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4-4


 薄ぼんやりと輝く人は、耳が長く緑に金色のグラデーションの髪の毛を波打たせ、中性的な美しさを放っていた。

 その美しさの前で俺は、思わず放心状態になり、俺の後に遅れてレスカやジニー、ヒビキもその存在を認識して、同じく放心してしまう。

 目にするまでは気配や存在すら認識できなかったのに、視認した瞬間から押し寄せる圧倒的な存在感は、異常とも言える。

 それを言葉で表すなら――神秘性だろうか。


「……精霊」


 そう言って、口を開いた瞬間に薄れる神秘性に、俺は詰まっていた息を吐き出し、深呼吸を繰り返す。


「うん、正解。正確には、エルフの祖を生み出した木精霊の一柱。木の大精霊とでも呼んでね」


 気安く語り掛けてくるが、それでも神話上の存在だ。

 生まれたばかりの無形の精霊や動物の形を取る精霊など自然界のどこにでもいるような存在とはわけが違う。

世界の調停者とも調律者とも言える大精霊の一柱である。

 一部の神と木精霊が交わったことでエルフの祖が生まれとも、神と木精霊が自分の姿に似せた存在としてエルフの祖を作っただの色々ある。

 間違いなく神の眷属とも言える存在だ。

 精霊が関わっていると思っていたがトレントに指示を与えていた存在が予想以上の大物に驚きを超えて無反応になってしまう。


「さて、改めて手荒な真似をしてしまってすまないね。卵が十分に温まるまで今回の事を説明しようか」


 穏やかに話し始める木の大精霊。


「さて、まず何から話したらいいか……」

「ちょっと待ってくれ。そもそもあの卵はなんなんだ? あれは何の卵なんだ?」


 ランドバードの卵よりも一回りも大きい卵は、普通ではない。それこそ大型の魔物とも言える。

 今なお、ジニーとヒビキが維持している火柱に炙られ続ける卵を見て、ああ、と若干驚いたような表情を浮かべて、次の瞬間には微笑む大精霊。


「あれは、竜の卵さ。暗竜のね」

「暗竜?」

「それって本当ですか!? 本物の暗竜の卵!?」


 声を上げるレスカに振り返れば、そのまま俺に掴みかかるんじゃないかと思う勢いで説明してくる。


「暗竜は、竜の頂点に存在する真竜族の一種なんですよ! コータスさんも知っているはずですよ!」

「アラド王国の崇める竜が真竜だったな」


 この国は、建国王が赤い真竜族と契約して国を興したという話がある。それと同族の卵とは……


「だけど、なんでこんな所に真竜族の卵があるんですか?」

「それはね。暗竜について話さなければならない。真竜族は、この世界最強の生物と言っても過言ではない。だけど、強すぎる力は目立つ。だから竜族はそれぞれの人間も住まわぬ土地や洞窟に真竜の里や住処を築いた。火竜なら火山、水竜なら海底、風竜なら渓谷と言った感じでね。その中で、夜と闇を司る暗竜だけは、地上ではなく空に住処を求めた。それが――月さ」


 頭上を指差す大精霊の真上に移るのは、美しい半月だ。

 目の前に映る月に竜の里があると言われても、俺は想像ができない。

 その中で、一人だけ、ヒビキが理解を示した。


「月に生き物が生きられるわけないじゃない」

「それこそ暗竜は、夜と闇を司る暗竜だから生きられるのさ。人間は存在しないけど、食用に適した魔物は存在するらしいよ。それ以外は、過酷な極寒の、だけど穏やかな世界らしいよ」


 月にある竜の里と言われても俺もレスカもジニーも理解が追い付かない。

 あと、お茶目で言ったのか、月には、巨大な黒い魚が宙を泳ぎ回っており、それが主要な食料だとか、ヒビキがスペースマグロだとか何とか名付けていたが、まるで分からん。だが、分からないなりに話は進んでいく。


「そんな穏やかな里にも一つだけ問題があってね。極寒だからこそ、暗竜たちは自分たちで卵を孵すことができないんだ。それこそ竜の卵がすぐに凍え死んでしまうほどにね」


 きっと誰かが口にしたら妄想として切り捨てられるような話だが、大精霊の口から語られる事実は、重い。


「だから、暗竜たちは、地上にいる他の真竜たちの元に自らの卵を落とし、代わりに温めて育てて再び月に帰す。それが暗竜と地上の他の真竜たちとの盟約なんだ」

「まさか、その落ちてきた卵って、あの流れ星?」


 ジニーの呟きに、大精霊が頷く。

 俺たちが見上げて、魔の森に落ちた流れ星の正体は、暗竜の卵だったとは。


「親竜が卵に与える最初で最後の守りは、万が一に地球に落ちても卵が壊れないようにするものさ。地上に落ちる時の熱と衝撃は、いささか卵にはきついからね」


 そう言って、流れ星として地上に降りてきた、暗竜の卵に目を向ける。


「本来なら、どこかの竜の里に送られ、真竜たちが受け取るはずだったんだけど、卵の送るちょっと前に空間が歪んでね。落とす場所が大分ズレてしまったんだ。それも空間に歪みを残すほどの大規模魔法の使用だ。その理由が分かるよね。異世界の賢者さん」


