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3-2


 そんな飄々としたヒビキに今まで不審者のような目を向けていたジニーは、尊敬の眼差しを向けている。


「魔法が使える? そんなの聞いてないぞ」

「だって言ってないもん。奥の手は隠すものじゃない?」


 そう言って、ヒビキは掌にジニーと同じように炎を生み出す。だが、その炎は、寒々しい青い色をした炎に不思議な魅力と怖さがあった。

 俺たちがヒビキを最初警戒したように、実はヒビキも最初からこちらを警戒していたのかもしれない。

 そして、ヒビキは手を振り、青い炎を消した。


「どうかな? 私の魔法の考えは?」

「……百歩譲ろう。だけど、想像や空想が魔法になるのなら、何故全ての魔法には階級が存在し、難しさの程度に差がある?」

「それは、物理法則に則って行われた方が楽だからでしょ? 今あるルールの中で魔法を操るんだから、それは楽に動かせるわよ。でも、それを捻じ曲げようとすれば、大きな力が必要になり、難しくなる。そう言うことじゃないかしら?」


 ヒビキの言う物理法則、という物に俺もジニーも理解が及ばずに唖然とする。


「まぁ、物事の現象をただ真似るより、何故そうなるのか、科学的に理解して魔法を使った方が楽。ってことよ」


 そこまで説明したヒビキに対して、訳が分からないまでもその自信に満ちた様子に説得力のような物を感じる。

 だが、今までの俺の中の常識として問わねばならない。


「なら、俺が今まで学んできた。必死で覚えた身体強化の魔法は、無意味だって言うのか!?」

「それはちょっと違うんじゃない。理解を深めれば更に魔法は強くなると思うし、魔力の操作ってやつは、一朝一夕で身に付くものじゃないでしょ……」


 確かに、スムーズに体内の魔力を移動させ、循環させ、常人程度しかない魔力を無駄なく使う小技は、短時間では覚えられない。

 だが、ヒビキに論破され、自分の魔法の常識が崩された俺にジニーを教える資格があるのか、今迷っている。


 そんな俺を見透かすようにヒビキが一つの提案をして来る。


「ねぇ、ジニーちゃんを私にちょうだい」

「はぁ?」

「だって、あんたに預けておくと駄目そうな気がしたからね。だから、ジニーちゃんを冒険者にする役目は私に譲ってちょうだい」

「それはできない相談だ」


 保護者であるリア婆さんに認められたし、暴発の危険性もあるんだ。怪我をしてもすぐに回復する俺以外には任せられない。


「なら、勝負しましょう。ジニーちゃんを賭けた勝負。あなたはその木刀で私に一撃入れる。私は、あなたに魔法を当てる。そうね。10発当てればいいかしら?」


 ヒビキは、部屋の窓枠に足を掛けて取り出していく。

 その際に、ふわっと体が浮き、ゆっくりとこちらに移動してくる。


「火の次は、風の浮遊!?」

「まぁね。本当は、重力操作でやりたいんだけど、そっちは、魔力操作が難しくて断念したわ」

「重力操作?」


 そう言って、俺の目の前に降り立つ。


「それじゃあ、始めましょう! 手加減はしてあげるから」

「ちょっと待て!」

「待たないわ!」


 俺が辞めさせようと声を掛けるが、ヒビキは静止を振り切り両手を振るう。

その動きに合わせてヒビキの背後には、20を超える土の塊が生み出され、それが一斉に俺を狙ってくる。


「くそっ! はぁ!」


 次々と襲ってくる土の塊を木刀を振るい叩き落とすが、呆気なく崩れて地面に落ちていく。

 犯罪者ならこんな殺傷能力のない生温い魔法は使わないために、本当にただの勝負なのだろう。

 本当は、ジニーはヒビキに魔法を教わる方が良いのかもしれない。だが、俺も負ける訳にはいかない。


「――《オーラ》!」


 基本的な身体強化の魔法を使い、真っ直ぐに放たれる土の塊を避け、一気に迫る。


「ふふん。甘い甘い」


 そう言うヒビキは、今度は、腕を縦に振り下ろすと足元の地面が沈み、落とし穴になる。

 俺はそのまま膝下までの小さな穴に足を取られ、地面に倒れ込む。

 勢いよく落とし穴に嵌ったためが、《オーラ》を纏っていたために、怪我や痛みはない。だが、動きを止めた俺に再び土の塊が放たれ、地面を転がるようにして避ける。


