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4-5


 温め終わった暗竜の卵を回収し、俺たちは、魔の森から町に帰るためにランドバードとリスティーブルに乗る。

 乗る直前に、ヒビキがどちらの後ろに乗るかで騒いだが、俺の騎乗するランドバードの後ろに文句を言いながら乗り、レスカのリスティーブルの背には、ジニーが乗る。

ジニーは疲れたのが既にレスカに寄る掛るように寝ており、暗竜の卵は、レスカが布製の肩掛け鞄の中に入れて大事に前の方に抱えている。

 帰り道は、トレントたちの護衛が付いての移動であり、行きよりも安全でゆっくりと進んでいく。


「…………」


 誰もが大精霊との邂逅とヒビキとジニーの内包加護について考えている様だ。


 ジニーの加護である【火魔法】は、魔法使いの中で一般的な物であるが、その中で火精霊魔法や火精霊召喚などの精霊魔法に内包加護を有しているのは珍しい。

 だが、元々分かっていたことだが問題は、その内包加護の正体が【火精霊の愛し子】という点だ。

【精霊の愛し子】系の内包加護は、無条件に精霊に好かれる。

 具体的に加護に【精霊の愛し子】という物があるわけではないから一見分からない。だけど、精霊魔法使い同士が合えば、互いに格の違いが分かり、その頂点に立つのが常に【精霊の愛し子】と呼ばれている。

 それこそ、50年に一人の逸材とも言える。


 次にヒビキだ。

 異世界の住人をこの世界では、稀人などと呼んでいる。

 その人間たちは、大抵、特殊な加護や知識を有しており、各地に伝説や伝承を生み出した。

 また、【賢者】の内包加護は、ここ数百年確認されておらず、持っている時点で国家戦略級の存在だ。

 更に、魔法の知識を自由に引き出せる【賢者の書庫】の内包加護がある。

 禁術の全容すら知ることができ、異世界の知識と【賢者の書庫】の組み合わせ。もはや未知数と言っても他ない。


「ねぇ、コータス」

「なんだ、ヒビキ」

「なにも聞かないのね」


 俺の後ろでランドバードに乗るヒビキが尋ねてくる。

 俺はちらりと後を向くと、困ったように笑うヒビキの顔が間近にあった。


「話の規模が大き過ぎて、一介の左遷された騎士には手が追えないからな」

「それじゃあ、聞きたいんだけどさぁ、私やジニーちゃん、どうなると思う?」

「面倒事を避けたいなら隠した方が良い。加護の正体を偽ることも別に悪いことじゃない」


 バルドルのような絶対的な強さへの自信があるなら、良いかもしれない。

 だが、俺の【頑健】の加護は、見方によれば特殊であり、欲しい人間は危険を冒してでも俺の身柄を奪いにくる可能性すらある。

 だから、ジニーもヒビキも【精霊の愛し子】や【賢者】に関して隠した方が良い。


「ジニーは普通の火精霊使い。ヒビキは、ちょっと珍しい【魔女】の加護持ちってことにしておけ。少し数は少ないが、それでもいない訳じゃない」


 それなら多少は誤魔化せる。


「そう、ありがとう、私たちのことを考えてくれて」


 そう言って、お礼を言って俺の背中に寄り掛かってくるヒビキ。

 だが、今の体勢だと――


「すまない。もう少し離れてくれると助かる」

「なによ。はっきり言いなさいよ」

「いや、その……」


 胸が背中に押し当てられている。レスカほどではないが、確かに柔らかい感触が……

 そんな俺の反応を楽しんでいるのを背後の気配で分かる。


「こういう時は、私たちの世界でこう言うわ。――当ててるのよ、って」

「確信犯か。なら、止めてくれ」

「分かったわ」


 あっさりと離れてくるヒビキに俺は、安堵の吐息を吐き出す。


「……そう言えば、ヒビキ」

「なに?」


 後ろを振り向けば、不思議そうに小首を傾げているヒビキだが、俺は聞きたいことがある。


「あれだけあったトレントたちが集めた果物やキノコ、何処にやった?」

「あー、あれね。この中に入っているわ」


 ヒビキは、自分の肩にかかる鞄を掲げて見せる。

 確か、ヒビキが最初から持っていた鞄だが、汚れが勝手に消えていた以外には、特に可笑しいところはなかったが……


「森に放り出された時、何とか生き抜こうと色々やって作った【無限バック】よ。容量無限、重量無視、私以外の人が開けられない認証機能と撃退機能、汚れや破損を直してくれる自動修復機能とこれでもかと詰め込んだ一品よ。勿論、この制服も似たようなチート装備よ」

