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「さて、何から話せばいいか……」


 真竜族の雛であるチェルナは、オルトロスのペロのお腹に寄り掛かるようにして寝ている。

 スピースピーと寝息を立てて丸まっている姿を見て、バルドルの険しい表情がふっと緩む。


「前知識として覚えて欲しいのが、【アラド王国】の上層部の動きだ」


 そう言って、真剣な声色に台所にいるレスカとジニーも耳を傾けてくる。


「火竜アラドの忠告を受けてコータスたちの現状を維持して静観する第一王子派閥とそれを無視してコータスを竜騎士として迎えようとする第二王子派閥が存在するのは覚えているな」

「ああ、覚えている」


 俺を王都に迎えようとして騎士を派遣したが、俺が拒否して追い返したのは記憶に新しい。

 そんな事件を思い出したのか、隣にいるヒビキは、不愉快そうに眉間に皺を寄せている。


「その一件でコータスの意思が示されて第一王子派閥の正当性が確保され、第二王子派閥は劣勢になった。けど、劣勢な者ほどなりふりを構わなくなる」

「……正面から権力で連れて行くのがダメなら暴力に訴える、ってわけ?」


 やや冷ややかなヒビキの声に流石、【賢者】の加護があるだけ合って頭の回転が速い。

 普段の言動がふざけているようだが、加護が現すとおり賢者は伊達ではないようだ。


「その可能性があるから警告だな」


 そう言って、肩を竦めるバルドル。

 だが、第一王子派閥もそれを予想しないわけじゃない。

 そうなると、第二王子派閥が動けるのは、初動の僅かな期間か、下っ端に散発的な嫌がらせをさせてトカゲの尻尾切りをするくらいだろう。

 だが、解せないことが一つある。


「バルドル。あんた、どこからその情報を手に入れている? 流石に元近衛騎士でも手に入る情報じゃないだろ」


 元々は護衛騎士であり、第一王子派閥に所属していたバルドルだが、切り捨てられた。

 今更、第一王子派閥に義理はないし、逆に俺の情報を第二王子派閥に売ることだってできる。

 なら、誰が……と考えて、バルドルは言いにくそうに頭の後ろを掻く。


「あー、情報は、第二王女だよ。派閥的には極小だけどな」


 そう言って、視線を泳がすバルドル。

 確か、第一王女が隣国に嫁いでおり、国内もそれなりに平和であるために余り気味の王女だと記憶している。

 そして、第二王女は、第一王子を支持しつつも独自の派閥を形成しているらしい。

 同じ王族がバルドルを切り捨てた後ろ暗さがあるために、左遷されたバルドルを取り込んだのか。それとも第二王女の独断か。


「まぁ、情報のルートは確かだから安心してくれ」


 とりあえず情報ルートは納得する一方、ヒビキは真剣な表情で――


「王女様ってどんな方なのかしら、高飛車な金髪ロールかしら、それともロリ姫様とかかしら、もしくは正統派のお姫様、知的な姫様……どれもアリね!」


 俺だけが聞こえるだけの小さい呟きと拳を握りしめるヒビキの姿に、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえる。


