2-5
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「謝ること? ルンヘン翁は、俺たちに謝ることなんてないと思うが?」
「いや、お主らが気づいていないだけで失礼なことをワシはした。実はワシの【加護】は、【鑑定の魔眼】というものなんじゃ」
そう言って、右目を見せるように、生やし放題だった長い眉毛を持ち上げて、目を見えるように大きく見開く。
その目は、青く輝き、注意深く見つめれば、魔力が集中していることに気がつく。
「【鑑定】の魔法なんかは、相手の了承を取り確認するのがマナーじゃ。そして、勝手にお主らの【加護】と【内包加護】を覗いたことを詫びよう」
そう言って、頭を下げるルンヘン翁に俺は慌てて止める。
「やめてくれ。こうして長老のルンヘン翁や里長のシャリオン殿がいる場所で話す必要があるから朝食に呼んでくれたんだよな」
余計に周囲に漏らすことがないように、ということを確認すると、ルンヘン翁が頷く。
「エルフの里に入ってくる人間は多くない。いくら真竜様の保護者たちと言えども、トラブルに巻き込まれる可能性が高い。だから、その周りもトラブルに対処できる力があるか確かめなければならない」
そして、必要なら俺たちに護衛のような形で同族のエルフが間に入って守ってくれることで、種族間トラブルまで発展しないようにしているようだ。
「真竜様に認められたコータス殿の加護は、加護の名前しか読み取れんかったが、真竜様に認められた力は本物じゃろうからいいじゃろう」
寄親となる真竜様から様々なものから守ることを命じられているだろうから寧ろ、手助けしたら寄親の真竜様に怒られてしまう、というルンヘン翁。
俺は、微妙に納得しないまま、ルンヘン翁は、ジニーとヒビキの方に視線を向ける。
ジニーたち二人の加護を見られたのは、ちょっと不味かったかもしれない。
「リア殿の孫娘殿の加護は、【火魔法】と【剣術】。そして【火魔法】の【内包加護】に【火精霊の愛し子】があった」
「……精霊魔法を多く使うエルフたちにとって何か問題でもあるんですか?」
レスカがルンヘン翁に尋ねれば、困ったように唸る。
「うーん。問題があると言えば、あるが、ないと言えばないかのう? 【精霊の愛し子】と呼ばれる者たちは、本当に精霊に愛されとる。それこそ、その精霊は、愛し子を全力で守り、また他の精霊たちにも協力させる。それこそ、精霊魔法使いが一時的に精霊と交信できなくなるほどに」
「それって、精霊魔法使いのエルフにとっては、天敵ってことね。けど、ジニーちゃんはまだ子どもだし、火精霊に守られて、相手の精霊魔法を封じられても精霊魔法のコントロールとかできないから危ないわよ」
ヒビキの指摘にルンヘン翁が頷く。
「そうじゃの。じゃから、なるべくお主らと一緒に行動して、更にリエルを孫娘殿に付けて騒動に巻き込まれんようにしたいと思う」
下手をしたら森の一部が焼失する可能性を秘めている。
こっそりルンヘン翁が確認したためにとんでもない危険物を見つけてしまった気分だろう。
そうして、とりあえずジニーへの護衛が決まる中でジニーが顔を上げてルンヘン翁に声を掛ける。
「あ、あの、一つ聞いてもいいかな?」
「なんじゃ? わしに答えられる範囲なら?」
「その、あたしに精霊魔法の使い方と【剣術】の内包加護を教えて下さい!」
そう言って、頭を下げるジニー。冒険者になるために自分の加護の伸ばす方向性を知りたいようだ。
そんなジニーの様子にルンヘン翁は髭を撫でながら楽しそうに笑っている。
「制御という意味なら必要じゃろう。それならリエルに教わるといい。お転婆で狩りで森の中を駆け回っているあの子じゃが、意外にも精霊魔法は上手い方じゃ。それと【剣術】の内包加護である【短剣術】も多少の心得はある」
そう言って、ジニーは、ルンヘン翁から教えて貰った内容を自身の中で反芻させている間に、次にヒビキに話が移る。
「そして、ヒビキ殿じゃが――【賢者】であっておるかの? 流石に強すぎる加護は、【内包加護】までは見通せないのでな」
「ええ、合っているわ。まぁ、貰い物の力だけどね」
そう言って、答えるヒビキに、ルンヘン翁は、【賢者】に関する逸話を語り始める。