「……そ、そうか」


 ヒビキの言うチート装備と言うのが、どういう物なのか分からないが、うっかり危険物がないかヒビキの鞄を調べなくて良かったということだけは分かった。


「他にも森を彷徨ってる時に色んなもの集めたのよねぇ。何入れたか私も把握しきれないのよ」

「なぁ、本当に大丈夫か?」

「へーきへーき。大丈夫でしょ」


 そう言って、俺の後ろで手をヒラヒラさせるが、正直、あの鞄の中身を見るのが怖い。

 そんなヒビキは、しばらく黙り、今度は逆に俺に尋ねてきた。


「そう言えば、私、あんたの加護について聞いてないのよね。あんたは何の加護があるの?」

「俺は、【頑健】って加護だ。体が丈夫になり、怪我の治りが早くなる。体型を変えずに食べた栄養を体内に蓄えることができる」

「えっ、何それ羨ましい。ケーキバイキングの食べ放題食べても体重気にしなくて良いってことじゃん! 前の世界で欲しかった!」


 そう言うヒビキの言うことは分からないが、とりあえず太らない体が欲しいということは分かった。


「でも、丈夫な体と怪我の治りが早くなるねぇ。本当にそれだけ?」

「ああ、努力して剣を振っているが並以上にはならないし、魔法だって身体強化系だけだ」

「ふぅ~ん。本当にそうなのかしら?」


 ヒビキとしては、俺に過度な期待をしているようだが、特別な加護など持っていない。


「確かに体が丈夫って意味もあるけど、もっと深い意味があるんじゃない? 例えば、生物としての頑健性とか」

「生物としての頑健性? それも異世界の知識なのか?」


 そして、隣を歩いていたレスカは、俺たちの乗るランドバードにリスティーブルを寄せて話に加わる。


「多分、ヒビキさんが言いたいのは、生き物は、種として生き残るために得てきた特徴などの事じゃないでしょうか? 例えば、生存競争の激しい魔物たちは、何世代も掛けて戦うための牙や爪、力強さを獲得するような進化による強さです」