 大精霊の問い掛けの先には、自分の胸の前で拳を強く握りしめるヒビキが居た。


「……ええ、分かっているわ。異世界召喚って糞みたいな魔法でしょ」

「そう、時折人間たちが異世界から人間を召喚する魔法だよ。大体、この世界の人間じゃないから加護を持たない人間たちだ。だから召喚される時、自動的にこの世界に適応できるだけの加護を与える」

「じゃあ、ヒビキは……」


 もはや話の突拍子がなさ過ぎて頭が痛くなって来る。

 流れ星が竜の卵で、異世界召喚が原因でその卵が本来落ちる場所を間違え、で呼び出された人間がヒビキで……


「つまり、ヒビキは勇者か?」

「コータス。前に私の話した内容覚えてないでしょ? 私は、巻き込まれたのよ。そして、巻き込んだ奴が【勇者】の加護を持っていて、私は【賢者】の加護を受け取ったの」


【勇者】や【賢者】などの役割を持つ加護は、非常に強力な加護だ。

 文字通りの存在になるだけの資質があるが、その加護の中にある内包加護は、十を超える加護を纏めた物に等しい。

 勇者ならば、光魔法や魔力、身体能力に関する内包加護を有し、勇者固有の魔法が使えるようになるとか。

 そして、ヒビキは――


「私は、【賢者】と【極大魔力】の加護を持っているわ。まぁ、魔法に触れたことがない私が、魔法を使えて知識を持ってるのは【賢者】の加護のお陰ね」

「それでも君を捨てる人間たちは、本当に面白いよね。賢者なんて勇者の次に強力な加護持ちなのに」

「相手は、知らなかったし、言わなかった。それに捨てられるようにも仕向けたのよ。まぁまさか転移でどこともしれない森の中に送られた時は流石に、殺意どころじゃなかったわよ」


 そう言って、感情の発露に合わせて揺れるおどろおどろしいヒビキの魔力が現れたがそれもすぐに消える。


「まぁ、勇者じゃないから放逐されて今でも良かったと思うわ。どんな扱いになるか想像したくないから」


 ブルっと身震いするヒビキ。実際、厄介事の種しか想像ができない。

 更に、異世界召喚など魔法の中でも秘中の秘だ。国家中枢に関わる大魔法にもはや理解が追い付かない。

 だが、大精霊の方は気にせずに、更に衝撃の事実を落としていき、俺たちの頭を悩ませる。


「そのままだと卵の中身が凍え死んでしまうか、最悪、卵を見つけた魔物に食い散らかされてしまう可能性があるからね。竜の卵は、野心的な魔物ほど魅力的に映るみたいだね。それを食べれば数段階進化することだって可能だ。そうなれば魔の森が大きく荒れる」


 そう言って、ニコニコしている大精霊だが、その笑顔が怖い。

 現に、次の言葉に俺とレスカは、牧場町の危機ですらあったことを理解する。


「真竜が来ても食い散らかされていたのなら怒り狂ってこの周囲で暴れていただろうね。仮に、仮死状態だったとしても卵を温めるためにブレスをこの一帯に放つ可能性だってあった」


 魔の森消滅の危機、ひいてはその魔の森に隣接する牧場町消滅の危機を知らず知らずのうちに回避することができたことに安堵する。


「さて、そろそろ卵が温まりきるようだね」


 ジニーとヒビキが火柱を消せば、灰色だった暗竜の卵が熱を受け、漆黒の色に変わっていた。決して焦げたわけでもないし、卵の周囲は熱く、地面が溶けてガラス質になっている中で平然と存在し続けていた。


「魔の森は、まだ危ないし、いくらでも魔物が寄って来る。できれば、暗竜の卵を君たちに預かってほしいんだ」

「わかった。暗竜の卵は責任を持って、迎えに来る真竜に引き渡そう」


 俺がそう言うと、元々透けていた大精霊の姿が更に薄くなり始める。


「お、おい!」

「大丈夫だよ。ただ地上に現界し続けるのが大変になって来たから精霊界に戻るだけだよ」


 そう、それと、と微笑みながら言葉を続ける大精霊。


「無理矢理連れてきてしまったお礼というかお詫びに異世界の賢者さんと小さな精霊遣いちゃんの内包加護を一つ教えて上げるよ。本来なら、内包加護が分からないから人は、考え、試すものだけど、流石に内包加護が特殊すぎるからね」


 それは、暗竜の卵を救ってくれたお礼だ、と言われた。


「まずは、異世界の賢者さんのその【賢者】の加護には、魔法の知識を引き出すことができる【賢者の書庫】とでも言えばいいものを持っている。色々と考えて試してみるといいよ」

「ありがとう、大精霊さん、試してみるわ」

「次に、小さな精霊使いさんのその【火魔法】の加護には、特別に火精霊に好かれる【火精霊の愛し子】がある。火精霊が君を常に守ってくれるけど、嫉妬深い火精霊は、君の魔法を邪魔することもある。だから、よくよく火精霊と対話することだよ」

「ん。あたし、頑張る」


 そして、ヒビキとジニーの内包加護について教えた大精霊は、完全に姿を消す。

 だが、最後に声だけが辺りに木霊している。


「それじゃあね。数奇な加護を持つ君たちに、幸あらんことを」


 大精霊は、それだけ告げれば、あとは辺りには魔の森の静寂が広がっていた。


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