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4-3


 日も暮れ始めた魔の森を進んでいく俺たちだが、レスカの用意した雷光クラゲのランタンのお陰で暗い夜道を進むことができた。

 魔物の気配すら薄いトレントの通り道を辿りながら進むが、俺たちを襲ってくる魔物は周囲には現れない。

 だが、逆に森の各所では、動物や亜人系の魔物の悲鳴や断末魔が響き、ここが安全ではないということを示している。


「やっぱり、魔の森か……っ!? 止まれ!」


 先行している俺は、ランドバードの手綱を引いて魔の森で小走りに進めるのを停止させる。

 するとレスカのランタンの光に惹かれたのか、進路に姿を現したのは、鷲鼻に小人のような身長と体格、だが手や顔はゴツゴツとしており、腰みのと棍棒だけの緑色の亜人の魔物ゴブリンが姿を現した。


『グギャッ!?』

『『グルルルルッ!』』


 レスカの護衛であるオルトロスのペロが唸り声を上げて、威嚇するが魔物として知能の低いゴブリンはそのまま棍棒を振り上げてこちらに襲い掛かろうとする。

 俺は、リーチの長い木刀でランドバードの上から頭を叩き、駆け抜けるように算段を付けていたが、更に予想外のことが目の前で起きる。


 叫びを上げ、振り上げた棍棒が真上からひょいっ、と取り上げられたのだ。

 何が起ったのか確認するために視線を上に上げれば、木の枝がゴブリンの棍棒を奪い取ったのだ。


『グギャァァァッ――!』


 そして、次の瞬間、地面から生える木の根がゴブリンの胴体や足首に巻き付き、トレントの駆け抜けた跡から退けるように引き摺られ、暗い魔の森の奥に消えていく。


「「…………」」


 その光景に絶句する俺とレスカだが、まだ事態はまだ終わらない。

 俺たちの周囲にいる木々が全て騒めき出し、木の幹が窪み、人の顔のような形を浮かび上がらせる。


『『『オ、オオオオオッ――』』』

「くっ、囲まれていたのか!」


 俺は、ランドバードの上から木刀を構え、トレントたちと対峙するが襲ってくる様子はない。むしろ、先に進め、と言うように枝先をトレントの駆け抜けた先を指し示す。


「えっと、あと少しで辿り着く。ってことでいいんでしょうか?」


 レスカの質問に、呻き声のよう声を上げるトレントだが、木の幹全体を使って、肯定のように体を揺する。


「コータスさん、ジニーちゃんとヒビキさんを迎えに行きましょう!」

「あ、ああ、分かった」


 俺より順応力の高いレスカに促されて、先に進む。

 トレントたちの案内で辿り着いた先には、夜の空の中で一際目立つ炎の明るさとそれを取り囲むようにして作られるトレントの生身の防壁。

 そして、そのトレントの防壁の周囲に積み重なるように集まる様々な魔物の死体だ。


「ゴブリン、コボルト、オーク、それに肉食系の魔物が多いです」


トレントたちが必死で守る何かを奪い取るために、亜人系や肉食系の魔物が押し寄せている中で、俺たちが通ろうとする先でトレントの防壁が左右に分かれていく。

そして、中では、トレントの苦手な炎が煌々と焚かれ、一定の距離を取られるジニーとヒビキの姿が見えた。


「ジニー! ヒビキ!」

「あっ、コータス兄ちゃん、レスカ姉ちゃん」

「遅いじゃない。これ私たちじゃ、全部食べられないから食べるの手伝ってよ!」


 そう、炎を囲むように大きな葉っぱに乗せられた大量の果実や木の実、キノコなどを木の串に刺して炙り、頬張っているジニーとヒビキの姿に今までの緊張感が全部どこかに行ってしまう。

 それに話に聞いていた卵は、灰色をしており、激しく燃える火柱の中で温められるというよりは、焼き卵でもしているようにしか見えない。本当に孵化させるために必要なのだろうか。


「一体全体、どういうことだ……」


 もう、訳が分からん、と言おうとしたが、言葉が出なかったが、ヒビキの勧めるままに座らされ、果物などを食べ始める。


「わぁ、これ凄いですよ! 魔の森でしか採取できないものです!」

「食べて、大丈夫なのか? このキノコ、怪しい色しているぞ、まぁ【頑健】の加護があるから死にはしないが」


 レスカは艶やかな果物を手に取り、俺はヒビキから押し付けられた怪しいキノコの串焼きを受け取る。

 二人とも火柱を維持するためにこの場から大きく動けないが、それでも食べるなどの自由はあるようだ。


「トレントたちが手当たり次第に集めたけど、まぁ案の定、人間が食べられるものとそうじゃないもの区別してなかったけど、ジニーちゃんがちゃんと分けてくれたわ」

「毒の植物やキノコは薬の材料になるから覚えている。それ以外も一応知ってる」


 薬屋の孫で高名な冒険者夫婦の娘であるジニーは、体力面は年相応だが、知識面は非常に充実しており、その言葉を信じ、焼きキノコを食べるが、芳醇な香りが口に広がり、鼻から抜けていく。


 心なしか、体に活力が漲るような気がしてきた。


「意外と旨いな。このキノコってなんて種類のなんだ?」

「それは、紫笠茸。精力剤の原料になる食用可能なキノコ」

「ぶふっ……ごほごほっ!」


 ジニーの、年端もいかない少女が口にするとは思わなかった言葉に思わず咳き込んでしまう。


「大丈夫。それ単体だとちょっと体力回復するキノコだから」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「あたしは、厳然たる事実を口にしただけ、恥ずかしいことはなにもないよ」


