2-3:【Side:???】
2-3:【Side:???】
コータスたちがエルフの里で眠りについた夜、辺境の牧場町では、いくつもの黒い影が動いていた。
夜の人が寝静まった頃に、音を立てぬように忍び足で影から影へと移動を始める。
「ここが、竜騎士のいる牧場か……」
家主であるレスカ不在の牧場の近くまで辿り着いた男は、小さく呟く。
声を発し、旅装に近い黒一色の身軽な服を着た男は、彼はアラド王国の密偵の分隊長である。
四人組で任務に当たる密偵の分隊長は、第二王子からある命令を受けていた。
その内容が『竜騎士コータス・リバティンの交渉と懐柔。その任務遂行が困難な場合、真竜に関連するものの回収』である。
交渉と懐柔と言っても極力暴力的なことを避けつつ、真竜の生体素材の回収任務である。
「全く、守護竜であるアラド様と契約を結んだ者と接触とは、それに期限も決められている」
「けど、静かだな。本当にこの牧場なのか? なんだか不気味だ」
「この任務。辞めるべきだと思います。下手に手を出しちゃ行けないですよ」
分隊長の下に就く密偵は、今回の任務について否定的な意見を口にする。
彼らは、命令を受けて急いで移動したが、それより先にコータスたちが交易団の一員としてエルフの里に移動したのが、昼間。
彼らが到着したのは、夕方頃である。
そのためにコータスたち不在の情報はまだ得ていない。
「とりあえず、今日は、牧場の母屋の内部構造を把握し、真竜の関連物の保管位置を確認。明日にその関連物を回収し、コータス・リバティンと接触を図る」
この時点でコータスたちは長期不在しているために、彼らの任務は必然的に次善策としての関連物の回収になるだろう。
彼らの情報では、レスカの牧場には、暗竜の雛が孵化した時に残った竜卵の殻やコータスが折った火竜・アラドの角があることが判明している。
そして、彼らは知らないが、それらの素材は全て【賢者】の加護を持つヒビキの魔法の鞄に乱雑に投げ込まれており、唯一あるのは、チェルナの排泄物だけである。
それもまだミルクや離乳食のようなものを食べるために、ゆるゆるの液状の排泄物。
それを保存している理由は、ランクの高い魔物の糞は、その匂いで害獣や下位の魔物が忌避する匂いとなるが、彼らが求めるものとは大きく違い、また想像していたものと違うために、この時点で次善策も潰えている。
それでも彼らは、進まねばならない、調べなければならない。
その先に、不幸が待っていようとも――
「それでは、行くぞ――」
そして、牧場の柵を乗り越え、無人の魔物牧場に足を踏み入る密偵たち。
だが、その牧場の地面に足を降ろした彼らは、足元が大きく沈み、足を取られる。
「くっ、落とし穴か! こちらの行動に気取られたか!」
「落ち着け、鳴子などの罠はない。こちらに気づかれていないはずだ!」
普段なら、賢者のヒビキが使う警報の魔法は、一流と言える密偵すら感知する高性能でこの時点で気づかれるが、今は家主不在。
そもそもこの牧場には落とし穴は存在しない。
では、それを作る存在はなにか――
『ドコ、ドコ、ドコ、ドコ、ドコ――』
頭に直接響く念話と共に、密偵たちの足元にボコボコと何かが湧き出すように姿を現す。
「な、なんだ、コレは!」
「ひ、ひぃ!」
「くそ、来るな、バケモノ!」
半狂乱になる密偵たちは次々に押し寄せるナニカに怯え、体を包まれ、ズブズブと地面に飲み込まれていく。
多少は柔らかく足音を殺してくれるはずの牧草地は今は、底なし沼のように柔らかく沈んでいく。
最後尾にいた密偵の一人だけは、なんとか、牧場の柵を越えて逃げだそうとするが、そのナニカに足を取られ、倒れる。
「ひっ、な、なに……」
『――ミンナ、ドコ?』
そして、密偵の顔の至近に近づくナニカから放たれる甘い香りに密偵の一人の意識を手放す。
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