「まるでスタントマンじゃない! よくあんな動きできるわね」

「倒れたところに追撃するのは基本だからな。すぐに回避できるように動くものだ」


 親父や仲間の冒険者たちから徹底的に扱かれてきた。生存能力重視で叩き込まれてきたから並の騎士や冒険者よりしぶといつもりだ。


「それじゃあ、これは、避けられるかしら!」


 両手を前に突き出して、掌を握るように動かすと俺の足元の地面が大きく蠢き、地面が割れる。


「なっ!?」

「コータス兄ちゃん!?」


 流石に足場のない場所で避けることができない俺は、受け身を取ろうとするが、その前に退いた土が俺を左右から捕まえるように押し寄せてくる。

 木刀で弾くには質量が足りず、更に、土の塊とは違い、液体のような流動性を持って俺を包み込むために叩き付けられる衝撃はなく、俺の体は拘束されてしまう。

 そして、でき上がるのは、俺の首から下が全て土に包まれた球体の土団子の完成だ。

 それを地面の空いた穴の場所に嵌め込むように下ろせば、首から下が地面に埋まったような状態になる。


「勝手に始めた勝負で私は、10発、土の塊をコータスに当てて勝つつもりだけどどうする?」

「俺の負けだ。だけど、ジニーに関してはジニーの自主性を尊重してやってくれ」

「分かったわ」


 俺が負けを認めたことで土の拘束から解放され、地面から土だらけの体を引き摺り出す。


「酷い目にあった」

「コータスはごめんね。でも、私の知識だとコータスの魔法の教え方は間違いとも言えないけど、正しいとも言えないから」

「それは、どういう――『コータス兄ちゃん、大丈夫か!』――」


 どういうことだ。と尋ねようとしたところ。ジニーに遮られ俺は、大丈夫だ、と伝えるためにその頭を撫でようとしたが、土塗れの体で撫でたら汚れてしまう、と思い言葉にする。


「大丈夫だ。だけど、これではっきりしたな。俺なんかより魔法が上手い人間が現れた。学ぶならちょうどいいかもな」

「そうよ。ジニーちゃん。これからは私のことをお姉ちゃんでもお姉様や姉様って呼んでもいいのよ」

「えっと……」


 困ったように俺とヒビキを交互に見比べるジニー。


「その、あたしは、コータス兄ちゃんに剣術を続けて教わりたい。それで魔法は、ヒビキ先生に教えてもらいたい……」

「きゃぁぁぁっ!」


 恥ずかしそうに答える言葉に、感動したヒビキは、そのままジニーに抱き付く。


「デレ期よ、デレ期! ツンツンしていたジニーちゃんが私、先生って言ってデレてくれたわぁ!」

「うぐっ、苦しい離れろ、変態!」


 首を抱き締められて苦しそうにするジニーだが、頬擦りを止めないヒビキ。


「コータスさん、ジニーちゃん、朝ごはん……ってなんですか、これは!?」


 しばらくして、朝食に呼びに来たレスカが縁側の前の地面を見て驚きの声を上げる。

 土が周囲に散乱し、地面には穴が開き、俺は土塗れ、ヒビキはジニーに抱き付き頬擦りをして、それから逃げ出そうとする。

 その後、俺とヒビキは、揃ってレスカに正座をさせられて説教をされる。


「いいですか! 魔法のお勉強をするなとは言いませんけど、戦って牧場の土地を荒らさないでください!」

「すまなかった」

「ご、ごめんなさい」


 原因である俺とヒビキが謝り、ジニーがレスカを嗜める。


「あ、あたしが悪いんだよ。魔法を教えて貰ったりして……」

「ジニーちゃん……」


 ふぅ、と長い溜息を吐き出すレスカ。


「コータスさんは、今から湯屋に行って体を洗って来てください。ヒビキさんは、地面を元に戻してください。魔物たちの足が穴に嵌って怪我しちゃいます」

「わかった。行ってくる」

「お姉ちゃんに任せなさい!」


 ぐっ、と袖を捲り、力瘤を見せるようなポーズを取るがレスカの寒気を感じる微笑みにその勢いは消沈して黙々と地面を直す。


 俺も着替えを持って朝一番に風呂に入りさっぱりとしたところでレスカの牧場に戻り、朝食の席に着いた。



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