 そう言って、別の焼きキノコを食べるジニーにヒビキが俺の反応を見て笑い、レスカが顔を真っ赤にして固まっている。

 ジニーは、ませていることが分かり、俺は深い溜息を吐き出す。


 そしてこんな魔の森の中心、魔物に囲まれて和やかな雰囲気など本来はあり得ないが、恐れていたことが遂に起きた。


『アオォォォォン!』

「狼の遠吠え!?」


 俺はすぐさま立ち上がり、武器であるマチェットを構える。そして、直後トレントの防壁と飛び越えてくる狼に乗った緑色の体の人型が地面に転がるようにして着地してくる。


『『グルルルルッ』』


 魔犬のオルトロスであるペロが警戒の唸り声をあげ、騎乗していた狼から投げ出された緑色の人型が起き上がり、自身の武器を確かめるように素振りをする。

 騎乗していた狼は、トレントの攻撃を受けたのか、腹が裂け、血が溢れ、臓物が千切れて零れ出ている。

 子どものジニーに見せるには早い光景に、レスカがジニーを抱き寄せて隠そうとするが、漂ってくる血の匂いまでは隠せない。


『オデ、クウ。ソレ、クッテ、シンカスル』

「こいつ、人語を喋るのか」


 装備は、人間から奪ったような錆びついた剣にサイズの合わない鎧を纏った筋肉の張った人型。

 身長は、180センチを超えて近寄れば見上げるような格好になる緑色の人型の頭には角が生えていた。


「ゴブリンの上位種。ゴブリンジェネラルか」

「オデ、ソレヲクッテチカラ、タメル。シンカシテ、キング、ナル」


 篝火の中の卵を見つめながら片言の言葉を喋る亜人系の魔物に俺は、視界を遮るように飛び出す。


「悪いが、キングにまで進化されては人間の災害になる。この場で倒させてもらう」


 ゴブリンジェネラルは、単独でCランク。トレントの壁を突破できないコイツより下位のゴブリンたちが居ない今が倒すチャンスだ。


「コータス、私も戦うわ」

「ヒビキは、レスカとジニーを守れ! それに魔法を放てば、奴の背後にあるトレントに当たる可能性がある! そうなったら、食い止めている魔物が入り込む可能性があるぞ!」


 俺の言葉に息を呑むのを感じ、互い、ゴブリンジェネラルと対峙する。


「いくぞ! ――《デミ・マテリアーム》!」

「ジャマスルナ!」


 人間から奪った大剣だろうか、錆びており、刃毀れが酷いが、それでも重量のある武器であるために叩き斬ることはできる。

 そんな剣戟に対して俺は、身体強化の固有魔法を使い回避を続ける。

 確かに亜人系の魔物は、人としての動きと魔物としての身体能力の高さがある。だが親父や師匠たちの元冒険者の騎士たちに比べれば、ただ闇雲に振るっている攻撃は避けるのはたやすい。

 そして、大振りの攻撃を合間にゴブリンジェネラルの腕や足、脇腹などの体を傷つけていくが、致命傷に至らせるには、急所を狙わなければならない。


「流石に元々が農具じゃ倒せないか」

「ナゼダ、ナゼ、アタラヌ!」


 より剣を振るう速度を上げるが、太刀筋や振り方は変わらないために、身体強化の魔法で上がっている俺の速度や知覚能力で容易に対処できる。

 このまま相手が限界まで大剣を振り回して息切れしたところで急所を狙えばいいと思ったが、魔物の体力で持久戦を仕掛けるほど無意味なことはない。


 だから俺は、マチェットを一度腰ベルトの鞘に納め、背中に背負った特性の圧縮木刀に武器を切り替える。


「バカガ、ソンナボウキレ、ナニニナル」


 こちらを侮り大上段からの振り下ろしをするが、俺はその斬撃を見切り、体を捻る。

 そのまま捻った勢いから全身を使って、捻った勢いを腕の振るう力に乗せて、踏み込み、下から跳ね上げるように木刀を振るい、見上げるゴブリンジェネラルの顎に全力のスイングを叩き込む。


「まぁ、人型相手には、これが早いな」

「ナニ……ヲ」


 ぐるんと目が回転し、白目を剥いて意識を飛ばすゴブリンジェネラル。

 以前、バルドルとの模擬戦で容易に防がれた死角から振り上げ顎を狙う一撃だ。

 自分よりも体格に優れた相手への小手先の技であるが、人間と同じ人型に共通する魔物は、一対一なら割と有効な手段でもある。

 顎を全力で打ち抜かれ、脳が揺れることによる脳震盪は、どんなに立派な体躯で筋肉の鎧を身に纏っても脳や内臓などの内部は鍛えられない。


 そして、倒れたゴブリンジェネラルに止めを刺すためにマチェットを引き抜くがその前に、地面より伸びたトレントの木の根が首を圧し折り、そのまま自身の地面の中に引きずり込んでいく。

 後に残ったのは、使っていた手入れのされていない大剣だけが残っている。


「ふぅぅっ……」


 俺は、戦いの後の長い残心をして振り返れば、今の戦いを鑑みる。

 俺自身、新米騎士としてDランク程度の実力しかないが、《デミ・マテリアーム》という身体強化の固有魔法を発現したお陰で、Cランクの魔物までは相手取れるようになった。

 それに、パワーだけならCランク相当のリスティーブルの突撃を耐えたこともあり、発動自体もスムーズに行えた。

 この辺境の町に来て、自分は成長していることを実感できた。


 卵を狙う魔物の脅威が去り、振り返りレスカたちを見ると、その三人の更に後ろに薄ぼんやりと輝く人が存在していた。



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