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6-3

6-3


 牧場に戻り、レスカが落ち着いた頃、ジニーも加わり起ったことに付いて話す。


「なによ、それ! 勝手なこと言って! あのクソドラゴン、明日着た時、撃ち落としてやるわ!」

「あたしの魔法で爆裂させてやる!」

「落ち着け、ヒビキ。それにジニー」

「これが落ち着いていられるわけないでしょ! 暗竜の雛は、元々他の竜に引き渡すつもりだったけど、なんでレスカちゃんやレスカちゃんの牛も一緒に連れていかれるわけよ! おかしいじゃない!」

「俺に言うな。俺だって頭が痛いんだから」


 真竜が何を考えてあんなことを言ったのか分からん。いや、圧倒的強者だからこその理論だろう。

 そして、一日の猶予を与えて俺を試すのだろう。

 真竜の雛を預けるべき存在なのか、否か。


「なら、コータス。あんな竜、ガツンとやっつけちゃいなさいよ!」

「無理ですよ。それにコータスさん、危ないことしないでください。私なら大丈夫ですよ。リスティーブルと一緒にこの子を育てるだけですから」


 力なく微笑むレスカに俺は、胸が苦しくなる。


「いい訳ないじゃない! 連れ攫われるってことは今までの人生全部を奪われるようなものなのよ! これから先、やりたいこと、やってみたいことの可能性が閉ざされる!」

「でも……」


 迷うレスカ。そして、ヒビキの言葉には、強い力が込められていた。

実際に、異世界召喚に巻き込まれ元の世界に帰れていないヒビキからすれば、境遇を重ねているのかもしれない。


 そして、俺の考えは最初から決まっていた。


「レスカには、夢があるだろ?」

「私の夢?」

「この牧場を一番の魔物牧場にする夢。そして、調教師として両親の魔物と戦いたい夢。それを叶えたいんだろ?」


 俺は、言葉を投げかけながら、落ち着かせるように頭を撫でる。すると、堰を切ったように瞳から涙が溢れ出し、俺の胸に顔を押し付けてくる。


「ぐぬぬぬっ、レスカちゃんを説得してハグするなんて。でもよく言ったわ! それで策はあるの!?」

「そんな物はない。ただ【頑健】の加護の再生能力によって炎のブレスを突破し、一撃入れる。それだけだ」

「コータス兄ちゃん、それダメそう」


 町から紅の真竜のブレスを見ていたジニーは、そう呟き、小さく噴き出したレスカはやっと笑顔を見せた。


「まぁ、少し何とかなることを考えるさ」


 俺は、それだけ言って、レスカたちから離れ、借りている自室へと戻る。

 レスカを安心させるように言ったが、実際には、ジニーの言う通り失敗する可能性の方が高い。

 あんな炎を受ければ、常人などすぐに消し炭だ。そして身体強化の魔法を使っても耐火性が大きく上がるわけではない。

 だとすると俺が一瞬でも真竜を上回るには、超高濃度魔力を体に満たす身体強化の禁術の【マテリアボディ】と半物質化した魔力を纏う【デミ・マテリアーム】と名付けた固有魔法だけだ。


「これを組み合わせたらどうなるのか、俺自身も分からないんだよなぁ」


 加護の力のお陰で最悪、死ぬことは免れていたが、もしかしたら次こそ死ぬかもしれない。だが、潔く真竜にレスカとリスティーブルを渡すつもりはない。

 そんな折、俺の部屋がノックされた。


「コータス。ちょっといい?」

「ああ、いいぞ」


 俺の許可を得て入室したヒビキは、呆れたような困ったような表情を浮かべている。


「あんたさぁ。愚直よね」

「なんだ唐突に」

「馬鹿正直にあの竜の要求を呑んで対決しなくてもいいのに。レスカやリスティーブルを連れて逃げるとか、他の真竜を探して暗竜の雛を預けるとかね」

「そんな時間はないだろう。やろうと思えば、紅の真竜は、俺たちを探し出すだろうし、下手に動いて暴れられても困る」

「なら、せめてこれくらいは、準備しなさい」


 そう言って渡して来たものは、革製の飾り紐である。

 細く裁断した牛革で編んだもののようだが、微かに魔力のような物を感じる。


「【賢者】の加護謹製の防火のお守りよ。まぁ、どれくらい通用するか分からないけど、炎のブレスに突っ込むんなら、ないよりはマシでしょ?」

「ああ、感謝する」

「ほんと、男の子って無謀が好きよね」


 困ったように笑うヒビキは、もう一つのレスカから預かった伝言を教えてくれる。


「今日の夕飯は、飛び切り豪勢にするそうよ。明日、あんたが怪我してもすぐに傷や怪我が治るようにありったけの食べ物を食べていけるようにって」

「ああ、ありがとうって伝えてくれ」

「それくらい、自分で伝えなさい」


 そう言って、ヒラヒラと手を振って部屋から出ていくヒビキ。

 俺は、ヒビキから貰ったお守りをベルトに括り付け、目を閉じて紅の真竜と対峙する場面を思い浮かべる。

 どのように一撃を加えるか、相手がブレスを放つ前に一気に距離を詰めるか、それとも大回りで動くか、それとも炎を乗り越えて攻撃を加えるか。

 たった一撃が果てしなく遠く、正直、出来るとは思えない。


 今から体や技を鍛えたところで真竜には到達しない。

 だから俺は、意識を内側に向けていく。


『――生き物は、種として生き残るために得てきた特徴などの事じゃないでしょうか? 例えば、生存競争の激しい魔物たちは、何世代も掛けて戦うための牙や爪、力強さを獲得するような進化による強さです』

『――クローバーは、問題が起った時、植物ですから沢山の太陽の光を浴びれるように葉っぱを増やそうと変化するらしいんですよ。それを突然変異って言いますね』


 レスカの言葉がふと過り、カチリと頭の中で何かが嵌る。


「生き残るための生存戦略が全て【頑健】の加護に詰め込まれていたのか」


 

 俺は、自身の少ない魔力を高密度に圧縮して、部分的な禁術マテリアボティを再現する

 それは、右手の指先に集中すれば、耐え切れずに全ての指先が裂け、小さく血を噴き出す。

 その痛みに顔を顰めるが、次第に体の方が禁術に適応していき、傷が塞がる。


「ふっ!」


 予備の木刀を作るために部屋に置かれた木材に貫手を放てば、禁術で強化された指先の跡が残る。


「これを全身に、いや、違う。圧倒的に魔力が足りない。なら……」


 ならば、一瞬だけ、一瞬だけでいい適応することができれば、俺は勝つことができるかもしれない。

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