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2-2

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 俺やレスカ、ジニー、ヒビキが老人エルフの自宅に案内されるのだった。

 暗竜の雛のチェルナは俺の頭にしがみついたままエルフの里を興味深げに見回し、オルトロスのペロはレスカの隣を堂々と歩いている。

 ただ、ジニーだけが場違い感を覚えているのか、珍しくヒビキの服の裾を掴み、その様子にヒビキの顔が崩れそうなほどデレている。


「何分、狭い集落です。外部から客人を招く機会もなく、このような場所にお通しになりますが、どうかご理解下さい」


 そう言って、大木をくり抜いた家に上がり、客間に通してくれる。

 進められるまま座り、老人エルフもよっこらせ、と掛け声と共に椅子に腰を下ろす。


「さて、自己紹介がまだでしたな。わしは、このスヴァル氏族の長老のルンヘンじゃ」

「エルフの長老直々に……」


 俺の呟きにレスカも驚いた様子だが、ジニーとヒビキはその凄さに思い至っていない様子だ。

 エルフの長老とは、人間には想像できないほど長い時を生き、その知識から多くの童話などでは賢者として扱われる。

 この場に同席している【賢者】の加護を得たヒビキに比べたら年期の違いというものを肌で感じる。


「そんな凄いもんじゃないわい。わしは息子に里長に立場を譲った隠居ジジイじゃよ」


 そう言って、白い髭を撫でるエルフの長老であるルンヘン翁の余裕に俺たちは、頷く。


「では、俺から自己紹介を。アラド王国の騎士で、暗竜の雛のチェルナの保護者をやっている。コータスです」

「うむうむ。真竜様の保護者のコータス殿に真竜様の名前はチェルナ様か、よき名前じゃな」


 うんうん、と頷くルンヘン翁。


「私は、レスカと言います」

「前の交易団に参加しておった魔物研究家の姪っ子じゃったかな。話は聞いておるよ」


 レスカの自己紹介にも穏やかな微笑みを浮かべるルンヘン翁。


「えっと……あたしは、オーフェリアお祖母ちゃんの孫のジニーです」

「リア殿の孫娘殿じゃな。度々、交易では世話になって居る」

「私は、ヒビキ・ウノハナです。よろしくお願いします」

「うむ。これまでの交易団の人たちの話には出たことがないから新顔じゃろう。よろしくのう」


 そう言って、全員の自己紹介を終える。


「さて、それでは先程の広場でのチェルナ様へのエルフたちの反応について話さねばならぬの」

「はい。お願いします」


 俺が頭を下げると、ルンヘン翁は顎髭を撫でつつ、エルフに伝わる伝承について話してくれる。


 エルフの始まりは、神々と何体かの精霊王たちがエルフの祖を生み出したのが始まりである。

 神と木の大精霊たちと神が交わり、彼らの眷属としてエルフの祖を生み出した。

 それが、木のエルフの大本となっているが、割愛する。

 そのエルフたちは、世界の調和をもたらしエルフの里を守護する巨大な樹――世界樹を中心に里を作っていった。

 だが、ある時、とあるエルフの大氏族の森で大規模な災害に見舞われ、多くのエルフが死に、またエルフの里を守る世界樹が失われる結果となった。

 エルフの生活を支える森を失い、森の調和を生み出す世界樹が失われたエルフたちは、魔物が犇めく森の中で生き抜くことを迫られた。

 そして、多くの同胞が魔物と戦い、傷つき、少しずつ疲弊する中、一体の真竜族の地竜様が現れた。

 真竜族の地竜様は、寿命を間近にして意味のある死に場所を求めて居った。そんな地竜様は、住処と世界樹を失い傷ついたエルフたちにその竜血を分け与え、傷を癒やし、その鋭い爪で押し寄せる魔物を蹴散らした。

 そして、意味のある死に場所を求めた地竜様は、大精霊たちに掛け合い、その体に世界樹の種を埋め込み、新たな世界樹を育て、エルフの里を再建した。

 その後もエルフたちは、森の中に広がり、新たな里に世界樹の種を植えて育てると共に、この命を賭した地竜様の話は、今に伝えられている。

 地竜様の偉業を忘れぬために、世界樹を絶やさぬために――


「これは、全て事実であり、リオン大氏族の世界樹の根元には、石化した地竜様が眠っておられる。故に、我ら木精霊の系譜に属するエルフたちは皆、真竜族を崇め、今でも感謝しておる」


