」

「ああ、とりあえず終わった。後で、人を遣ってスタッグ・ビートルの体を回収しないとな」


 俺とレスカのやり取りの一方、スタッグ・ビートルの出現からの展開について行けずに放心状態のシルヴィに目を向ける。


「シルヴィさん、大丈夫ですか?」

「え、あ、はい。その、助かりました。ありがとうございます」


 放心状態から回復したシルヴィは、一度大きく頭を下げる。

 そして、そんなシルヴィが頭を上げた直後、背後の世界樹に空いた大穴から何やら強い気配を感じ振り返る。


「……何か来る」

「まさか、まだ魔物が!?」


 悲鳴に似たシルヴィの声に、自然とレスカがシルヴィに寄り添い、チェルナも二人にしがみつく。

 ルインとペロが二人を守る位置に着く中で穴の中からひょっこりと姿を現したのは、薄ぼんやりと輝く耳が長い人型だ。

 緑に金色のグラデーションの掛かった中性的な美しさを持つそれの呼び名を呼んでしまう。


「――っ! 木の大精霊!?」


 声に出してその名を呼べば、相手は嬉しそうに片手を上げて、ふわりとこちらに近づいてくる。


『やぁ、君たち、久しいね。それと巫女とは初めてだね。いつもこの子がお世話になっているよ』


 そう言って、微笑みを浮かべる木の大精霊に対して、緊張を解く俺とレスカだが、シルヴィは逆に顔を真っ青にして今にも膝を着いて頭を下げそうになるほど萎縮している。


「お、お初にお目に掛かります。大精霊様! 私は、世界樹の巫女を務めさせていただいております。シルヴィと申します!」

『うん。いつもお勤めご苦労様』


 そう言って、柔和な笑みを浮かべる大精霊。

 思えば、エルフの祖とされているということは、木の大精霊によってエルフは子孫みたいなものか、と納得する。

 だが、すぐにその柔和な笑みを消し、俺たちに向かい合う。


『ほんと、数奇な加護を持つ者は、数奇な運命に巻き込まれやすいのかもね。君たち、ちょっと付いてきてくれる?』


 そう言った木の大精霊は、世界樹の幹に空いた穴の中に戻っていき、俺たちもその中に付いていく。

 地上2メートルの高さに空い大穴には、ルインやペロが入るのは難しいために俺がチェルナを背負い、先に登り、後からレスカたちを引き上げる。

 そして、木の大精霊に案内され、スタッグ・ビートルの開けた大穴の中を進んでいく。

 



9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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