「【賢者】に関しても真竜様ほどではないが、昔話はある。今から500年ほど前に他のエルフの里を襲ったスタンピードを鎮め、荒れた里の復興に尽力してくれた。口伝の内容で詳しくは分からないが、わしの祖父の世代の話じゃよ」
「そうなの。ちょっと待って……」
ブツブツと呟き出すヒビキに少し不振そうに見るルンヘン翁たち。
きっとヒビキは、過去の賢者の知識や記録、伝記などを見れる【賢者の書庫】で確認しているのだろう。
そして、しばらくして――
「あったわ。当時の【賢者】は、シリウスってエルフだったのね。当時は、冷夏による森の恵みが少なく、食べ物を巡った争いがスタンピードの原因ね。シリウスって賢者は、その魔物を退治して、冷夏と魔物が荒らした森を整えて、賢者として受け継がれる知識や記録で普段食べないものの調理法を見つけて食料問題を解決したみたいね」
鮮やかに問題を解決したのは、賢者の受け継がれる知識を活用したかららしい。
「事実とはそうだったのじゃな。だが、我らは【賢者】と呼ばれる人間や加護持ちに一目置いておる。コータス殿は事前に周知しておるが、ヒビキ殿の【賢者】の加護の件が伝えれば、こちらも騒動になりかねん」
「そうね。なら隠しておきましょう。一応、対外的には私の加護は、【魔女】ってことになっているわ」
ヒビキが自身の加護について大っぴらに何かを言うことはないことに安心するルンヘン翁。
とりあえず、大きな問題になりそうなジニーとヒビキの加護についての処遇は決まった。
最後にレスカに対してだが――
「レスカ殿は、コータス殿たちのように自身が戦えるような【加護】はないようじゃな」
「はい。私の加護は、【育成】ですし、使える魔法も調教のための【契約魔法】などです」
そう言って自身について告げるレスカは、俺たちと違い戦う力がないために少しだけ寂しそうに見える。
「レスカ殿に関しては、真竜様が相当懐いていらっしゃるが、荒事に向かない加護じゃな。できれば、孫娘のシルヴィと行動を共にして欲しい。今朝の様子から見て、相性も良いじゃろう」
「……はい。よろしくお願いします」
チェルナを預けた真竜・アラドに自分で解決する力を求められる俺や発展途上の精霊魔法使いの素質を持つジニー、完成された魔法と知識を持つ賢者のヒビキと比べて、ただ守られる立場のレスカは、いつも以上に小さく見えた。
俺は、そんなレスカの頭に手を伸ばす。
「レスカは、レスカだぞ。気にするな」
「……な、なんのことだ! というか、なんなんだ!」
いつものレスカの反応にちょっとだけ安心し、頭を撫でる手を離す。
「ふぉふぉふぉ、仲が良いのはいいことじゃ」
「むぅ、恥ずかしいところをお見せしました」
小さく頭を下げるレスカにルンヘン翁たちからの生温かい視線が注がれる。
「構わんよ。レスカ殿に一つ頼みがあるのじゃ」
「頼み、ですか?」
「レスカ殿には、確かに戦いに向いた加護はないが、ワシの見立てでは、方向性は違えど中々に強い加護であるように思える。それを期待しての頼みじゃ」
ルンヘン翁に頼まれた頼み事を聞いたレスカは、その頼み事に快く頷いた。
魔物図鑑
ミッド・ビー
蜜蜂型の魔物。討伐ランクF。
比較的温厚な性格の蜜蜂型の魔物。女王を中心に巣を作り、比較的涼しい地域を好む。
ミッド・ビーは温厚だが、飼育には温度や湿度、周辺の花畑などの環境がミッド・ビーたちの好みに合わないと中々巣を作らない。
ミッド・ビーの蜂蜜は、上品な甘さで美容効果もあるとされており、貴族の女性たちに好まれる。
グノシス・ビー
蜜蜂型の魔物。討伐ランクF+
強靱な顎と太い針を持つ小型の蜜蜂の魔物。巣を脅かす存在に対してその体に集団で取り付き、顎で噛み付き、太い針で何度も突き刺す。
比較的どこでも巣を作るために多くの養蜂家が手を出すが、毎年、防護服を着ててもグノシス・ビーに刺される被害は後を絶たないが、針に毒はないために死者の数は少ない。
グノシス・ビーの蜂蜜は、喉に引っかかるほど高い糖度を持ち、そのまま舐めるのも少しキツイ。そのために水割りやお菓子の砂糖の代わりなどの用途が多い。
またグノシス・ビーの幼虫は、珍味とされており、養蜂家は手に入れた幼虫を乾煎りして酒のつまみにしたりする。