 そう言って、ふぅ、と長い昔話を聞き終える。

 同じ真竜族の昔話を聞かされたチェルナだが、まだ幼く完全に理解していないのか、小首を傾げており、その様子にルンヘル翁は、微笑みを浮かべている。


「まぁ、我らにとって真竜様たちは、神にも等しき方々という事だけ覚えて貰えればいいのです」

「はぁ……」

「あと、余談じゃが、真竜信仰があるのは、木精霊のエルフたちだけで光や風、水の大精霊たちのエルフとは、また別の信仰をしておるので、あまり気になさらず」


 だから、同じ真竜族を信仰するアラド王国と交易ができているのです、と笑うルンヘン翁。


「なるほど、エルフの里の事情はわかりました」

「アラド王国での面倒事から一時的な避難という事情は、わしらも把握しております。どうぞ、真竜様が穏やかに過ごせるようにこちらもお手伝いしたいと考えております」

「それは、感謝します。滞在中、俺たちがするべきことは……」

「なに、里の者たちには、あまり騒ぎ立てぬように言っております。普通の交易団の皆様方と同じように過ごされるがよろしいかと、ただ――」


 何か言葉を続けようとしたルンヘン翁の言葉を遮るように、家の扉がバタンと力強く開かれ、荒い足音が少しずつ近づいてくる。


「お爺ちゃん! 真竜様が来たってホント!?」

「これ、リエル。真竜様とお客人の前じゃぞ」


 突然、入ってきたエルフの少女を叱りつけるルンヘン翁。

 エルフの少女は、鮮やかな金と緑の長髪を後頭部の片方のみに結び、背中に弓を背負った姿は快活な気質のように見える。


「はぁはぁ、リエル。ま、待って……」


 そして、遅れてくるように息を切らして入ってくる女性は、髪や瞳の色彩がリエルと呼ばれる少女と同じだが、長い髪を卸し、すらりと背が高く、肩から鳩尾あたりまで覆う小さなチョッキと分離式の長くゆったりとした袖、腰布のスカートを身につける。

 独特の服装とお腹周りを晒し、体格に見合った大きな胸を持つエルフの女性は、服装だけなら扇情的な格好に見られるが、その神秘的な雰囲気に息を呑む。

 なお、体力がないのか肩で息を吸うのを繰り返す度に、大きな胸が上下しているのを不躾に見ないように顔を逸らすが、何故か、ジニーにテーブルの下で蹴られた。


「美少女エルフたち! それも巨乳とスレンダー、どっちもいる、だと!? 美味しい展開!」


 近くでは、小声で訳の分からないことを呟くヒビキだが、相手側には聞こえていないようだ。


「すまないのう。コータス殿。この子たちは、わしの孫娘たちじゃ。落ち着いたら自己紹介じゃ」

「はい、お爺さま。私は、世界樹の巫女を遣っていますシルヴィと申します」

「私は、妹のリエル、一応、見習い狩人やってます。あと、精霊魔法をちょこっと……」


 そういって、エルフの美人姉妹からの挨拶を貰い、こちらもルンヘン翁の時と同じように挨拶を交わす。


「あまりお客人に長話に付き合わせても悪いことじゃ、交易団の歓迎会もあることじゃから、コータス殿たちもそちらに参加なされよ。それと泊まる場所だが、真竜様たちを特別扱いしたいのじゃが、望んでおらんじゃろ?」

「まぁ、そうです」

「そうですね。私たちだけ特別ってちょっと……」


 そう言って、俺とレスカは顔を見合わせて、困ったような表情を作る。


「ならば、交易団の者と同じ扱いをする。じゃが、シルヴィとリエルの孫娘を明日より案内に付けることだけは許して欲しい」


 ゆったりと深く頭を下げる姉のシルヴィとそんな姉の様子を見つつ頭を下げるが、こちらを上目遣いで見てくるリエル。


「こちらも交易団に混じった形で訪れたから拒否する理由もありません」


 ルンヘン翁からの申し出に対して、こちらの率直な意見を伝える。

 きっと、暗竜の雛のチェルナへの接触を求めるエルフたちが多いと予想されるのだろう。そんな中で、チェルナを守るためにこの里の長老の孫娘を近くにいれば、トラブルも未然に防げるという配慮だろう。

 俺たちは、そんなルンヘン翁との会話を終え、交易団の面々と合流し、エルフたちとの歓迎の場で夕食を取り、貸し出された家に宿泊した。

 俺は、一人部屋で眠りに就き、レスカとヒビキは、ペロとチェルナを連れて特別に近くの三人部屋を借りて眠った。

 ジニーは、リア婆さんと共に二人部屋に眠り、夜の遅くまで牧場待ちの男やエルフの男たちが呑めや食えやの騒ぎが続いていた。


9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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