「頑健ってのうのは、そういう物なのか?」


 まさか、俺の認識が間違えていたのか――と自身の加護について深く考察しようとしたが、遠くで森の切れ目が見えた。


『オオオオオオッ――』


 俺たちを護衛していたトレントたちが声を上げ、体を震わす。

 そして、ゆっくりと歩いて、魔の森から町の前の平原に辿り着けば、トレントたちは二体を残して俺たちに付いて来る。

 その一体は、ジニーとヒビキを連れ出した一番年若いトレントであり、トレント果樹園に戻るつもりのようだ。

 そして、もう一体のトレントは、年月を重ね、片言の人語を介する個体でジニーとヒビキに精霊の言葉を必死に伝えようとしたトレントと同一個体らしい。


『コレ、オレイ……』

「なんだ? これをくれるのか?」


 ジニーとヒビキに渡したものと同じ果物かと思い、受け取る。

 それは、月明かりでも色艶の良さが分かるリンゴのような果実で食べるのが勿体無く思う。

 そして、それを見たレスカが驚きの声を上げる。


「それってまさか、トレントフルーツ!?」

「トレントフルーツ?」

「はい! 一個食べれば、一週間は不眠不休で働けると言われている珍しい果物ですよ! 一個が実るのに、数年分の養分を蓄える必要があると言われています!」

「そんな貴重なものもらっていいのか?」


 俺がトレントフルーツを受け渡した個体に尋ねれば、頷くように木の幹が揺れる。


『マモラレタ、ルーベンス、アリガトウ、ツタエテ』

「ルーベンスに守られた?」


 俺は、小首を傾げながらもトレントたちは魔の森へと戻り歩き始める。


 その後、魔の森の騒がしさを聞き付けた自警団に迎え入れられながら、牧場町に戻って来た。


 戻って来たジニーにリア婆さんは喜び、連れ出したトレントは、トレント果樹園の牧場主のララックと他のトレントたちに迎え入れられた。

 その際に――


「今回は、うちのトレントが迷惑をかけてすまなかった」

「それは気にしていないトレントと一番関わりのある牧場主に聞きたいんだが」

「なんだい?」

「魔の森であったトレントの一体が『ルーベンスに守られたこととありがとうを伝えてほしい』という言葉を言っていた」


 俺がどういう意味か分かるか? と尋ねる前に、牧場主のララックは目を閉じて、自分の顔に手を当てて撫でる。


「そんなことがあるなんてな。たぶん、そのトレントは、うちの牧場の生まれだ。曾爺さんがルーベンスって名前だし代々トレント牧場をやっている。そうか、自分たちが一番弱い時期を守られていたことを覚えていたんだな」


 人間とトレントは種族や寿命が大きく差がある。

 それでも人間と魔物との絆があったことを俺は、知った。


【魔物図鑑】


 トレント

 樹木が魔の領域で魔物化した存在。

 樹齢50年までをリトル、300年までをトレント、1000年までをオールド、1000年以上をエルダーと区分けしている。

 魔物としてのランクは、成体のトレントがCランクだが生息域が魔の森の奥地であり、樹木への擬態などでその討伐依頼・素材の採取依頼の難易度は、C+に高まるが、状況によっては、B-の可能性もある。

 基本的にその場所に動かずに一所でじっと耐え、時折近づいてきた他の生物を叩いて養分にする。その際の獲物は、中型の魔物で、昆虫や小型の魔物に対しては敵対せず、逆にその動物や生き物の住処や餌場になっている。

 トレントは、古くから精霊との関わりが深いとされており、その枝や木材は、魔法使いの杖の素材として扱われることが多い。

 トレントは、基本自立しているが、自らの根を操り、敵を締め上げ、地面に引きずり込む他に、どうしても危険に晒された時の緊急手段として根を動かして移動する。

 魔物牧場の若いリトル=トレントに様々な果物の枝を接ぎ木し、年中色んな種類の果物が採れるようにされているためにトレント本来の果物であるトレントフルーツを生み出すための養分が確保できないために果物しか生み出せない。

 樹齢50年を超える個体は、全ての果樹の枝を払い、魔の森に離す。

 トレントの繁殖方法は、トレントフルーツの種からの発芽か、切り離された根や枝が長い時間を掛けて成長するという方法である。

 トレントフルーツは、リンゴに似た果実でトレントが何年物歳月を掛けて養分を蓄えて実にした果物で、その匂いに釣られて寄って来た魔物を不意打ちで倒し、更に養分を集めると言う。

 疑似餌としての役割もあるが、トレントフルーツは、ちゃんとした果実であり食用ができる。

 その際に、魔物が何年も養分を溜め込んだために、一個食べれば一週間不眠不休で働ける他、魔力も回復するなど魔法の果実のような扱いであるが入手は困難と言われている。




 ゴブリンジェネラル

 ゴブリンの上位種。ノーマル<ファイター<ソルジャー<ナイト<ジェネラル<キングという風に戦士系に進化していく中の存在。

 一段階進化するごとに、討伐ランクも一段階上がり、Fランクのノーマルゴブリンから4段階進化したために単独の推定ランクはCランク。だが、ゴブリンは基本、群れを作る魔物であるために、群れ込みの討伐ランクは、B。

 ゴブリンキングにまで成長すると単独Bランク。討伐Aランクにまで成長する。

 未確認ではあるが、ゴブリンキングの更に上の進化が存在する可能性もあると魔物研究家たちの間では議論がなされている。

 今回、コータスたちを襲った個体は、通常のゴブリンジェネラルであるが、配下のゴブリンたちが勝手に卵を得て進化することを危惧して、単独でトレントの防壁を突破。そのためにゴブリンの持ち味である集団戦闘と物量作戦が使えずにあえなく撃退される。

 ゴブリンには、その他にもホブゴブリンやノーブルゴブリンなどと呼ばれる派生進化が多数存在し、そうした亜種は、また違った強さを持っている。


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