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1-4

不評な部分を書き直しました。

よろしければ、読んでいただけたらと思います。

「この声、まさか! コータス、備えろ!」


 騎士団の駐在所奥の壁を突き破って何かが現れる。

 突然の出来事に動けなかった俺だが、先任騎士のバルドルが機敏な動きで俺の腕を取り、遠くの柔らかな地面の方に投げ飛ばす。

 綺麗に投げ飛ばす技量は、流石元・近衛騎士団だと感心しながらも、柔らかく耕された地面から受け身を取り、素早く立ち上がる。

 投げ飛ばされた俺に続き、駐在所から頭を守るようにして転がるように飛び出してくるバルドル。


「一体、なにが……」


 その直後、ズンッという鈍い音と共に騎士団の駐在所の壁を崩して一頭の魔物が姿を現す。


「なっ!? 魔物が暴れているのか!?」


 町中で見かけた魔物は、どれもがランクが低く、比較的穏やかな魔物が多く、人間が管理することができ、万が一暴れても簡単に倒すことができるほど弱い。

 だが、目の前の牛の魔物は、それらとは雰囲気がまるで違い、怒気の含んだ雰囲気でこちらに敵意を向けてくる。


「ちっ、その耳のタグとさっきの声は、レスカ嬢ちゃんのところのリスティーブルがまた暴れやがったな!」

「リ、リスティーブル!?」

「ああ、一般人には、Dランクの魔物って言った方が分かりやすいか」


 世界に広く存在する冒険者ギルドが制定した強さを表した指標――それがランクだ。

 その中でDランクとは、同じDランクの冒険者が単独で対処するか、一般人十数人が集まって対処できる強さ、と定義されている。


「やれやれ、昼間から酒でも飲んでサボりたかったのになぁ」

「元・近衛騎士だからって武器を持たずに前に出るのは危ないぞ!」


 ゆったりとした足取りでリスティーブルの正面に立つバルドルは、こちらを振り向かずに片手を上げる。


「大丈夫だ、武器はある」


 バルドルは、騎士団の駐在所の前に畑に突き刺してあったスコップを引き抜き構える。


「農具は、武器じゃないだろ」

「馬鹿野郎、普通の剣を使ったら傷つけすぎて下手すりゃ殺しちまう! あの暴れ牛も一応は、畜産魔物! この町の貴重な財産なんだぞ! 殺すわけにはいかないだろ!」


 殺さずに捕獲するとなると、単純なランク評価より難しいD+にまで難易度が上がる。

 元・近衛騎士団は、人間の限界と言われるBランクの強さとも言われている。

 そして、そんな危険に立ち向かう一流の騎士は――


「――《ブレイブエンハンス》! ほらほら、落ち着け、落ち着け」


 バルドルの体から青いオーラが噴き出し、拡散しないように体の周囲に留まる。

 立派な牛角を振り回し、激しい頭突きで襲い掛かるリスティーブルを、青いオーラを纏うバルドルが人間離れした動きでリスティーブルの攻撃をいなし、ひらりと避けていく。


「これが、近衛騎士の実力か」


 俺のような新米騎士の強さをランクで当てはめるならD-からDランクと評価され、上位の騎士の強さを肌で感じる。

 バルドルの体から吹き出す魔力の多さ、そして、巧みな足裁きと体術でリスティーブルの攻撃を何度もスコップで受け流し続ける。

 そして――


「そろそろ暴れて満足したか? これで終わりだ」

『ヴモォォッ――』


 白地に黒の水玉模様の暴れ牛のは、低い鳴き声で返事をする。

 その声色は、怒気の含んだ激しい鳴き声ではなく、内部に溜まった鬱憤を吐き出すような鳴き声に聞こえた。

 その後、暴れ牛は何度も巨体を上下させて呼吸を整えると、二歩、三歩と後に下がって大人しくなる。

 暴れていた時が嘘のように穏やかな瞳をしており、普通の牛のようにも見える。


「魔物が、大人しくなった?」

「このリスティーブルって魔物は、一定のストレスが溜まると暴れ出すんだ。だから、暴れさせてストレスを発散させれば、大人しくなるんだよ」


 だが、だからといってそのまま放置すれば、町全体に被害が大きくなるからこうやって相手にできる冒険者やバルドルたちが頑張るらしい。まぁ、大抵の冒険者が命懸けで逃げていくが、リスティーブルも調教されており、最低限の手加減はできるらしい、とバルドルが自慢げに語る。


「そうなのか、初めて知った」

「俺もこの牧場町に来て初めて知ったさ。さっきのは受け売りだ」


 そう言って、大人しくなったリスティーブルの背中をペチペチと叩くバルドル。

 それを無視して、近くの地面に生えている草を食べ始めるリスティーブルは、本当に安全なのだろうか、と訝しげに見つめる。


「うちのリスティーブルが迷惑掛けました。大丈夫ですか?」


 そして、リスティーブルを見る俺たちの背後から掛けられた声に振り返る。

 薄桃色の髪を革紐の髪留めで頭の左右に結び、肩甲骨あたりまで後ろ髪をそのまま背中の方に流した少女が申し訳なさそうに声を掛けてくる。

 地味目な色合いのロングワンピースに無骨なベルト、頑丈に編み込まれたブーツを履いた少女は、洒落っ気の少ない牧場仕事を重視の簡素な服装をしている。


「レスカ嬢ちゃん、今大人しくなったところだ」


 バルドルの言葉と聞いて、ほっと胸をなでおろす少女。


「ありがとうございます。暴れる前なら私でも抑えられるんですけど、一度暴れると手を付けられなくて……」


 困ったような表情を作る少女だが、一般人は単独でDランクの魔物を押さえ込もうとは思わないだろ、と表情を変えず、内心ツッコミを入れる。

 それともこの魔物牧場の町では普通のことなのだろうか、と想像して正常な判断が付かない。

 そんな俺は、険しい表情で少女を見詰めていたために、少女が俺に気がつく。

 これまでの経験上、目付きの悪い俺が見つめれば、怯えさせてしまう。そう思って失敗したように思ったが――


「あれ……まさか、うちの子が冒険者の方に怪我をさせたんじゃ!?」

「いや、俺がリスティーブルを相手にするために邪魔だから投げたんだ。まぁ、耕したばかりの土だから柔らかくて怪我はないだろ」

「怪我はない。ただ服が汚れただけだ。それもバルドルのせいで」


 振り返るバルドルの言葉に俺は、服に付いた土を手で払いながら答える。

 俺の言葉に安堵の吐息を漏らす少女に俺は自己紹介をする。


「俺は、本日より辺境警備に所属することになった新米騎士のコータスだ」


 俺の自己紹介にしっかりと目を合わせる少女は、俺の顔を怖がらずに真っ直ぐに見つめ返してくる。

 そして、二度ほど深呼吸を繰り返し、少女が自己紹介をする。


「私はレスカと言います。この牧場町で魔物牧場の一つを経営している調教師です」


 丁寧な口調だが、意志の強さを感じる少女の自己紹介を受けて、少し意外に思った。

 俺と年がそう変わらないために、どこかの牧場の娘かと思ったら、意外にもレスカは魔物牧場の牧場主だった。

 レスカは、微笑みを浮かべて、俺の名前を呼ぶ。


「それじゃあ、この町をよろしくお願いします。左遷騎士のコータスさん」


 一応新米騎士と言ったが、この町に来る騎士はみんな左遷という認識なんだな、と理解して内心、微苦笑を浮かべる。

 これが左遷騎士の俺と魔物牧場の娘のレスカとの最初の出会いだ。




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