「まぁ、そんな第二王子派閥を警戒するために暗竜の雛とその周りにいる人間を少しの間、安全な場所に移った方がいいと思うんだ。ちょうど、いい時期だからな」

「安全な場所?」


 怪訝そうに答える俺に対して、あっ、とレスカが声を出す。


「そう言えば、この時期でしたね」

「レスカ、なにか心当たりがあるのか?」


 俺が尋ねると、レスカはジャガイモ料理を石窯の中に入れて、焼き上げる間振り返り答える。


「この辺境の牧場町は、年に2回エルフの里と交易しているんです」

「っ! エルフですって!?」


 異世界人であるヒビキがレスカの言葉に椅子を倒す勢いで立ち上がる。


「あー、まぁ、ヒビキの嬢ちゃんは、亜人たちが苦手な人間か?」

「あ、いや、そうじゃないわ。その、エルフとかの亜人たちを見たことがないから。一応知識は知っているけど」


 バルドルがヒビキは亜人種に差別的なのか、婉曲的に尋ねるが、それに気づいたのか誤解を解くために慌てて答える。


「まぁ、亜人種は、人間に比べたら少ないからな。けど、ヒビキは、一応、亜人種のドワーフに会ったことがあるぞ」

「えっ、嘘!?」

「えっと……鍛冶屋のロシューさんです。よく、ヒビキさんが金具に付与魔法を付けるときに打ち合わせする」

「あのおじ様が! えっ、普通の人だと思ってた……」


 ヒビキには、亜人たちとの見分けが付かなかったようだ。

 人間でも人種が違えば、顔立ちが同じに見えたりするらしい。ヒビキには、背が低くてヒゲを生やした中年男性くらいにしか思わなかったんだろう。


「うっそ……私の初めての亜人種との接触がまさかのドワーフ……それもロリドワーフじゃなくておじ様ドワーフ……」


 なにやら、ショックを受けて、ブツブツと呟いているヒビキは、とりあえず無視してレスカに話を促す。


「えっと、話を戻しますね。エルフの方々が精霊魔法でエルフの里までの道を開いて、この辺境の牧場町から交易団を出して、物々交換するんです」

「だが、エルフとの交易なんて……初めて聞いたぞ」

「まぁ、大っぴらには言わないからな。それに見目麗しいから下手に人間至上主義者が近づいて人種間問題に発展するのはやばい」


 バルドルの言いたいことは分かった、と頷き、続く話にも耳を傾ける。


「この町は、【魔の森】に接している辺境の牧場町だが、それとは別に派遣される代官の目的は、牧場町からの税収よりもエルフとの交易の外交官って側面が強い」


 それに、この町はアラド王国の直轄領でエルフとの高価な交易って大きな収入源があるから意外と税率が低いんだ。と意外な内情を語るバルドル。


「なるほど、そうだったのか」


 エルフとの交易品の数々は、貴族などの上流階級でかなり需要が高い。芸術性の高い工芸品や医薬品、森林から算出される宝石の原石などと、希少性と相まって高値で取引されている。

