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2-3


 ウノハナ・ヒビキ。いや、彼女の正確な名前は、ヒビキ・ウノハナらしい。

 そんな魔の森の遭難者で不審者な自称ジェーケーと言っている人間と食事しながら話をするのだが――


「おいしいわ! これ、レスカちゃんが作ったの? あなた良いお嫁さんになるわ」

「あはははっ、ありがとうございます。ヒビキさん」

「そんな他人行儀な呼び方しないでヒビキお姉さんって呼んでちょうだい。あなたみたいな可愛い義妹が欲しかったのよ。あっ、勿論、ジニーちゃんも私の義妹よ!」

「あたしは、不審者の妹になった覚えはない」

「もぅ、ツンツンしちゃって可愛いんだから」

「離れろ! 近寄ってくるな変質者!」


 遭難者で不審者な変質者であるヒビキは、ジニーにジリジリと寄って来る賑やかな朝食の席。

 とりあえず、睨みを利かせる俺だが、このヒビキという女には、俺の目付きの悪さは利かないようだ。


「ふぅ、ご馳走様。三日ぶりのまともな食事よ」

「つまり、三日間遭難していたことになるのか。色々とヒビキの話を聞かせてもらいたい」

「いいわよ。性別、年齢、出身地、好きな物なんでもござれよ! あっ、だけど体重とスリーサイズは、秘密よ」

「その秘密にしている部分はいらないが、とりあえず、概要を教えてくれ」

「あなた真面目ねぇ。面白みがないわ」


 俺は、紙とペンを持ち出しヒビキの事情を聞き出す。


「それじゃあ、改めまして。私は、ヒビキ・ウノハナでいいのよね。年齢は17歳。出身地は、あー、一応、日本ね。まぁ色んな呼び方があるけど、あと好きな物は――「それはいらん」――そう」


 つまらなそうに唇を尖らせるヒビキだが、俺としてはヒビキの今までの言動で幾つか気になる部分がある。


「そのだな。家名があると言うことは、それなりの家なのか? 例えば、貴族位を持つ家庭とか」


 その場合、年頃の貴族の令嬢が魔の森で遭難していたことになる。そうなれば大問題だが、貴族令嬢らしい雰囲気は感じられない。そして、現に、ヒビキの言葉からそれは否定された。


「私の出身地だとみんな家名と言うか名字があるのよ。私の場合は、一般家庭よ」

「そうか、ニホンという国は聞いたことがないな。それとジェーケーというのは何かの職業や役職なのか? 薄学ですまんが」

「JKは、女子高生って意味よ。常識的に考えて」

「すまん。ヒビキの常識と俺の常識は違うみたいだ」

「まぁ簡単に言っちゃえば、女の子の学生ってことね。こっちにも学校ある?」


 小首を傾げながら尋ねてくるヒビキの様子に俺は、頷く。


「ああ、騎士学校や魔法学校、他にも貴族が通う高等学校や専門研究を行う大学校などある」

「そっかぁ、騎士とか魔法とかやっぱりファンタジーかぁ」


 若干遠い目をするヒビキに俺たちは不思議そうな目を向けるが、なんでもない、と明るく振る舞う。


「つまりヒビキは他国の学生であると、それが何故、このアラド王国の領土内の魔の森で遭難していたんだ?」

「あー、えー、その……話す必要ある?」

「流石にこれは話してもらわないと困る」


 俺の視線を受けて、飄々とした態度で何とか誤魔化せないか悩んでいた様子だが、しばらくして諦めたようだ。


「なんというか、捨てられた?」

「捨てられた?」

「その、私と一緒に居た知り合い……とも言いたくないわね。顔見知りとも違うし、そう! 居合わせただけの人に巻き込まれて連れてこられたのよ! そしたら、私は要らないからって森の中に捨てられてずっと歩いて、化け物と出会うし、空から隕石が降って来て森が慌ただしくなるし、でもう大変だったわよ!」