 だが、本当に大規模なエルフの氏族との交易をするところは、かなりの頻度でやり取りをすると聞いているが、この町の交易相手のエルフの里は、小規模かもしれない。

 だが、小規模でも亜人種は、同じ人種同士の結束が強い。


「第二王子は、人間至上主義者じゃないし、優秀な補佐もいる。だから、エルフとの交易を妨害する方がリスクが大きいって知ってるはずだ」

「それに、国家の重要な財源の一つであるエルフとの交易を邪魔して、人種間問題が発生して交易品の流通が止まれば、突き上げを食らうのは自分たちの派閥、と」


 復活したヒビキは、エルフとの交易の場に加わる安全な理由の一つを予想して口にすれば、バルドルもそこまで考えが至らなかったのか、目を見開き驚く。

 だが、そうした背景が暗竜の雛であるチェルナにあるなら、エルフとの交易団に参加した方が良さそうだ。


「それに行き来は、エルフの精霊魔法で作り出す道って言っても転移に近い移動だから俺たちでもエルフの里の場所が分からないから手出しもできない」

「へぇ、そうなんだ。精霊魔法……あたしも使えるようになるのかな」


【火精霊の愛し子】の内包加護を持つジニーは、自身の掌を見つめる。

 エルフの里で精霊魔法のコツでも学べば行き詰まっている魔法の鍛錬が伸びるかも知れないと思っているのだろう。


「牧場のことは、いつものように俺が留守の間の面倒を見る。だから、お前ら四人行ってこい」

「むぅ、自分や周囲の安全のためには仕方が無いが、俺たちが加わって平気なのか?」

「その辺は、この町の代官や町長、町の長老衆も納得している。向こう側とも連絡を取り、事情を説明したら是非にと言われた」


 そう言って、町全体の方針と合致していることを確認した俺たち。


「わかった。それならその話を受けようか」

「そうですね。私の叔父も交易団の一人として参加したので前々から気になっていたんですよ」


 そう言って、そろそろいい焼き加減になったのか石窯から料理を取り出すレスカとお皿を用意するジニー。


「あたしは、お祖母ちゃんに先に聞いてた。次代の薬師としての勉強させるためって。けど、【精霊魔法】の使い方も知りたい」


 そう言って呟くジニーに、俺はその頭に手を伸ばして撫でる。


「大丈夫だろ。きっと教えて貰える」


 根拠のない慰めであるが、俺が頭を撫でると恥ずかしそうにジニーが俯く。


「じゃあ、私たちは、エルフの交易団に参加ってことですね。それじゃあ、話が纏まったところでお夕飯にしましょう」


 そう言って、レスカは待ってましたとばかりにテーブルに料理を並べていく。

 ジャガイモ料理には、楕円系のニョッキには、クリームソースとドライトマトと挽肉のソースを絡め、ポテトサラダには、旬の野菜が混ぜ込まれ、ジャガイモやベーコン、タマネギをオリーブオイルで炒めて、塩こしょうで味付けし、彩りにドライパセリを振りかけたジャーマンポテト、キャベツやジャガイモ、タマネギなどのコンソメスープなどが次々と並んでいく。


「どうぞ、召し上がって下さい。ただ、ジャガイモは主食ですからパンはないですけど」

「おっ、相変わらずレスカの嬢ちゃんの料理は旨そうだな」


 そう言って、料理に手を伸ばそうとするバルドルだが、レスカが席に着くまでに手を付けない俺たちの雰囲気を感じ取り、その手を途中で止める。


「すみません、お待たせしてしまって」

「いや、構わない。それじゃあ――いただきます」

「「「いただきます」」」


 食事の挨拶と共に、食べ始める俺たちにバルドルも慣れない作法に気後れしつつ、食べ始めるが、すぐに食欲が勝り勢いよく食べ始める。


「ああ、どれも美味しいな」

「そうですね。次は、どんな料理にしましょうか」

「レスカ姉ちゃん、あたし、ジャガイモのポタージュがいいと思う」

「私は、お肉が最近多いから魚と合わせた料理とかないかしら?」


 俺は素直に食事の感想を口にして次々と料理を口に運ぶ。

 レスカも今日のジャガイモ料理に満足なのか笑顔を浮かべつつ、今日並べていない料理について考え、ジニーとヒビキがリクエストする。


「そうですね。ジニーちゃんのジャガイモのポタージュは作れますね。ヒビキさんのお魚とジャガイモですと、魚とジャガイモのクリーム煮や魚に衣を付けて揚げたものの付け合わせとかでしょうか」


 そんな穏やかな食事風景だが、俺とレスカは意外と食べる。

 俺は【頑健】の加護の養分貯蔵により栄養を蓄えることができ、レスカはただ単純に食事が好きなのだ。

 更に今日の食事には、先任騎士のバルドルもおり、いつもより多いように感じた料理も綺麗に完食した。

 まぁ、途中から満足したジニーとヒビキがお茶を飲みながら、食べ終わった皿などを片付けるなどしてくれた。


「ふぅ、食った食った。それじゃあ、ジニーを家まで送り届けて帰るな」

「はい。あと、ジニーちゃん。これジャガイモのお裾分けです」

「ん、レスカ姉ちゃんありがとう。また来るね」


 そう言って、俺たちは家に帰るジニーとそれを送り届けるバルドルを見送る。

 そして、二人が去った後、俺たちの後で見送っていたヒビキは――


「あっ!?」

「どうした、そんな声出して!」

「エルフってスレンダー系が多いのかしら! それとも巨乳系が! それを聞き忘れた!」


 どうでもいいことを騒ぎ出したヒビキに対して、俺とレスカは、とりあえず流すという能力が少しずつ高くなってきたのを感じた。


9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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