 その話を聞いて俺は、動きを止める。

 巻き込まれ? 不要だから魔の森に捨てられた、だと……


なんと言うことだ、他国の学生が誘拐されるという犯罪行為に巻き込まれて、不要だからと命の保証すらない魔の森に捨てるなど、人道としてあり得ない行為だ。

そのような下劣な行いをした人間たちが存在することに、怒りと嫌悪感を覚え知らず知らずのうちに拳に力を込めて、ペンを折ってしまう。


「ちょ、ちょっとあんた落ち着きなさい。私は平気だから」

「そうですよ。コータスさん、落ち着きましょう」


 目付きの悪い俺が更に目付きが悪くなっているので飄々としていたヒビキも若干怯えており、レスカがペンを握り締めた俺の手をそっと開いてくれる。

 我に返れば、ジニーはペロを抱きしめて微かに震えを耐えていた。


「すまない。感情的になってしまった」

「あんたが代わりに怒ってくれるのは嬉しいんだけど、私としても一緒に巻き込んだ奴のことは大っ嫌いだし、私を捨てた奴らも嫌いよ。森の中を彷徨う間に何度も殺意が湧いた。でも、大っ嫌いな奴らと離れられて清々しているの」

「そうか……なら、こちらも元の国、元の生活に戻れるように計らってみよう」

「あー、そういうのいいから。別に私は、元の国に名残がない訳じゃないけど、積極的に戻りたいとも思わないし……まぁ、化粧品とかスキンケア商品とかが補充できないのは痛いかなぁ。あとお菓子とか……」


 そう言って、望郷の思いから遠い目をするヒビキ。

 国にいい思い出がないのだろうか。だが、そうした部分は、個人の踏み込まれたくない問題だったりするので尋ねることを控える。


「一応、このことは、俺の上司の騎士に相談してみる」

「うん。できれば、こっちの世界で暮らしていける基盤とか欲しいからよろしくねぇ~」


 そう言って、ヒラヒラと手を振るヒビキ。


「ヒビキさん、しばらくは私の牧場で過ごしてください。まだ部屋が空いてますから」

「ありがとう、レスカちゃん! 流石、私の義妹よ! お姉さん嬉しいわ」

「ちょっと、ヒビキさん! 私と同い年だから! 妹じゃないですよ!」


 珍しく声を荒げるレスカだが、それも余計にヒビキの心を擽ったのはより強いハグを受けて顔を赤くしている。

 ヒビキの言葉に少し言い回しが気になる所があるが、今までの生活基盤を失った少女だ。とりあえず、荷物はしばらく預かったままで様子を見ることにしよう。

 罪を犯す人間の雰囲気もない、善良な、だけどちょっと変人な部分は文化的な違いなのだろうか。と真剣に悩んでしまう。


「しばらくはレスカの牧場で過ごすのはいいが、今は町が少し慌ただしい落ち着いてからにして欲しいんだ」

「うん? 何かあったの?」

「森にいたんなら様子が分かるかもしれないが、あの魔の森に流れ星が落ちたんだ。その影響がどんな風に作用するのかまるで分からず、警戒態勢を敷いているんだ」

「あー、確かにいきなり隕石が降って来てビックリしたわ。化け物じゃなくて、魔物? が騒いでいたし、私にも襲い掛かって来たわ」

「そうか、魔物たちも恐慌状態に陥ったのか。そのまま同士討ちして、逃げて来た魔物が町の方に来ないといいんだが……」

「うーん。それはないんじゃない?」


 そう言って、悩むような素振りを見せるヒビキに俺たちは不思議そうに首を傾げる。


「何故そう思う?」

「だって、私が始末したわよ。私の進行方向の邪魔した奴ら全部」

「……お前、何をやっているんだ」


 そう言えば、森の中から抜け出した時、土や泥以外にも赤黒い汚れがあったが、あれは本人じゃなくて魔物の返り血か。


「まぁ、いいじゃない。町は平和何だし。逃げた奴らも町とは反対方向だったわけだし」


 そんなお気楽な、とこめかみに指を押し当てて悩む。

 だが、ヒビキの狂言の可能性もある。どう見たってこれまで戦って来た人間の筋肉の着き方をしていない。

それに警戒を怠ることはできないので、最低限の警戒を続ける時間と言うのもある。

 その後で報告し、魔の森の調査を依頼する冒険者たちに事実確認をお願いする必要がありそうだ。


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